相続登記などの相続手続きでは「相続関係説明図」という書類が必要になることがあります。おそらく、多くの方は相続関係説明図という名称を聞いたことがあったとしても、内容や用途ついては詳しく知らないと思います。本連載は、司法書士法人みどり法務事務所が運営するコラム『スマそう−相続登記−』から一部編集してお届け。本稿では、相続手続きで必要となる「相続関係説明図」の概要や作成手順を解説します。

相続関係説明図とは?

被相続人と相続人の関係を表した家系図

相続関係説明図とは、被相続人(亡くなった方)と相続人の関係を表した家系図のようなもので、相続手続きにおいて、相続関係を明瞭にする役目を持っています。

相続関係説明図を作成する目的

①相続関係を明確にする

相続関係説明図があれば、相続関係が一目でわかるため法定相続分や相続税の基礎控除額の計算が行いやすくなります。特に、数次相続(相続が2回以上発生した)のような相続人が多い複雑なケースでは、役に立ちます。

②原本還付を受ける

相続登記など相続手続きでは、相続関係を明らかにするために被相続人・相続人の戸籍謄本等を提出しますが、相続関係説明図を提出することにより提出した戸籍謄本等の原本は返還してもらえます。

この制度を原本還付と言います。

相続手続きでは、法務局、銀行、証券会社、裁判所等、複数先に相続書類を提出する場合が多く、提出するたびに再度書類を収集するのは非常に手間と費用がかかりますが、原本還付を受ければ書類の収集は1回で済むため、相続手続きをスムーズに進めることができます。

相続関係説明図を作る手順

必要書類を集める

相続関係説明図を作成するには相続人調査のため、最低限以下4種の書類を収集する必要があります。収集先は役所で、遠方であっても送料はかかりますが郵便により取得できます。

情報を整理する

相続関係説明図に記載するのは、相続関係が分かる最低限の情報で良いため、収集した書類から以下の情報を抜粋します。

①被相続人の情報

氏名、生年月日、最後の住所地、本籍地、死亡した日

②相続人の情報

氏名、生年月日、現在の住所

相続関係説明図を作る

相続関係説明図には定まった形式はありませんが、以下の見本のように、被相続人の記載を基本としてそこから各相続人を線で、配偶者は二重線で結ぶのが一般的です。

相続関係を明瞭にするためのものなので、一目で関係性を把握できることが大事ですが、相続関係が複雑または子が多数いるため一枚に収められないのであれば、複数枚にわたっても大丈夫です(その場合はページ番号が必要)。

また、作成に当たっては、用紙に手書き、パソコンのどちらでも問題ありません。

相続関係説明図を作るときの注意点

必要な情報を記載する

相続関係説明図に記載する住所などは、正確な記載が必要です。

住民票に「一丁目2番3号」と表記されているのであれば、その通りに記載しなければならず、「1-1-1」のように省略、漢数字をアラビア数字にしてはいけません。また氏名も戸籍通りの記載が必要なので、名前に旧字体が使われている場合は注意が必要です。

相続か遺産分割かを明確に記載する

相続財産に不動産が含まれている場合は、相続関係説明図にその不動産の相続内容を明確にする必要があります。

不動産を相続する相続人には「(相続)」と、遺産分割により不動産を相続しない相続人には「(分割)」と、相続人が相続放棄をしている場合は「(相続放棄)」と記載します。

例として、以下は法務二郎が相続放棄して、遺産分割により法務花子のみが不動産を相続した場合の記載です。

 

法定相続情報証一覧図との違い

相続関係説明図と似たものとして、「法定相続情報証一覧図」というものがあります。

これは、「法定相続情報証明制度」により法務局が発行してくれるもので、相続関係について法務局が認証を与えるため、法定相続情報証一覧図のみで相続手続きが可能で、原本還付での戸籍謄本等の提出も不要となります。

法定相続情報証一覧図が相続関係説明図と異なるのは以下の点です。

法務局の認証分が付されるため、記載された相続関係に証明力が付く

相続関係説明図はあくまで個人が作成するものなので、それ単体では公的な証明にはなりません。

記載内容が決まっている  

法定相続情報証一覧図には戸籍の情報のみが記載され、相続関係説明図のように不動産の分割の有無は記載できません。

以上が、相続関係説明図の概要等です。

相続関係説明図があれば、相続関係が一目でわかるため遺産分割などがスムーズに進みます。特に、遺産に不動産がある場合は原本還付が受けられる利点が大きいです。

相続関係説明図は、記載内容自体は複雑ではないため作成は難しくはありませんが、その前提となる戸籍収集や相続人の調査の段階は、ケースによっては専門知識が必要になります。

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