寝ている男性

寝ている自衛官にラッパの音声を流す「いたずら動画」が、SNS上で話題を呼んでいた。自衛官は毎日定刻に起床ラッパというラッパ音で起きるよう訓練されているので、ラッパを聞いた者たちは飛び起きたり着替え出したりする…というものだ。

はたしてこれらの動画はヤラセではなく本当なのか、元陸上自衛官の筆者が明らかにしていく。


■「自衛官あるある」のいたずら

このいたずら、じつは自衛官なら誰しもが見聞きしたり経験したりしたことのある、古典的ないたずらで、筆者はしたこともされたこともある。

リアクションは隊員の境遇で「飛び起きるか、音に気付かない」の二通りにはっきりと分かれる。


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■起きる隊員の特徴

飛び起きる隊員の共通点は、「駐屯地内で生活している」ことと「入隊歴が短い」こと。「営内者」と呼ばれる駐屯地内で生活している隊員は毎日ラッパで起きるため、この音を聞くと反応する傾向にある。

しかし、入隊して長い時間が経つと起床ラッパで飛び起きなくても余裕があるため、入隊歴が長い隊員にはあまり効かなかった。

また、結婚したり階級が上がったりすると駐屯地外から通勤出来るようになるため、そういった隊員には全く効かない。彼らは普段、ラッパではなくアラームで起きているからだ。


■新隊員時代はラッパの音で飛び起きる

陸士という一般社員からスタートする隊員は「新隊員教育隊」、幹部からスタートする隊員は「幹部候補生学校」で、それぞれ新米自衛隊員としての教育が始まる。そこで全ての自衛官は基礎を叩き込まれ、民間人から自衛官に変わっていくのである。

入隊初日からラッパの音と共に毎日生活するため、強烈で非日常な生活が体に染み込んでいくのである。新人もしくはその教育が終わったばかりの「入隊歴が短い」隊員がラッパの音に過剰に反応する理由はここにある。


■自衛官にとってラッパは身近なもの

自衛隊の駐屯地や基地では、起床から消灯まで定刻通りにラッパが鳴る。起床、食事開始、課業開始、国旗掲揚などをラッパで隊員に知らせている。陸上自衛隊では当番の隊員がリアルタイムに吹奏し、スピーカーで流している。

世間では驚かれるかもしれないが、自衛官にとっては当たり前の慣習である。余談ではあるが、ラッパ手によって腕前が全く異なるので、ラッパのあとに隊員間で感想を語ることもある。

民間人には「非日常」であるが、彼らにとって「ありふれた日常」の一部だ。SNS 上には自然に反応している動画もあるが、ウケを狙って大げさにリアクションをしている場合もある。

自衛隊経験者にとってその見極めは容易であるが、このような視点で再度見ていただくとより楽しめるかもしれない。


■執筆者紹介

安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。

職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。 現在は複数事業を経営。

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(取材・文/Sirabee 編集部・安丸仁史

SNSで話題を呼んだ「寝ている自衛官がラッパ音で飛び起きる」動画は本当? 元自衛官が解説