夜のお店での付き合いは、お金で割り切るもの。誰もがそう思っていればよいのですが、お金を出しているからこそ、それに物を言わせようとする客がいることも確か。今回は、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、夜のお店での強制わいせつによるトラブルついて、須賀翔紀弁護士に解説していただきました。

入店2ヵ月のキャバ嬢を襲った客に法的制裁がしたい

相談者は、キャバクラで働いて2ヵ月目。指名客が増えるなど、早くも人気キャバ嬢への階段を登り始めています。

先日お客さんと同伴のため、店外での食事に一緒に向かうと、「30分だけドライブに付き合ってほしい。そうでないと食事に行かない」と言われたそうです。

常連だったので、相談者も仕方なく車に乗り込むと、態度を豹変。何度も無理やりキスをしようとしたり、スカートをめくりパンツの中に手を入れようとしたり、執拗に性的な嫌がらせをしてきたといいます。

相談者が怖くて泣いてしまうと、「俺が悪いみたいじゃないか!」と逆上され、泣いている相談者にまたキスしようと頭を掴まれたそうです。怖くて抵抗できない状態の相談者に対し、その常連客は更なる性的な嫌がらせを加えてきたといいます。

相談者が「お店に返してくれないならスタッフに言う」と叫ぶと、ようやく運転し始めたものの、着いたのはホテルの駐車場。

その場はなんとか逃れた相談者ですが、結局、約束した同伴はありませんでした。

事前のLINEでのやり取りでは「そういうことはしない」と言っており、常連客なので相談者も油断してしまった面もあるようです。それ以来、その客とはプツリと音信が途絶えたそうです。

相談者は、自身の危機管理能力のなさに呆れる一方で、本当に悔しくて被害届を出そうかと考えています。相手は収入がある方なので、出方次第では、示談も考えています。

そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。

(1)不同意わいせつとして被害届を出したいが、どんな手続きや証拠が必要か。

(2)示談するとしても、できるだけたくさんお金を取って報復したい。どんな対応が最善か。

不同意わいせつ被害に遭った場合にできること

不同意わいせつとして被害届を出すにはどのような手続や証拠が必要になってくるのでしょうか。

不同意わいせつ被害に遭遇した場合、なるべく早い段階で警察等へ被害の申告を行いましょう。犯行から期間が経過してしまっている場合、なかなか捜査が進まないこともあります。被害直後がもっとも望ましいです。

被害届について特別な書式は必要ありません。通常は警察の側で作成してくれますから、内容を確認して誤っていなければ署名押印することで作成・提出ができます。

被害届を受理してもらい、捜査をスムーズに進めるために証拠を準備する必要があります。以下のようなものがあればよいでしょう。

①被害者ご本人による陳述書

不同意わいせつをはじめとした性犯罪は密室で行われることが多く、証拠の確保や事実関係の確定が難しい犯罪類型です。

特に、いつ、どこで、何が、どのように、誰によって行われたのかという犯行の全体的な流れについては実際に被害にあった方ご本人の供述によるところが非常に大きくなります。

まずはなにがあったのか、事実関係を時系列で文章の形で整理した書面を作成しましょう。事件直後の記憶の鮮明なうちに作成することをおすすめします。

②事件当日に着用していた下着類を含む衣服

不同意わいせつ事件では被害者と犯人との身体的接触を伴うため、衣服、とりわけ下着に犯人の体液や皮膚片、毛髪などその痕跡が残ることが多いです。また、他方で犯人の身体や衣服に被害者の衣服の繊維が付着していることも往々にあります。

こういった痕跡はDNA鑑定・繊維鑑定にかけられ、犯人の特定に資することになります。事件当日から洗わずに保存しておきましょう。

③録音機器・ドライブレコーダー

密室の中で何が行われたのかを客観的な形で記録しておきたいところです。本件は自動車内で行われた不同意わいせつということですからドライブレコーダーなどでその様子が記録されている場合、これを証拠として提出することが考えられます。

あるいは、日頃からトラブルに備えて録音機器を携帯しているのであれば、いざトラブルとなった場合の録音も証拠として提出することができます。

④相手方とのやりとりを保存したもの

不同意わいせつをはじめとする性犯罪被害は知人から受けるものが圧倒的に多いです。その場合、相手方とのLINEなどのやりとりを証拠として提出することが考えられます。

具体的には会う約束をするやり取りがあれば犯行時に実際に会っていた(犯行が可能であった)ことの証拠になりますし、犯行後に被害者への謝罪や非難など行為についての言及があれば犯行の自白に準ずるものとして証拠になります。そのため、LINE等のスクリーンショットを保存しておきましょう。

示談・慰謝料請求についてはどのように対応するべきか

本人あるいは相手方弁護士が示談を申し出てきた場合、被害者ご本人が直接矢面に立って示談交渉をすることは基本的におすすめしません。

示談内容が不利なものとなってしまう可能性があるだけでなく、心ないことを言われて精神的に深く傷つけられてしまうこともあります(いわゆるセカンドレイプ)。

示談を有利に運ぶためにも、なによりご自身を守るためにも弁護士を通じて示談対応することをおすすめいたします。

また、こちらから受け身になって示談交渉に応じるということ以外にも方法はあります。

不同意わいせつは刑事上罰すべき犯罪行為であるとともに民法上の不法行為も構成するものですから、民事上の慰謝料を弁護士を通じてこちらから請求していくことも考えられます。

不同意わいせつ被害対応の注意点

被害申告の遅れは命取りになります。

被害届の提出や刑事告訴といった被害申告はなるべく早く、できれば被害直後に行いたいところです。

不同意わいせつなどの性被害にはありがちなのですが、被害にあったことをなかなか言い出せず、被害があってから半年や1年といった長期間が経過してから被害申告を行ってしまうことがあります。

このような場合、防犯カメラやレコーダーの保存期間が経過してすでに無くなってしまったり、被害者自身の記憶も事件当時と比較してあやふやになってきてしまったりして証拠の確保が難しくなってきます。

そもそも申告の遅れそれ自体を被害の存在に信憑性がないことの根拠としてとらえられてしまうリスクもあります。とにかく被害申告は遅れないようにしましょう。

示談交渉は慎重に

不同意わいせつなどの性犯罪に巻き込まれて「できるだけたくさんお金を取って報復したい」と考えるお気持ちはわかります。理不尽な被害に遭われた方が、加害者に対して報復として大きな金額を請求したいと考えることは自然なことではあります。

しかし、交渉の方法については注意しなければなりません。

とりわけ「お金を払わないと周囲に言いふらす」「示談金〇〇円を振り込まないと刑事告訴/被害届を出す」などと脅したり、SNSで拡散をするなどしてプレッシャーを加えたりすることは厳に慎んでください。

事実上の効果はあれど、逆にこちらが脅迫や名誉毀損の罪に問われてしまいかねません。示談交渉は粛々と進めていきましょう。先述した相手側からのセカンドレイプなどの懸念点もありますから、極力弁護士を立てて交渉することをおすすめします。

(※写真はイメージです/PIXTA)