Netflixにて配信が開始されたドラマ『離婚しようよ』。ヒット作の絶えない脚本家、宮藤官九郎と大石静が共同で脚本を担当した本作は、配信されるや否やNetflix国内1位に。グローバル(非英語圏)でも10位にランクインするほどの快進撃を見せている。主演の松坂桃李仲里依紗演じる仮面夫婦の離婚までの数ヵ月を描く本作には、超魅力的だが絶対に身近にいてほしくない“クズ男”が2人登場する。今回はそんな2人にスポットを当て、『離婚しようよ』の魅力を探っていこう。

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 本作は、共同脚本の宮藤官九郎と大石静が、交換日記のように交互に脚本を書き継いでいくスタイルでづづったオリジナルストーリー。気持ちはすでに冷めきったものの、それぞれの事情ですぐには離婚できない夫婦のすれ違いを描くコメディー作品だ。仲演じる黒澤ゆいは、大ヒットドラマ『巫女ちゃん』で主人公を演じて国民的女優に。そんなゆいが、夫の東海林大志(松坂)と不倫相手の加納恭二(錦戸亮)の間で揺れる様子をコミカルに描く。

■親と妻の“合計十四光り” 能天気3世政治家・東海林大志(松坂桃李

 物語は、ゆいが女優としてのイメージ崩壊や多額のCM違約金のことを鑑みても夫・大志と「離婚したい」と決意を固めるところからスタート。そもそもなぜゆいは大志を選んでしまい、そしてこんなにも離婚したいと思うようになったのだろうか。

 大志は「女性関係にだらしない」「能天気」「世間知らず」というクズ男の3拍子がそろったボンボン。祖父の代からの支持者と、妻・ゆいの人気のおかげで当選したようなもので、世間では「親の七光りプラス巫女ちゃんの七光り、合計十四光り」とまで言われている。失言を繰り返しては炎上、謝罪、しかしすごいスピードで喉元過ぎて熱さ忘れる。喉がめちゃくちゃ強いのだろうか。そしてまた過ちを繰り返す。

 そんな大志への愛想をゆいが完全に尽かしたのは、結婚3年目に大志が起こした不倫事件。大志は女子アナとの“路チュー”を撮られ、夫としても政治家としても窮地に。「3年目の浮気ぐらい…」という時代でもない。東海林家の反対によりその場での離婚とはならなかったものの、それからゆいと大志は“仮面夫婦”となったのだった。

 なぜ、ゆいはこんなクズ男との結婚生活を(仮面ではあるが)続けていたのか。それは、大志の“地元愛”を目の当たりにしたのが大きい。ゆいによると、大志は地元・愛媛に帰ると「男っぷりが上がる」という。選挙が無くても週末には愛媛に帰り、方言丸出しで服が汚れるのもいとわず農家や漁師を手伝う。雨に打たれながら街頭演説に励む大志が、横に並んだゆいに傘を差したとき、ゆいは「愛媛に勝った」と思ったという。ゆいは、愛媛という巨大な存在にまで勝負を挑むほどに、夫を愛していたのだろう。大志がその大きすぎる愛媛愛をもう少しでもゆいに向け続けていれば、2人は離婚などしなかったかもしれない。

■仕事にも結婚にも興味なしの“パチアート”・加納恭二(錦戸亮


 大志との関係が冷め切ったゆいの前に現れたのは、無職・ヒゲ・たれ目の加納恭二。パチンコで生計を立て、パチンコをしていない時間は“アトリエ”で絵を描いたりオブジェを制作したりと、いかにも近づいてはいけないタイプだ。こちらは“働かない”という方向でのクズ男。付き合ったらこちらが必ず苦労することは明白だ。

 (性格はともかく)いつもスーツを着込みピシッと髪も整えている大志とは対称的な風ぼうの恭二は、この頃のゆいにとってはあまりに刺激的な存在だった。恭二はそもそも国民的女優であるゆいのことを知らず、ただの1人の女性として扱った。パチンコが当たった衝動で横にいたゆいにキスをするようなあまりに自由で予想できない行動にゆいはあっという間に“沼って”しまう。

 恭二についてはSNS上でも「好きになっちゃダメって分かってるけどむり」「色気ヤバすぎ」「恭二沼」などと反響が。ただここで忘れてはいけないのは、恭二自身は決して「沼らせる」気はないのだ。たまたま道端で出会って、一緒にいたらパチンコが当たったゆいのことを「女神」と無邪気にたたえるが、「離婚してほしい」とか縛るようなことは言わない。優しく抱きしめてくれたかと思えば、雨に濡れ、泣きながらやってきたゆいを「今は忙しい」と簡単に追い返す。この“天然飴と鞭”が、ますますゆいを沼らせる。

 はじめは“ゆい→恭二”だった恋のベクトルだが、徐々に恭二からゆいへの矢印も向き始める。すると、恭二は途端に「分かりやすく」なってしまう。恭二の「普通じゃなさ」に魅力を感じていたゆいは、自分を好きになった恭二が急に普通の男になってしまったと感じてしまう。そんなゆいに対して恭二は「こんなオブジェ作る男は普通じゃないだろ…?」と訴えるが、感情表現だったオブジェを「自分は普通じゃない」とアピールするためのアイテムにしてしまったとき、ゆいの彼への気持ちの火は消えてしまったように思う。

 家や立場にがんじがらめながら、自由にのほほんと生きてきたことで愛を逃した大志と、何にも縛られていなかったのに、ゆいへの愛という縛りができて「普通」の男になってしまった恭二。どちらも“こんな奴は現実にはいない”とは言い切れず、妙なリアリティがあるキャラクターだ。どちらがマシか言い切るのは難しいが、筆者としてはドラマ内でのゆいの“選択”を尊重したい。

■番外編:筋肉なら大優勝 大志のライバル政治家・想田豪(山本耕史

 ゆいと直接関わることはあまりなかったが、このドラマでかなり大きなインパクトを残したのが、山本耕史演じる新進気鋭の敏腕政治家・想田豪。大志属する自由平和党との政権交代を掲げ、自ら政党を打ち立てたいわゆる“デキる男”だ。不祥事だらけのボンボンなら絶対に勝てると踏んで、大志と同じ愛媛5区から出馬する想田は、若者ばかりのスタイリッシュな選挙事務所を立上げて選挙活動に臨む。プライベートでは幼稚園からの幼馴染である妻一筋。まさに、大志とは正反対な男なのである。

 特筆したいのは想田の胸板だ。今作では大志もゆいも不倫しているとあって、お互いのベッドシーンもあるのだが、上半身をあらわにした大志や恭二よりも、スーツを着ているシーンしかない想田が明らかに一番“いい体”をしている。常にパッツパツなスーツが気になってしまう。本記事は“クズ男対決”ではあるのだが、仮に“筋肉対決”だったら完全に優勝だ。ドラマ内では、実はこんな完璧人間のような想田の“クズ”ポイントもあらわに。こちらの夫婦は『離婚しようよ』とはならないことを願う。(文:小島萌寧)

 Netflixシリーズ『離婚しようよ』は、Netflixにて全世界配信中。

Netflixシリーズ『離婚しようよ』に出演している(左から)松坂桃李、錦戸亮  クランクイン!