子どもが健やかに成長するためには、両親から愛されていることを実感しなければいけません。しかし、その両親が決別した場合、子供の幸せはどうなってしまうのでしょう。この連載では、『子どもの権利条約に基づいた 子どもが幸せになるための、別居・離婚・面会交流のすべて』(自由国民社)からの抜粋転載で、様々な事情により別居・離婚をすることになった親が、子どもを幸せにするためにはどうしたらいいか考えていきます。

虚偽DVと子どもの連れ去り

夫婦やパートナーの間で起こるドメスティックバイオレンス(DV)の認知度が上がり、被害者救済のための法律(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律:DV防止法)が広まるなかで、離婚・別居をめぐる新たな問題も生まれています。

被害者を装ってDV防止法を悪用し(虚偽DV)、配偶者に無断で子どもを連れて家を出る(子どもの連れ去り)ケースです。DV防止法を使えば、シェルター避難や住民票ブロックして所在を知られないようにできます(支援措置)。

本当に暴力があったのかどうかなどの警察捜査は行われません。基本的には、被害者は、自己申告で被害状況を説明した書類を提出するだけで、支援措置を受けることができます。

DVで避難しているとなれば、調停や裁判では、配偶者に慰謝料を請求しやすくなりますし、子どもの面会交流を拒む理由にもできます。本来は被害者を守り、被害者の今後の生活を保障するためのDV防止法ですが、「配偶者とは絶縁したい」「憎い配偶者をぎゃふんと言わせてやりたい」と思う人が、意図的に使えば、子どもと別居親を徹底的に引き離すこともできてしまいます。

「帰省する」と子どもを連れ去った妻

翔平さん(40代)の妻が「実家に帰省する」と、学齢期前の子どもふたりを連れ去ったのは10年ほど前の夏。実家に戻った妻は、シェルターを有するDV被害者支援団体に相談し、シェルター避難を経て転居、離婚調停を申し立てました。

その秋には地裁で保護命令も出ています。あとでわかったことですが、妻は実家の両親(子どもの祖父母)の指示で「連れ去り」を決め、あらかじめ「暴力の証拠を取る」ため夫婦の会話を録音していました。

ただ実際には、DVの証拠になるような録音はなく、関わっていた児童相談所職員らも「夫婦げんかの域を超えた諍いはなかった」と証言しています。妻が入所したシェルター関係者は「入所時はあざだらけだった」と証言しましたが、実家で1ヵ月以上過ごしてからの入所だったため、「かえって疑わしい」話でした。

同年冬には高裁が保護命令を却下しました。つまり、裁判所も妻の訴えは虚偽であると認めたわけです。翌年早々には面会交流が行われるようになり、久しぶりに会った翔平さんと子どもたちは楽しい時間を過ごしました。

体調を崩しがちな妻よりも、翔平さんが主に家事・育児を担ってきており、子どもも懐いていたのです。ところが、面会交流を重ねるにつれ、子どもたちの様子が変わっていきました。最初のころは、「パパといつも遊びたい」と言っていた第一子が、「パパと会いたくありません」と訴えたり、翔平さんからのプレゼントを「ママに𠮟られるから」と持ち帰らないようになりました。

「パパに会えなくて寂しかった」と言っていた第二子は、好物を見せても「食べるとママに怒られる」と、拒絶しました。面会交流の際に、妻の父親(子どもの祖父)に電話した子どもたちは、翔平さんを口汚く罵ったりもしました。立会人である第三者がいると、子どもたちが翔平さんと目を合わせなくなり、緊張した態度をとり続けるようになったのも、そのころからです。

一方で、翔平さんしかいないときには、子どもたちは「もっと遊びたい」「あと100回(抱っこして)」などと言い、「面会を終わるように言わないとママに𠮟られる」と泣いたりしました。

妻とその父母による面会交流の妨害

その過程では、①翔平さんが提案した子どもが喜びそうな場所・方法での面会交流をことごとく妻が認めない、②妻の代理人弁護士が「子どもが嫌がっていて、子どものためによくないから(面会交流を)差し控えたい」と連絡してくる、③招待状を得て翔平さんが参加した保育園の運動会に警察を呼ばれる、④「子どもたちは発達障害だから、本人たちのペースでの面会交流を行うべき」、という妻側による医師の診断書の提出など、明らかな妻とその父母(子どもの祖父母)による面会交流の妨害行為がいくつもありました。

裁判所は、面会交流しなかった場合には損害賠償を認めましたが(間接強制)、妻側は「父親には面会交流を請求する権利がない」と主張しました。最終的には、最高裁が妻側の主張を退けましたが、子どもの拒否意思を盾に面会交流はできないままでした。

妻の両親、とくに父親(子どもの祖父)は、そもそも翔平さんと娘(子どもの母親)の結婚に反対でした。子どもの祖父は、自分の娘が大学を卒業したら、地元に戻って教師として働くことを望んでいました。

ところが、その意に反し、卒業前に翔平さんと出会った娘は妊娠し、専業主婦となりました。娘の離反を受け入れがたかった祖父の心中には、「いつか娘と孫を自分の手元に取り戻したい。自分から娘らを奪った翔平さんに仕返ししたい」という思いがあったのかもしれません。子どもを連れ去って地元に戻った翔平さんの妻は、子どもの世話を両親(子どもの祖父母)に任せて祖父が望む教育職につき、経済的自立を遂げたそうです。

最も苦しんでいるのは子ども

虚偽DVによって、子どもを連れ去られた別居親たちによる「女性が行政のDV相談に行くと、すぐにDV証明などが出され、本人が希望すれば簡単にシェルター避難になり、地裁に訴えれば保護命令が出る」との主張をよく耳にします。

たしかに翔平さんのような例は他にもあります。裁判所が「DVも虐待もなかった」と認めているのに、面会交流ができないものも多く、支援措置も出ているため、子どもの居場所さえわからないままというケースもあります。

しかし、これは行政機関等でDV相談員を務めてきた経験のある私から見ると、とても不思議です。重篤なDVを受けていても、「本人の意思が固まっていない」などと言って避難させてくれなかったり、「命の危険があるとまでは言えない」と、保護命令が出なかったりすることも少なくありません。

支援措置を受けるにも、「本当に危険性があるのか」と行政の窓口で執拗に尋ねられたり、条件に該当しないと突っぱねられたりします。なぜこんなにも行政の対応が違うのか。その理由は謎ですが、そのくらい今のDV防止法とその運用にはさまざまな問題があるということなのではないでしょうか。

DVの渦中で苦しんでいるにせよ、虚偽DVで連れ回されるにせよ、一番の被害者は子どもです。翔平さんのケースでは、子どもたちが「大好きな父親を拒否しなければならない」状況のなかで苦しみ、会わない選択を強いられていく様子がありありと見て取れます。しかもそうやって子どもを苦しめているのは、子どもを最も愛し、守るべき立場にいるはずの、親なのです。

離婚や調停は勝ち負けではありません。面会交流は復讐の道具でもありません。明確なのは、そうした運用は子どもを傷つけ、子どもから愛する半身(別居親)を剝ぎ取る非道な行為であるということです。 

(※画像はイメージです/PIXTA)