22年3月には87兆円に達した「コロナオペ」の残高の回収が完了したことなどが影響し、マネタリーベースは前月比5.7兆円減少しました。マネーストックの伸び率をみると、NISAなどの積み立て投資の普及や日本株の上昇期待などを受けて、投資信託への資金流入が大きく伸びています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が、貸し出し動向・マネタリーベースマネーストックの概況について解説します。

1.貸出動向:堅調な伸びが継続、貸出金利は伸び悩み

(貸出残高)

7月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、6月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.48%と約2年ぶりの高い伸びを示した前月(同3.74%)からやや低下した(図表1)。

ただし、低下については比較対象である前年6月に伸び率が大きく上昇した反動が出た面があるほか、伸び率自体は高い水準を維持している。業態別では、地銀(第2地銀を含む)の伸びが同3.56%(前月は3.54%)とほぼ横ばいであったが、都銀の伸びが前年比3.38%(前月は3.99%)と大きく低下している(図表2)。既述の通り、前年6月に伸びが急伸した反動が出た。

経済活動再開に伴う運転・設備資金需要のほか、原材料・燃料価格高騰(による仕入れコスト増)に伴う資金需要やM&A向け、不動産向けの資金需要などが複合的に寄与する形で、貸出の堅調な伸びが続いている。

(貸出金利)

なお、5月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.316%(前月は0.429%)、長期(1年以上)が0.857%(前月は0.914%)とともにやや低下した。 当統計は月々の振れが大きいため、移動平均でトレンドを見ると(図表5)、昨年末から今年の年初にかけて、日銀による長期金利の許容上限引き上げを受けてやや水準を切り上げた長期貸出金利が伸び悩んでいる。この間、金融緩和長期化観測によって国債利回りが低下したほか、銀行間の厳しい競争が続いていることが影響しているとみられる。

2.マネタリーベース:国債買入れが平時のレベルに縮小、コロナオペの回収が完了

7月4日に発表された6月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比▲1.0%となり、前月(同▲1.1%)からマイナス幅が若干縮小した(図表6)。マイナス幅の縮小は2カ月連続となる。

マイナス幅縮小の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金のマイナス幅縮小(前月▲1.6%→当月▲1.4%)である。前年の6月にコロナオペの回収が進んだことなどからマネタリーベースの伸びが大きく鈍化した反動が表れたという面が大きく、増勢自体は鈍化している。

実際、6月のマネタリーベースは、前月から5.7兆円(平残)減少しているほか、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても、前月比2.1兆円減となっている(図表9)。

金利上昇圧力が一服したことで、資金供給要因となる長期国債買入れ額が5.8兆円と平時のレベル(緩和縮小観測が台頭していなかった昨年年初までは6兆円前後で推移)に戻ったほか、コロナオペの回収が進んだことがマネタリーベースを押し下げた(図表7)。ピークの22年3月には87兆円に達したコロナオペの残高は、今回ゼロとなり、全ての回収が終わっている。

なお、その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲3.0%(前月は▲3.1%)とマイナス幅を若干縮小している一方で、日銀券発行高の伸びは同1.1%(前月は1.3%)と引き続き低下している(図表6)。

3.マネーストック:市中通貨量は引き続き緩やかに増加、投信が15年ぶりの高い伸びに

7月11日に発表された6月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.58%(前月は2.64%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.06%(前月は2.12%)と、ともにわずかに低下した(図表10)。

今年に入ってからの伸び率は概ね横ばいの動きが続いている。

M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月4.8%→当月4.7%)の伸び率がやや低下、現金通貨(前月1.4%→当月1.2%)、CD(譲渡性預金・前月▲11.2%→当月▲14.1%)の伸びもやや低下したが、準通貨(定期預金など・前月▲1.7%→当月▲1.4%)とのマイナス幅が縮小し、全体の伸び率を支える形となった(図表11・12)。

通貨量は実態として緩やかな増加基調が続いている。既述の通り、銀行貸出は高い伸びとなっており、その分(通貨量にカウントされる)預金が創造されているものの、貿易赤字が続いていることが、預金残高の伸び率抑制を通じて通貨量の伸び率抑制に働いているとみられる。

一方、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比2.56%(前月は2.43%)とやや上昇した(図表10)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがわずかに低下したものの、規模の大きい金銭の信託(前月2.8%→当月3.0%)の伸びが持ち直したほか、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月6.9%→当月9.8%)の伸び率が大きく上昇したことが寄与した(図表12)。

投資信託は後々大幅に改定される傾向があることには留意が必要だが、6月の伸び率は2008年6月以来15年ぶりの高さにあたる。NISAなどでの積み立て投資の普及に加え、日本株の上昇期待や日銀の緩和継続観測などを受けて、投信への資金流入が進んだとみられる。

(写真はイメージです/PIXTA)