「PlayStation 5」向けアクションRPG『ファイナルファンタジーXVI(以下、FF16)』を彩る音楽を収録したオリジナルサウンドトラック『FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack』が、7月19日に発売される。Disc全7枚に181曲を収録した大ボリュームの楽曲群を主に手がけたのは、オンラインゲーム『ファイナルファンタジーXIV(以下、FF14)』のサウンドディレクターを務め、『FF14』公式バンドであるTHE PRIMALSを率いる祖堅正慶氏と石川大樹氏、今村貴文氏の3名だ。

 常々「ゲーム音楽はゲームプレイを追体験するためのトリガーである」と語っていた祖堅氏。『FF16』における音楽の魅力を深掘りすることで、あくまでもゲームプレイ体験を重視した「ゲームファースト」の精神と、『FF16』における様々な新チャレンジが浮き彫りになった。祖堅、石川、今村の三氏が語る、『FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack』の裏側とは。

■140曲を“多過ぎる”と突っぱねたのに、自分たちで300曲以上を作っていた

――今回は『FF14』)ではなく、『FF16』)のサウンドトラックのお話を聞かせてください。祖堅さんは昨年から今年にかけて、『FF14』関連でオーケストラコンサートやアレンジアルバムの発売、THE PRIMALSのライブなどもあって、正直忙しかったのではないでしょうか。

祖堅:僕は常に大型タイトル1つとチャレンジングなタイトルを4~5本抱えているのが通常なのですが、今回のように大型も大型のタイトルを一度に2つも抱えるのは人生で初めてだったので、正直大変でした……。

――石川さんと今村さんは、『FF14』の「漆黒のヴィランズ」から『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズに参加されていますが、『FF16』では『FF』シリーズのナンバリングタイトルの完全新作に最初からコンポーザーの一人として関わることになりました。

今村:もちろん『FF』シリーズの新作といううれしさはあったのですけど、浸っている場合じゃなく、どんどんやっていかないといけない状況でしたから、こうしてお話いただいて「ああ、たしかにそうだな」「ナンバリングタイトルをやれていたんだな」と感じました。

石川:そういう感慨をかみ締めている暇が、まったくなかったんですよね(笑)。

――『FF14』ではシナリオの石川夏子さんがメニューリストを書いて発注していたとのことでしたが、『FF16』ではクリエイティブディレクター&原作・脚本を担当している前廣和豊さんからの発注でした。『FF16』のやり方や流れはどのような感じでしたか?

祖堅:最初、前廣が発注リストを持ってきたときは、140曲のオーダーがありました。このとき、ユニークなメロディが多い印象だったので、キャラや土地に紐付いた固有のメロディを固めたほうがいいのか、少し議論があったのですが、沢山の作業を抱えていた前廣に直接戻すのは難しいな…と思っていたところに、プロデューサーの吉田直樹が「俺が精査する」と言って引き取ってくれて。最低限の柱となる20曲程度を押さえたうえで「他は任せるから」と言ってくれたんです。そのうえで今村、石川と3人で組みあがりつつあるゲームをプレイしながら「ここにはこういう曲がいるよね」「ここにはアレンジした曲がいるね」という感じでリストを精査しながら音楽制作も同時に進行していったら、300曲を越えてしまって。つまり前廣が持って来た最初の140曲よりも、多くなってしまったんです(笑)。

――自ら増やしてしまったと(笑)。『FF16』の音楽を作る上では、どんなことを意識されましたか?

祖堅:これは『FF16』に限らず僕のポリシーで、「ゲーム体験ファースト」であると言うことです。僕らはあくまでもゲームサウンドを作る仕事をしていますけれど、もっと大きな視野で言えばゲームを作っている人です。もちろん音楽を作ったり効果音を作ることは大事ですけど、それ単体がどれだけ良かろうが、ゲームが面白くならないと意味がない。じゃあどうしたらいいかと言うと、実際にゲームをプレイして自分が受けたゲーム体験に対して、どういうサウンドを付ければ最適解が得られるかという目線でサウンドを制作していかなければならない。なので、なるべくゲームが完成するギリギリまでサウンドの制作を待ちました。モーションやテクスチャが仮でついている状態まできたら、ゲームプレイを体験して、それがどういうものなのか理解してから音楽を完成させていったんです。

――石川さんと今村さんは『FF14』のとき、まずはゲームをやるところから始まったとのことでした。今回の『FF16』も、かなりプレイされたのですか?

今村:最初はある程度、文章とか画像とか簡単な資料だけ伝えられて、それを元にモックアップ(デモ)の提出などをして、それが第一段階目でした。ある程度全体像が見えて来た段階から、ちゃんとゲームにフィットさせる作業と、量産作業がようやく本格的に始まったみたいな流れでした。

石川:それでも最終的には相当な時間をプレイすることに費やしましたけどね。

――OSTを聴くと全体に重めでダークな印象でしたが、ゲームをプレイされたときの印象はいかがでしたか?

石川:これまでいろいろなRPGをプレイしてきましたが、ストーリーの内容や描かれているキャラクターの心情という部分でこの『FF16』は、“かなり重厚”という印象が強かったです。

――その重厚さを、ゲーム体験ファーストの精神で音楽にしていったと。

祖堅:はい。今回は核となるキャラクターが非常にアイコニックな存在なので、そのキャラクターに対してのテーマ曲をしっかり作って、そこから広げて行った感じです。ドミナントのキャラクターが召喚獣になって、召喚獣バトルが始まるわけですけど、その召喚獣バトルの音楽は、ドミナントのときのキャラクターのメロディを引用しています。今回ある300曲以上は、全てのメロディにしっかりとした理由付けがあります。なおかつ、ユニークなメロディがそれほどたくさん存在しないようにしている。あまりたくさんのメロディが存在していると作品全体を鑑みると雑然として良くないので、整理整頓じゃないけど、芯となるメロディは多くない代わりにバリエーションがたくさん存在するみたいな。それを頭から3人で、ゲームをプレイした後で議論して「どうする?」ってやりながら作っていきました。

■『FF1』の引用が多いのは“ゲーマーとしての直感”

――メインテーマとなるような曲はどれになるのですか?

祖堅正慶:どれかに限定するのは、結構難しいですね。ゲームプレイヤーそれぞれが受け取ったゲーム体験によって、受け取り方が違うという作りになっているので。もちろん主人公はクライヴなので、ゲームをやっていない人に語るならクライヴのテーマ曲がメインテーマでいいと思うんです。でもゲームプレイが終わったプレイヤーの中には、ジルのテーマ曲がメインテーマだと思う人もいるだろうし、それは物語を終えたときに、ゲームをプレイしたみなさんそれぞれがどう思うかによると思います。

――プレイヤーが思い入れを抱いたキャラクターのテーマ曲が、その人にとってのメインテーマになると。

祖堅正慶:そうなったらいいなと。

――Disc3の「Find the Flame」は、先行配信もされているので、メインテーマ的な感じかなと思ったのですが。

祖堅:たしかに、なにも考えずに言えば、これがメインテーマっぽい感じですけど、僕としてはこの曲は、音楽的に“すごく幼稚な曲”だと思っているので、これをメインテーマと言っていいのやら? という気持ちです。

――どういうところが幼稚だと?

祖堅:だって、アクセル踏んで行ってこい、帰ってこなくていいぞ!みたいな曲じゃないですか(笑)。音楽って、山や谷の流れがあって初めて音楽だと思っているので、こんな行ったきりの山ばかりの曲は、音楽としてどうなのかな…って。もちろん、そういう曲がゲームとして必要だったから作ったんですけど。だからこの曲を配信するかどうかは悩みました。もう少し音楽的な曲のほうにするべきじゃないかと。

――なるほど(笑)。また、要所で『FF1』の「オープニングテーマ」「メインテーマ」「プレリュード」のメロディが引用されています。

祖堅:『FF』のナンバリングタイトルなので、必要なところに必要な要素を入れています。ただ意図的にと言うよりかは、もっと直感的でした。僕ら3人とも『FF』を遊んで育っているので、「ここに『プレリュード』のアルペジオを入れたくなるよね」と思うのは、自然な流れです。だから理屈ではなく、直感的に使っている部分が大きいです。

石川:ゲーマーとしての勘と言うか。

今村:肌感でしかないですね。

インタラクティブミュージックの最新形は“ミニ祖堅”?

――OSTはDisc1~7までありますが、これはゲーム順通りに曲順も並んでいるのですか?

石川:Disc1~7は、『FF16』のメインの物語の流れの沿って収録されています。このOSTを収録順通りに聴いていけば、ゲームの追体験がバッチリできる仕様です。また、Disc毎で物語が区切られるようにも収録しているので、そこでもゲームとのリンクをより感じてもらえると思います。

――あと、今作にはインタラクティブミュージックの新たなシステムが搭載されているとのことですが。

祖堅:はい。FF16』はアクションRPGなので、プレイスピードが人によって劇的に変わります。アクションゲームが上手い人はすぐ終わるし、あまり得意ではない方は時間がかかる。しかも今回の『FF16』のボスバトルは1つのバトルの中に流れがあって、山があったり谷があったりしているのですが、ゲームが上手い人とあまり得意ではない人では、その山や谷が来るタイミングも大きく違ってくるので、それを1曲で表現しようとしても、音楽とゲームプレイの山や谷が一致しないんです。それではゲーム体験に音楽が寄り添えていないということになるので、特殊なシステムを搭載しました。それによってゲームが上手くてササッと終わってしまう方でも、得意ではなくて時間がかかってしまう方でも、その人のゲームプレイの山や谷に沿って、自動的に音楽が進行するようになっています。

 これはいわゆるインタラクティブミュージックと昨今呼ばれているものとは、少し違う仕組みになっていて。昨今のインタラクティブのメジャーなやり方は……データ的な面で見るとミルフィーユのように多層構造になったストリームデータがあって、ゲーム状況のフラグに合わせてストリームチャンネルを変える事で楽器数を増やしたり減らしたり、アレンジを変えたり元に戻したりするというものです。僕らのシステムは、曲自体、曲の展開自体をインタラクティブに切り替えて行くというものだから、ゲームが盛り上がるところは音楽も盛り上がるし、谷底になったら間奏が入ったりとかします。で、ボスバトルもそろそろ終盤になったら後奏が流れて、ゲーム的に勝敗が決まった瞬間、ピシッと曲も終わるという。

――全然分からないです(笑)。

祖堅:ですよね(笑)。これをしっかり理解できるように話をすると1日かかっちゃうので、簡単に一言でこう説明しています。「PS5に『FF16』をインストールすると、一緒に“ミニ祖堅”もインストールされて、“ミニ祖堅”がみなさんのゲームプレイに合わせてリアルタイムに曲をその場で編集します!」と(笑)。

――それはバトル用に作った素材としての曲のなかから、AIが取捨選択して選んでいるようなものですか?

石川:いえ、もっと手作業なイメージです。もっと地道で、一つ一つを事前に計算して積み上げているという……。

今村:実際にプレイしてみながら、かみ合わないなと思ったら戻って、大本から作り直すみたいな。そういうラリーを延々繰り返しました。

祖堅:音楽を作るという芸術と、ゲームを作るというテクノロジーの融合を、ここで全部やっている感じです。

――構成を何分割していて、なにがトリガーになっていて、シームレスに繋がるようにどう工夫しているのか……気になる点が多すぎます。

祖堅:(笑)。プレイヤーのみなさんは、きっと最初は分からないと思いますよ。でも音楽がすごく気持ち良い演出をしてくれるはずなので、「このバトルはすげえ! 俺はいま、すげえバトルをやっている!」という感覚になるのですが、実は裏で個々のバトルを盛り上げるために、めちゃめちゃ難しいテクノロジーを使って、気合いで実装しているみたいな(笑)。

石川:結局は気合い(笑)。

今村:だいぶ気合いです!

祖堅:たとえばDisc6に収録されている曲がそうです。「Bastion – Stonhyrr」は、通常のインタラクティブミュージック的に流れる場所と、盛り上がるところをギュッとして1曲にしています。今回のOSTにはそういう曲がいくつか存在していて、その中の1つです。

石川:OST用に編集して1曲にしています。

――と言うことは、ゲームプレイの時に聴いていない音がある可能性も?

石川:あるかもしれないですね。

今村:戦闘のタイミングで変わりますからね。ただ戦闘に忙しくて、どの音が鳴っているか聴き取るどころではないと思いますけど。

――Disc2の「Hide, Hideaway」をはじめ、今村さんが手がけている楽曲は、アコースティックギターがメインだったり、民族音楽っぽい感じが多い印象でした。

今村:そうですね。『FF16』のテーマがダークファンタジーで、王道の中世ヨーロッパ調のファンタジーなので、全体にオーケストラの荘厳な楽曲が多いのもあって、自分でデバッグプレイしていても、ちょっと疲れちゃうんです。ダークファンタジー感に心が染まってしまうので(笑)、どうしても癒やし系とかもう少し軽い感じを取り入れたいなと思って作りました。鳴っている場所も、アコースティックギターが鳴っていてもおかしくない場所で、例えば拠点とかアジトとか。アジトで重厚な曲が流れていたらプレイする側も疲れちゃうじゃないですか。ゲームとしても間違いないところに、そういう曲を入れています。

――石川さんは、Disc2の「Control」や「Fall from Grace」など、壮大なオーケストラのアレンジを手がけているものが多い印象です。

石川:僕自身、学生時代からヴィオラを弾いていて、クラシック音楽をずっとやってきたので、自分がダークファンタジーの世界に寄り添うならオーケストラサウンドかな? と思い、その路線を攻めていきました。その部分では『FF16』ファンタジーの世界観に、結構忠実に寄り添えたかなと思います。

――いくつか気になった曲があったので、解説していただきたいと思います。まずDisc1の11曲目「On the Wind Borne – The Rosarian Ducal Anthem」は、酒場感がいいですね。

祖堅:まさに酒場で、兵士たちが酔っ払って自国の国家を歌っている様子です。これはボイスアクターさんたちにメロディガイドを送って歌ってもらった音源を、バラつきがありながらもある程度揃って聴こえるように、全部地道にエディットしました。『FF16』はボイスが6言語に対応しているので、CDに収録しているのは英語だけですけど、日本語もあって。日本語は、社内のスタッフ10人くらいに歌ってもらいました。

今村:僕たちも歌いましたよ、兵士として。

石川:おのおのが自宅などで録ったものを持ち寄ってミックスしているんですけど、実際に飲みながら歌っている方もいたようです(笑)。

今村:「酔っ払いの歌」だから、そのほうがリアルだよね(笑)。

――また、Disc4の「Sand and Stone – The Republic of Dhalmekia」は今村さんの作曲で、民族っぽさがあります。

石川:この曲は、歴史があるんです(笑)。

今村:『FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack Ultimate Edition』に付属のDisc8に、この曲のモックアップが収録されています。13曲目の「The Republic of Dhalmekia – Unused」(ダルメキア-ボツ)がそうで、最初にこれを祖堅さんに送ったところ、「メロディが分かりづらい」とボツを食らって。何度もリレーを重ねて最終的に完成したのが、Disc4の「Sand and Stone – The Republic of Dhalmekia」です。ダルメキアのテーマとなる曲で、それにまつわるカットシーンだったり拠点の曲の元になっています。

――たしかにゲームをやっていなくても、ダルメキアがどんなところなのかイメージできるような曲です。

祖堅:今回そういう意味では分かりやすいですよ。変化球がまったくなく、ゲーム体験にストレートに曲を当てて行っているので。

――石川さんが担当したエリア曲はありますか?

石川:Disc5「Facets of Rage – Drake's Tail」は、拠点ではありませんが「クリスタル自治領」というエリアをテーマとした音楽です。ここを訪れる時は物語が大きく進行している最中のため、ストーリーとシチュエーションに合わせてオーケストラサウンドを派手に、バキバキに盛り上がる感じで作りました。これは結構すんなり完成したんじゃないかな。

――なるほど。ちなみに石川さんの楽曲でも、大変な変遷を辿った曲はありますか。

石川:Disc1の5曲目「A Rose Is a Rose」かな。この曲のメロディは、先ほどお話しした「酔っ払いの歌」と同じメロディを使って作っています。ロザリア公国のテーマとなるメロディで、その国の音楽ということで「A Rose Is a Rose」を作ったのですが、この前身となる曲が実は2曲あって、それが8枚目に収録されている「The Grand Duchy of Rosaria – Unused」(旧ロザリア-ボツ)と、「The Imperial Province of Rosaria – Unused」(新ロザリア-ボツ)です。「旧ロザリア-ボツ」は僕がメロディを作ったのですが、作った後でゲーム制作のチーム側から「酔っ払いの歌」のメロディで作ってくれと言われ、それで作ったのが「新ロザリア-ボツ」です。で、「新ロザリア-ボツ」を作り終えたものの、ゲームシチュエーションや世界観とのハマりが良くないと個人的に感じ、作り直したのがDisc1の「A Rose Is a Rose」です。なのでやり取りのリレーという部分では、この一連で祖堅には結構ご迷惑をかけてしまったかと…。

祖堅:いやいや、全然いいんだけど(笑)。「A Rose Is a Rose」を作るかどうかにあたっては、時間が間に合うかが心配で、OKを出すかどうか上司として迷いました。結構ギリギリだったし、他にもやることがある状態だったから。でも、ここまでやって自分の納得いかないものをゲームに乗せるのも悔しいだろうから、「じゃあ任せた!」と信じて任せたら、素晴らしいものができあがってきたから。「よし、これをすぐ乗せよう」って。

石川:信じていただけたのは嬉しかったです。ずっと面倒を見てもらっていますから、そろそろ貢献しないと! と思っていたので。

祖堅:十分貢献してるって。2人とも!

■『FF14』プレイヤーは歓喜する、“悲しき召喚獣”のテーマ

――また、Disc5の「Do or Die」「Titan Lost」「Heart of Stone」あたりは、『FF14』っぽくて、ある意味で祖堅さんらしいと思いました。

祖堅:冒頭で今回は重厚なダークファンタジーとお話をしたのに、「なんじゃこりゃ!」と思うかもしれませんが(笑)。その「なんじゃこりゃ!」にしたかったんです。これもゲーム体験に紐付いていて、オーケストラでやれなくもないけど、「もっとやっちゃったほうが、ゲーム体験が盛り上がるべ!」と思って、吉田直樹からのオーダーを無視して勝手にやっちまったんですよ。でも結果、チームからは大絶賛でした。「待ってたぜ!」「こういうやつだよ」という反応で、吉田直樹も発注とは違うけど「たしかにな……」と納得してくれました。

――有無を言わさぬ説得力があったんですね。

祖堅:『FF14』でやってきた経験値と、単純に僕が、こういうのが好きだからという。

――『FF14』もプレイしているプレイヤーには刺さります。

祖堅:「Titan Lost」は召喚獣タイタンの曲なんですけど、タイタンって過去の『FF』シリーズで脚光を浴びたこともないし、専用の音楽が作られたこともない“悲しき召喚獣”なんです(笑)。だけど『FF14』でたまたま、たくさんの光の戦士タイタンによってボコボコにされてしまった経緯が印象づけられて、タイタンの音楽はこういうものだと、方程式ができていたんです。だから『FF16』でもタイタンを表現するにあたって、その方程式に則った感じです。

――悲しき召喚獣(笑)。

祖堅:『FF14』をプレイされている方だったら、「そうそう、タイタンはこうだよね!」って思うだろうし、『FF14』をプレイされていない方は、急にこれだからビックリしたんじゃないかな(笑)。

――Disc5の「Ascension」もオペラ調の展開があって良かったです。

祖堅:これはオーダー通りに作った曲です。これはバハムートのテーマなんですけど、展開的にどクラシックが合うかなと思って作りました。

――Disc6「The Riddle」ではテノール歌手の方が参加していますね。

祖堅:オーディンのテーマで、まさに柱となる20曲ほどのうちの一曲でした。

■作品の雰囲気を重視して控えめにした“チョコボのテーマ”

――ちなみに『FF』シリーズではおなじみの、チョコボの曲が収録されていないようですが。

今村:ありますよ。Disc4の「Fanfarrado de Chocobo」です。

祖堅:『FF』ですから、ゲーム中にチョコボは出てきますし乗れもするんですけど、この作品の世界観とゲームプレイを鑑みると、チョコボにまたがって「♪テッテレテレテレ~」ってあの曲が流れると、世界観ぶち壊し感が半端なかったんです(笑)。メロディーをマイナー調にアレンジしたチョコボ曲にもチャレンジしたんですけど、あの陽気なメロディとリズムには、何をしても焼け石に水で。でもアイコニックな存在として『FF』にチョコボは欠かせないから、どうやって表現しようかと考えたときに「ジングルであれば成立するじゃないか」と。

――あと「No Risk, No Reward」も変遷があるそうですね。

祖堅:これは紐解くと、Disc1の9曲目「Sixteen Bells」のアレンジです。この曲は、基本的に『FF16』のバトルのテーマ曲となっていて、中ボス戦になるとDisc3の3曲目「On the Shoulders of Giants」に変化し、大ボス戦になるとDisc4の27曲目「To Sail Forbidden Seas」になり、さらにリスキーモブ等のボスバトル曲が、このDisc6の「No Risk, No Reward」であるという。つまり同じメロディ、同じテーマを引用して、これだけバリエーションが豊富であるということ。ゲームを通して聴いたことのあるメロディがバンバン流れるけど、そこには理由があって、なぜそのメロディなのかは物語とキャラクターに紐付いています。OSTはその理由や紐付けを確認するには、うってつけのアイテムだと思います。

――では最後に、読者とプレイヤーにメッセージをお願いします。

石川:曲数の多い本作ですがメロディの活用箇所やシチュエーションに合わせたアレンジ方法に関してすごく推敲を重ねました各キャラクターと各国のテーマが、物語に合わせてありとあらゆるところに散りばめられています。マストではないですが、そこに注目いただけると、新たな気づきがあって、より深くゲームを楽しんでいただけるのではないかと思います。

今村:曲をいっぱい作りましたけど、ゲームに寄り添った結果この曲数になっていますし、いかにゲームに没入してもらえるかを考えて作りました。実際にゲームをプレイした方は、聴くとシーンが浮かんだり、ゲーム体験を思い出せるOSTになっています。ゲームを楽しんだ後はOSTを聴いて、また2周目3周目とやりたくなってくれたらうれしいです。

祖堅:まずはゲームを遊んでいただいて、「ゲームが面白かった」「ゲームサウンドが良かった」と思った方は、ぜひOSTを買っていただいて、通勤通学の移動中とか、家事の合間など、ゲームはできないけどその世界に浸りたいというとき、このOSTが少しでも手助けになればいいなと思います。これを聴いて、FF16の世界に思いを馳せてほしいですね。気に入っていただけたら、ぜひご購入をご検討ください。

(文・取材=榑林 史章)

『FF16』の楽曲を手掛けた(左から)石川大樹氏、祖堅正慶氏、今村貴文氏