米国半導体企業の幹部らは7月17日バイデン政権高官と会合を開き、政権の対中政策について協議した(ロイター通信の記事)。この会合で幹部らは、政権が検討中の新たな半導体輸出規制は、米国にとって逆効果になると警告した。政権が掲げる半導体国内生産推進策が損なわれる可能性があると指摘した。

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業界団体「世界最大市場にアクセスを」

 米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、米SIA(Semiconductor Industry Association:米国半導体工業会)は声明で、「過度に広範で、かつ曖昧で、時には一方的である規制は米国の半導体業界の競争力を弱めるリスクがあり、サプライチェーン(供給網)を混乱させ、市場に大きな不確実性をもたらし、中国によるさらなる報復を引き起こす可能性がある」と述べた。バイデン政権に対し、新たな規制を導入する前に業界と協議するよう呼びかけた。

 半導体や電気自動車(EV)を巡る米中の緊張が高まるなか、米エヌビディア(Nvidia)などの半導体企業は、より厳しい輸出管理の回避を狙ってロビー活動を行っている。「世界最大の商業用半導体市場である中国に業界が引き続きアクセスできるようにすることは、米国内半導体生産推進の取り組みにとって、重要だ」と主張している。

AI半導体の輸出規制強化、クラウドも規制へ

 米国の対中輸出規制を巡っては、バイデン政権がAI(人工知能)半導体の規制適用範囲拡大を検討していると報じられている。米商務省は2022年10月、AI向け先端半導体の中国への輸出を原則禁じた。これは、データセンターでAI計算に広く使われているエヌビディア製「A100」などを、事実上中国などの懸念国に輸出することを禁じるものだ。

 だが、その後エヌビディアは、商務省が示した規制基準を下回る性能のAI半導体「A800」を中国市場向けに製造・販売した。関係者によると、検討中の規制では、このA800であってもライセンスを取得しない限り輸出できなくなる。

  また、バイデン政権は、中国企業に対する米国クラウドコンピューティングサービスの提供を制限することも検討している。AI半導体の対中輸出規制を強化したとしても、クラウドサービスを介して米国の先端AI半導体が利用されてしまう。抜け穴が生じることになる。

先端半導体は国家安全保障上の脅威

 AI半導体について、米国の政府高官や政策立案者は、国家安全保障という観点で捉えている。AIを搭載した兵器は、戦場において競合国に優位性を与える可能性があり、AIは化学兵器の製造や、サイバー攻撃目的のコンピューターコード生成に利用される恐れがあるからだという。

 米国国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「我々の行動は、国家安全保障に影響を及ぼしかねない技術に焦点を当てており、慎重に調整されている。米国と同盟国の技術が我々の国家安全保障を脅かすことがないよう意図されている」と述べた。

半導体の米国内生産後押し

 一方で、米国では22年8月、半導体の工場誘致などに390億ドル(約5兆4000億円)の補助金を投じる「CHIPS法」が成立した。米商務省は23年2月、この補助金の申請受け付けを発表した。

 これについてNSCの報道官は、「CHIPS法成立以降、民間企業は今後10年間で米国に総額1400億ドル(約19兆3900億円)近くの投資を行うと表明している。これらの企業は半導体製造やサプライチェーン、R&D(研究開発)に資金を投じる」と述べた。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、CHIPS法の成立以降、多くの企業が米国における大規模な半導体製造プロジェクトを明らかにした。その中には、米インテルや米マイクロン・テクノロジー、韓国サムスン電子、台湾積体電路製造(TSMC)などがあり、これら企業は合わせて数百億ドル(数兆円)を新工場に投じる。米政権は、過去数十年にわたってアジアにシフトしていった産業構造を変えたいと考えていると同紙は報じている。

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(写真:CFoto/アフロ)