終身雇用制度はとっくに終焉。働き方も多様化の時代だが、正社員であれば、一つの会社に勤務し続けることで、キャリアを磨くチャンスも巡り、給与が上がるというのが一般的だ。だが非正規社員の場合はどうか。同じところにとどまって、メリットはあるのか。実情を見ていく。

「非正規」の立場、自らの判断で選んでいるわけだが…

令和のいま、昭和時代の「大学卒業→サラリーマン→定年退職で悠々自適の年金生活」との既定路線は、すでに歴史の一コマとなった。選択の自由や多様性が尊重されるようになったという側面も大きいが、長年の不況で日本経済が弱体化し、企業がかつてのように多くの正社員を抱えきれなくなったこと、グローバル化の進展で、企業にも「人材=コスト」の意識が徹底され、無駄なコストを抱えないよう厳しく目配りされていることが大きい。

企業と従業員の関係は、かつての「守り守られる関係」から、報酬と能力をトレードする、対等な関係へとシフトしている。

そのようななか、あえて企業に属さず、自身の能力で高額な報酬をつかみ取る人や、自由を優先し、企業からの報酬を最優先としない人など、多様な働き方・価値観が見られるようになった。

しかし一方で、自分が望んだわけではないのに「自由な働き方」にならざるを得なかった人たちもいる。それが40代を中心とした就職氷河期世代だ。

彼らが大学を卒業するときには、日本は不況のどん底であり、正規の従業員としての就職がかなわず、やむなく契約社員・派遣社員、パート・アルバイト等の「非正規」の立場で社会人デビューした人が多数存在した。

また、血のにじむような思いで正社員の椅子を勝ち取っても、極端に採用が絞られていた時代の弊害で、希望の業種や職種とかけ離れた仕事をすることになり、やる気や希望を失ってリタイアしたり、いわゆる“ブラック企業”に就職して挫折したりして、以降は非正規社員のままという人もいる。

厚生労働省令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査』によると、企業側に「なぜ非正規社員を雇っているのか」を尋ねたところ、最も多いのが「正社員が確保できないため」の38.1%。次が「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」の31.7%、「賃金の節約のため」の31.1%、「即戦力・能力のある人材を確保するため」の30.9%という結果になった。

逆に、非正規社員本人へ「なぜ、非正規社員なのか」を尋ねると、「自分の都合のよい時間に働けるから」が最も高く36.1%、次が「家庭の事情(家事・育児・介護等)と両立しやすいから」の29.2%、「家計の補助、学費等を得たいから」の27.5%へと続く。どちらかといえば積極的な理由だが、一方で「正社員として働ける会社がなかったから」12.8%、「体力的に正社員として働けなかったから」4.4%と、少数ながらも消極的な理由が上がっている。

また、「今後も会社で働きたいか」の問いには、85.6%が「今後も会社で働きたい」と回答(「現在の会社で働きたい」と「別の会社で働きたい」の合計)。そして彼らに「今後の働き方の希望」を聞いたところ、「現在の就業形態(非正規社員)で働きたいが64.9%と過半数超え、「正社員になりたい」は26.7%だった。

非正規社員「真面目に働き続けること」にメリットなし!?

では「正社員になりたい」人は、どのような理由があるのだろうか。前述の調査によると、最も多いのが「正社員の方が雇用が安定しているから」の73.6%、続いて「より多くの収入を得たいから」の71.8%となっている。

これらの点から、非正規社員は低収入・不安定であり、それを本人が危惧している、という構図が読み取れる。

正社員の場合、一般的には、キャリアを積んで給与が上がっていくというイメージだが、非正規社員の場合、そういった仕組みにはなっていないケースが多い。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、「正社員0年目」の月収(所定内給与額)は平均30万5,400円。一方、非正規社員は平均27万1,800円。この時点で3万円の格差だが、まだそこまで大きな違いとはいえない。

だが、そこから10年後経過した大卒30代後半はどうか。勤続10年を超えると、正社員の月収は平均39万9,500円と、勤続0年目に比べて130%になっている。一方、非正規社員は平均26万8,600円と、勤続0年目と比べて98%。むしろ月収は下がっている。

勤続20年目の大卒、40代前半では、正社員の場合は勤続0年目と比べて154%、非正規社員は118%となっている。勤続30年目の大卒であれば、50代前半には正社員なら勤続0年目と比べて173%、非正規社員は117%となっている。

同じ大学の同期で、一方は正社員、一方は非正規社員としてキャリアをスタートしたら、給与差は歴然だ。非正規社員として20年頑張ってきた人がこの状況を知ったら、あまりのやるせなさに気持ちがヤサグレてしまうのではないか。

非正規社員・正社員「勤続年数別」平均給与

※ 数値左:大卒非正規社員、右:大卒正社員

0年:271,800円 / 305,400円

1~2年:272,200円 / 318,300円

3~4年:285,300円 / 325,300円

5~9年:290,200円 / 353,400円

10~14年:268,600円 / 399,500円

15~19年:287,500円 / 434,400円

20~24年:322,800円 / 471,400円

25~29年:307,500円 / 520,400円

30年以上:320,200円 / 529,300円

出所:厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』

終身雇用制度をはじめとする「古き日本の人事制度」は終焉した。だが、高度成長期を経験した親の影響で、いまなお「石の上にも3年」「お金の話を持ち出すのは下品」といった意識が根強く受け継がれている人も多い。

もちろん、少しばかりイヤなことがあるからといって逃げ出していては、技術や経験を積むことはできない。「あのとき辛抱して、本当によかった」という思いを持つ人もいるだろう。

だが、非正規社員に限っていうなら、同じ会社で、同じ立場で、同じような仕事を繰り返していても、給与面やキャリアに何のメリットもない、そんなケースも多いのではないか。

果たして、現状のままでいて大丈夫なのか。給料に納得できない非正規の人は、そろそろ「現状に甘んじる」以外の選択肢について考えてみてもいいかもしれない。

(※写真はイメージです/PIXTA)