ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」「ディアブロ IV」「FINAL FANTASY XVI」……と、注目タイトルが立て続けに発売されている。ゲームだけでも人の余剰時間に対してコンテンツが飽和しているこの時代、クリエイターたちは何を考え、作品を手がけているのだろうか……?

 冒頭の問いに対し、「僕はそもそも余剰時間でやるようなゲームを作っていない」と喝破するのがダンガンロンパシリーズのクリエイターとして知られるゲームディレクター/シナリオライター小高和剛だ。

小高和剛インタビュー:『ダンガンロンパ』が目指したのは“10年後も残るカルトゲーム”_001

[今回のスゴい対談相手]小高和剛

ディレクター/シナリオライター。「ダンガンロンパ」シリーズの原作シナリオを担当。各作品は舞台化、アニメ化されるなど、国内外から高い評価を受ける。そのほか漫画原作、小説執筆など活動は多岐にわたり、2017年にはトゥーキョーゲームスを設立し、代表を務める。最新作「超探偵事件簿 レインコード」が6月30日に発売された。

 そもそもエンタメとは何なのか、真剣に考えたいという思いから始まったこの連載「エンタ飯!〜うまい飯といい話〜」は、イザナギゲームズのCEO・梅田慎介氏が聞き手を務め、エンタメ業界の最前線で戦うトップランナーたちと美味しい料理をご一緒しながら、彼らが考えるクリエイティブの真髄に迫っていく。

 AIで80点の漫画が作れるからこそ、「100点」を見極める人間の価値が高くなる──編集者佐渡島庸平氏を招いた前回は金言の数々で「物語づくり」について深く考えさせられたが、今回はゲストにゲームディレクター/シナリオライター小高和剛氏を迎えた。

代表作の「ダンガンロンパ」シリーズを見ても分かる通り、「狂気的にこだわりがあるマッドサイエンティストみたいな人」と梅田氏はその印象を語るが、ふたりは「デスカムトゥルー」「ワールズエンドクラブ」の2本のタイトルで現場を共にしている。

 最新作「超探偵事件簿 レインコード」が発売されたばかりの小高氏の口から出てきたのは、オリジナル作品を夢見て奔走した20代の回顧、「ダンガンロンパ」の制作裏話、最新作レインコードと小高作品の根底にある“作法”、そしてAI活用を含めたゲーム業界の現在……と多岐に渡った。

 仕事終わりの夕暮れ時、門前仲町の人気居酒屋「地獄豆富 みはな」に集ったふたり。「激辛!地獄豆冨」などの名物に舌鼓を打ちながら思い出話にも花が咲き、気づけば夜も深まっていった。今回は、手がけてきたゲーム同様に“小高ワールド”が炸裂した飲酒対談の一部をお届けする。

聞き手/梅田慎介
取材・文/山崎ヒロト

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小高和剛インタビュー:『ダンガンロンパ』が目指したのは“10年後も残るカルトゲーム”_002
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[今回のウマいお店]地獄豆富 みはな

住所:〒1350047 東京都江東区富岡1-5-10 千歳富岡ビル2F
TEL:03-3642-6889
https://jigokudofumihana.owst.jp
月曜~土曜、祝日、祝前日:17:00~23:00
(料理LO 23:00、ドリンクLO 23:00)
※閉店時間が変更になる場合があります
日曜:定休日


実家暮らしで稼いだトータル金額が200万円以下だった20代

梅田:
 小高さんとは「デスカムトゥルー」と「ワールズエンドクラブ」を一緒に作っていたときに、僕が小高さんと飲むのが好きすぎて、多い時は週3で一緒に飲んでたじゃないですか。

小高:
 そんなに飲んでました(笑)?

梅田:
 飲んでましたよ!(笑)でも、コロナ禍でめっきり飲まなくなった。なので久しぶりにまた飲みたいなと思っていたんです。あのときは、飲みだけじゃなくて、BitSummit【※】などにも一緒に行きましたし。

BitSummit 毎年京都で開催されている日本最大級のインディーゲームの祭典。

小高:
 ずっとどうでもいい話をしてましたね。

梅田:
 そう、超くだらない話(笑)。打越(鋼太郎)さん【※】と話していても、真面目な話はほとんどなかったです。小高さんは日本芸術大学出身で映画の勉強をされていたそうですけど、卒業して20代の間はどんな感じで過ごしていたのか気になります。

※「Ever17」や「極限脱出」シリーズで知られるシナリオライター。小高氏らと共にトゥーキョーゲームスを設立した

小高:
 大学の教授の紹介で就職したのがカプコン子会社フラグシップで、深作欣二さんがムービーディレクターをしていたクロックタワー3【※】というゲームを作ったんです。月給はたしか13万円。本当に朝8時からスタートして次の日の夕方ぐらいに終わる、30時間ぐらいずーっと撮影する現場だったんで、時給換算したら100円に満たない。

※2002年発売のPlayStation2用のアクションアドベンチャーゲーム。モーションキャプチャーによるCGムービーパートの監督を深作欣二が務めた

梅田:
 すごいですね……。

小高:
 これはキツい現場だなと思って会社は1年ぐらいで辞めちゃったんです。そこからバイトしながら自主制作映画を撮ろうと思っていたんですけど、そんなに金も貯まんないし、バイトしてても友だちと遊んだりしてダラダラと時間が過ぎていくだけで……。

梅田:
 たしかそのバイトがゲーム関連だったんですよね?

小高:
 そうですね。でも全然映画が撮れないし、ちょっと自分なにやってるんだろう……となって。いろいろとバイトを転々としたんですけど、深作さんの現場で一緒だった同僚からちょっと手伝ってほしいと言われまして。それがゲームのシナリオの仕事だったんです。ゲーム好きだったから全然やるよ、と。そのシナリオがけっこう評判良くて定期的に受けるようになっていって、ここまで自由にできるんだったら別に映画にこだわる必要はないなと思いました。とはいえ、年に何本もやれないので、年収は3桁にいかないまま実家暮らしでずっと続けていましたね。

小高和剛インタビュー:『ダンガンロンパ』が目指したのは“10年後も残るカルトゲーム”_004
[今回のウマいごはん]名物の「激辛!地獄豆冨」が人気な門前仲町の居酒屋・みはな。「ナンちゃってピザ」(上写真)「ハバネロポテト」といった変わりダネから、「自家製つくね」「地鶏唐揚」などの定番まで、どれもお酒がすすむメニューばかり。

梅田:
 小高さんが20代のときに稼いだ合計金額が200万円に満たなかったという話は聞いたことがあります。

小高:
 そうですね。ただ、お金もそうですけど、やるんだったらオリジナルが作れそうなゲーム会社に就職しようと思って、いろいろと受けました。で、当時のスパイク(現・スパイク・チュンソフト)に受かったので、いっぱいゲームを作ってる会社だし、入っちゃおうと。それが29歳ぐらいのころです。

梅田:
 スパイクに入って名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵」【※】はすぐ担当できたんですか?

※2009年発売。有名漫画のクロスオーバー作品としての話題性だけでなく、全7章で構成されるシナリオをはじめそのクオリティも評価されている

小高:
 外から見たら分からないんですけど、当時のスパイクは内製の開発部隊が基本的に外部の会社からの受託案件を作っていた。で、社内のプロデューサーたちはよその開発会社を使ってオリジナルを作っていたんです。

梅田:
 なるほど。

小高:
 最初はドラゴンボールのゲームのシナリオを半年ぐらいやって。その後にバンダイナムコのほうから「『コナン&金田一』というゲームを作っているんだけど、誰かシナリオを書ける人がいるんだったらスパイクさんに任せますよ」みたいな流れになったらしくて。「やります!」と即答しました。

梅田:
 めっちゃ運がいいですね。

小高:
 ラッキーでしたね。というか、どの程度シナリオが書けるか分からないのに、よく任せたな、と。

梅田:
 それが30歳ぐらいですか?

小高:
 発売されたのがちょうど30歳ぐらい。そのプロジェクトが終わったころに、当時スパイクにいたプロデューサーの寺澤(善徳)さんに「オリジナルが作りたいんです」と伝えて。寺澤さんもタバコを吸っていたので、喫煙所で接近したんです(笑)。そこから信頼を勝ち取って、「じゃあ、オリジナルの企画があったら見せてよ」と言われて、「ダンガンロンパ」の企画を出したという流れですね。

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予算がないプロジェクトこそ不条理ネタをねじ込めるチャンス

梅田:
 企画書を寺澤さんに見せた瞬間は「これすげえな!」となったんですか?

小高:
 寺澤さんに見せるまでに、開発の人間で精査していたんですけど、その段階ではイマイチで。なんか詰まっちゃって、自宅のベランダでタバコを吸っていたときに、ダンガンロンパ」のアイデアが急に浮かんできたんです。まさに雷に打たれる、みたいな。あんなにビビっときたのはあのときが最初で最後ですね。

梅田:
 その雷が落ちてきたようなアイデアはどの部分なんですか?

小高:
 いや、推理モノと「バトルロワイヤル」の掛け合わせですね。デスゲーム的な環境で高校生同士が閉じ込められて、殺し合って、推理するのは面白いかもしれない……という。それまで人狼っぽいゲームも考えたりしていたので、その辺のピースが集まった感じです。

梅田:
 言葉を弾丸にして当てるというゲーム性は後からですか?

小高:
 それは全然後ですね。最初の企画書にはありませんでした。でも、会社全体の企画会議の場では「残酷すぎる」「いじめを助長する」とすごく散々な扱いでした。ただ僕は正直スパイクで通らなくても外部に出せばいいかな、もっと言えば会社を辞めて作ればいいかなぐらいに思っていたので、覚悟を持って櫻井(光俊)社長に見せに行きました。そこで「どうしても作りたいんです!」と言ったら、「いいよ」ってあっさり言われて開発がGOになりました(笑)。当然予算はなくて、10人未満で1年ぐらいで作るみたいな計画でした。

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梅田:
 その条件であのクオリティはすごいですよね。

小高:
 予算はたぶん1億円ぐらいですよ。当時はPSPでアドベンチャーゲームが売れてなかったんです。DSでもアドベンチャーゲームにちょっと陰りが見えてるときでした。だから、まあ売れても5万本ぐらいかな……とみんな思っていたんですけど、結果的には全世界でシリーズ累計650万本以上売れているので、櫻井社長の見る目があったんじゃないですかね。

梅田:
 僕が一緒にゲームを作っているなかで、小高さんのディレクションで「それ、ユーザーはあんまりこだわらないから」とか「ユーザーはそこまで見てないから」という言葉が印象的で。結局ディレクションって、こだわるところを全部こだわればいいんじゃなくて、こだわらない部分を言ってあげることのほうがディレクションだな、と。

小高:
 僕というユーザー目線なんですよ。僕がものを作るときは「自分がユーザーだったらこう思う」というものを全部優先させていて。単純にプレーヤーの感覚で「このモーションはおかしい」とか「これじゃあちょっとかったるい」とかは言える、みたいな。

梅田:
 でも、その感覚が一番大事ですからね。「ダンガンロンパ」もけっきょく予算が少ないことを逆手に取ってるなと思うことがあって。マイナスなことを全部つなげて表現として面白くすることで、ユーザーがちゃんと楽しめるように仕上げるじゃないですか。

小高:
 もともとデイヴィッドリンチの映画とか、アニメの少女革命ウテナとか、ゲームでいうとグラスホッパー・マニファクチュア【※】タイトルとか、ああいう不条理なものが好きなんですよ。急に「なんだこれ?」みたいなものが入っちゃうほうが好き。予算がないときのほうがそういう不条理ネタをねじ込めるチャンスだな、と。

グラスホッパー・マニファクチュア
カルト的な人気を誇るビデオゲームスタジオ。代表作は「シルバー事件」「killer7」「シャドウ オブ ザ ダムド」「解放少女」「ノーモア★ヒーローズ」など

梅田:
 なるほど。

小高:
 予算がないほうがむしろチャンスですよ。「これは不条理チャンスだぞ!」と機会を常にうかがっているので(笑)。

梅田:
 不条理チャンス(笑)。

小高:
 「ダンガンロンパ」を作っているときにスタッフたちで言っていたのは、「売れないかもしれないけど、10年後も残るカルトゲームを作ろう」と。売る側の人たちは売れるかどうかで動いていて、そこに対して僕らも売れますよと言いますけど、作っている側からすれば自分が思う“面白い”ができればいいや、みたいな。

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