この夏も、さまざまなエンタメ公演やスポーツ大会が各地で開催されているが、中でも特に熱い盛り上がりを見せているのがプロレスだ。

【写真】スポーティーなブルゾンと王子様風マントの融合が画期的な上野のガウン。ファンからも「王子様がリングに降り立った!」と大評判

6月放送の「あさイチ」(NHK Eテレ)では、同性から圧倒的支持を集めるコラムニストのジェーン・スーがプロレスにハマっていることを告白。男性だけではなく、プロレスに夢中になる女性ファンも急増中で、人気ファッション誌でもイケメンレスラーのグラビアが掲載されるなど“プロレス沼”が広がりを見せている。

今回は熱狂の渦中にいるプロレスラーのひとり、上野勇希選手(DDTプロレスリング所属)に直撃インタビューを敢行。プロレスのかたわら俳優としても活動し、現在は「天才てれびくん」(NHK Eテレ)にレギュラー出演中という上野選手の魅力に迫った。

プロレスの歴史を変えた!?王子さま風衣装が話題に

1997年の旗揚げ以降、LiLiCoクロちゃん(安田大サーカス)といった有名タレントも参戦するなど、エンターテインメント性の高さが特徴のDDTは、他団体と比べても特に女性ファンが多いという。

2010年代の中盤あたりから、女性のプロレスファンを指す“プ女子”という言葉が使われはじめたんですよね。僕の体感だと、試合後のサイン会に来てくれる方も8〜9割が女性だと思います。DDTの場合、若い選手がたくさん活躍していることも、女性ファンが多い理由のひとつかもしれません。チャンピオンベルトを争うトップ戦線も、20代〜30代の選手で占められていますから」

そう語る上野も、同団体の若きスター選手。華麗な飛び技を得意とし、強さとしなやかさを併せ持ったファイトスタイルで人気を集めている。

さらに、そのビジュアルもファンから熱い視線を送られる要素のひとつ。リング上では、アイドル顔負けの王子さま風ガウンを身にまとい、少し昔の“男くさい”プロレスのイメージを塗り替えるような存在感を放っているのだ。

「このガウンは昨年末から使用しているんですが、めちゃくちゃ反響がありました。プロレスラーが着用するガウンは丈の長いものが多いのですが、あえてショート丈にしたんです。僕はまだ27歳でフレッシュだし、足を出していこうと思って(笑)。真面目な話、どうしたらDDTを盛り上げていけるかということを常に考えていて、ひとめで『この人の試合を見てみたい!』と思ってもらえるようなガウンを作りたかったんです。きっかけは何でもいいので、とにかく興味を持ってもらえたらいいなと。でも実は、一番喜んでるのは社長の高木(三四郎)さん。ガウンの歴史を変えたよ!と言ってくれました(笑)」

■「天才てれびくん」に出演中!レスラーと俳優、二刀流の背景にいるのは同級生レスラーの存在

上野の活躍の場は、リングだけにとどまらない。俳優としてドラマや舞台にも出演し、現在はNHK Eテレの子ども向け教育番組「天才てれびくん」で敵側の執事・モノオ役を演じている。毎週末プロレスの試合があるスケジュールと並行して芸能活動を行っている上野だが、そもそもなぜレスラーと俳優の二刀流を選んだのか。

プロレスラーとしてデビューして以降、ウェブCMに出たりお芝居のようなことをやる機会は少しずつあったのですが、本格的に芸能活動をやっていこうと思ったのは、チームメイトの竹下幸之介がアメリカへ行ったことがきっかけです」

DDT最強レスラーの証であるKO-D無差別級王座に5度君臨し、団体の顔として活動していた竹下幸之介は、現在アメリカのプロレス団体「AEW」を主戦場にしている。そして、彼こそが上野をプロレスの道へ導いた張本人だ。高校の同級生だった竹下がDDTのリングで活躍する姿をみて、上野も後を追うように団体の門戸を叩いた。

「タケ(竹下)がアメリカで大活躍しているのを見て、やっぱりDDTプロレスは世界に通用するんだ、面白いんだって再確認しました。一方で、日本国内においてその面白さがまだまだ伝わっていない現状がある。じゃあ、どうしたらもっと多くの人に届けることができるのかって考えたときに、とにかく色んな人の目につく活動をしようと思ったんです。タケがアメリカで頑張るなら、僕は日本で自分の持ってる力を全部使ってやれることをやろうと決意しました」

■宿命の同級生対決が決定!はじめて見る人でも楽しめる7月の両国大会「DDTの集大成以上を見せます」

アメリカに活動の場を移した竹下は最近になってヒールに転向し、プロレスファンを驚かせた。試合だけではなく、劇的なストーリーラインが描かれることもアメリカンプロレスの醍醐味だが、仲間を裏切り反則行為と挑発的な発言を繰り広げる竹下に現地のファンは熱狂している。今や入場するだけで大ブーイングが起こるほどだ。

そんな竹下が凱旋帰国する、7月23日両国国技館大会「WRESTLE PETER PAN 2023」では、上野とのシングルマッチが決定している。ヒールとして新たなスタイルを構築しつつある竹下と上野の関係性はどうなるのか…。

「タケは高校の同級生で、僕のプロレスの芽生えで、彼のプロレスを見ながら僕も強くなったし、何度も戦ってきたし、仲間で友達だし、今はアメリカでちょっと悪い感じになっているけど…。客席から見たら僕たちの試合を楽しむ要素はいっぱいあって、どんなふうに捉えてもらってもいい。ただ、僕自身はシンプルに“上野と竹下の試合”というところだけにモチベーションと文脈を持っています。2人の現状がどうだとか、今後どうなるのかって話はあまり関係ない。両国国技館は大きな舞台だけど、そんな場所すらどうでもいいと思えるくらいタケと向き合うことだけを考えてます。いつだって、竹下幸之介との試合は特別なものなんです」

DDTの黄金カードと謳われる上野と竹下の同級生対決以外にも、「WRESTLE PETER PAN 2023」は見どころ万歳だ。チャンピオンベルトがかかったタイトルマッチはもちろんのこと、新日本プロレスのエル・デスペラードの電撃参戦など、どう転がっても熱狂を巻き起こす大会になるに違いない。プロレスを見たことがない人でも、生の迫力と感動を存分に味わえるエンターテインメント体験ができるだろう。

「お客さんを楽しませることに余年のないDDTの集大成をお見せできると思います。海外や他団体の選手も参戦するので、今のDDTの全部とプラスαまで見てもらえちゃいますね。ファンの方にはもちろんのこと、プロレスを見たことがない人や、DDTに少しでも興味を持ってくれている人が初めて見る大会としても最高のものになると思います」

■「プロレスも俳優もクリエイティブな作業だから楽しいんです」

プロレスも俳優業も全力で突き進む上野だが、その根幹には「一番面白いDDTプロレスをもっと世の中に広めていく」という明確なビジョンがある。その上で、自身の現状を冷静に分析している。

「僕は今、ただ待っていてもしょうがない時期なんです。プロレスやりながらテレビ出てあいつはなにしてんだって言われることもあるけど気にしません。年齢的にもお仕事がくる需要は今が一番あるんじゃないかと思うので、今やりたいし、今欲張りたい。だから、試合と撮影がいくらあっても、全然しんどくないです。いっぱい仕事しているときのほうが、自分自身をブラッシュアップできている気持ちになる。逆に休みが2〜3日続いたりすると、いーっとなります!ぜんぜん足りないですよ。なんなら今の7倍くらい仕事がほしい(笑)」

少々ワーカホリック気味なのではないかと心配になったが、上野は笑顔で「でも本当に全部楽しいので」と声を弾ませる。

「これといった趣味はサウナとトレーニングくらい。トレーニングさえ欠かさなければ、ストレスを感じないんです。とにかく、今はプロレスもテレビの仕事も単純にめっちゃ楽しい!例えば、撮影の現場で監督のアイデアと触れ合うのも新鮮で、僕の想像力を超えた創作をする人たちと一緒に作品を作ることが面白いんです。プロレスもお芝居もクリエイティブな仕事なので、ちょっと賭け事に近いじゃないですか。いいものができるかもしれないし、イマイチなものになってしまうかもしれないけど日々ベットを繰り返してる。その感覚が楽しいのかな」

すべての物事に対して貪欲に楽しもうとする上野の姿が、多くのファンにポジティブな感情を与えていることは想像に難くない。この夏は「WRESTLE PETER PAN 2023」以降も路上プロレスやビアガーデンプロレスなど、非日常を味わえるDDTならではの大会がまだまだ控えているので、ぜひ会場で生の上野のパワーに触れてほしい。

最後に芝居とプロレス、両方の目標について聞いた。

「お芝居は好きなので、どんどんやっていきたいです。これまでは、恨まれて殺されるプロレスラーとか、ちょっと大袈裟なマッチョキャラとかクセのある役ばかり演じてきたので、いつか平凡なサラリーマン役ができたらいいなと(笑)。プロレスでは、DDTで一番強い証であるKO-D無差別級のベルトをとりたい。ただチャンピオンになりたいというわけじゃなくて、僕がチャンピオンになる過程でDDTをもっと広めていけると考えているんです。そして、会場を超満員にする。これが僕の今一番の目標ですね」

「WRESTLE PETER PAN 2023」大会概要

会場:東京・両国国技館

日時:2023年7月23日(日) 開場12時30分 開始14時

チケット販売:公式チケット購入フォーム、チケットぴあ、ローソンチケット、e+、LivePocketほか

動画配信サービスWRESTLE UNIVERSE(https://www.wrestle-universe.com/lp)で完全生中継!

その他、詳細はこちら(https://www.ddtpro.com/lp/20542)

【上野勇希(うえの・ゆうき)プロフィール】

1995年9月1日生まれ、大阪府出身。DDTプロレスリング所属。2016年プロレスラーデビュー。現在は所属ユニット「The37KAMIINA」の一員として活動。プロレスラーのかたわら俳優としても活躍。ドラマ「信長未満-転生光秀が倒せない-」(テレビ神奈川)、「覆面D」(ABEMA)に出演。現在は「天才てれびくん」(NHK Eテレ)のドラマパートにレギュラー出演中。

取材・文=竹田磨央

プロレスのかたわら俳優としても活動する上野勇希選手(DDTプロレスリング所属)/撮影=竹田磨央