北朝鮮社会の嫌われ者、安全員(警察官)。ちょっとした法律違反を口実に、ワイロを巻き上げるのは基本中の基本。民間人に暴言を吐き、暴行する。生きていくために、路上で露店を開いている女性たちを蹴散らし、品物を没収する。

当然のことながら、相当の恨みを買っており、報復殺人の犠牲になる者も少なくない。だが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は最近、安全員が殺人事件の加害者になった事件について報じている。

両江道(リャンガンド)の情報筋によると、事件は先月28日の夜、恵山(ヘサン)市内中心部の恵山洞で起きた。

この安全員は今年29歳。首都平壌出身で、昨年秋に両江道に配属となった。恵山市安全部(警察署)の武器庫で勤務していたが、その後昇進して、両江道安全局(県警本部)に転属となった。

地域に友人も親戚もいないこの安全員は、民間人の家を間借りして住んでいた。事件前日、安全員は、地元では美貌で知られる40代の大家の女性と何らかの理由で大喧嘩となった。そして事件当日。大家は怒鳴り散らしながら、安全員の荷物を外に放り投げた。

頭に血が登った安全員は、大家夫婦、息子、娘の4人に向けて拳銃を乱射。そして自身も命を絶った。撃たれた4人のうち、2人は即死、2人は意識不明の重態だという。

この事件を重く見た朝鮮労働党中央委員会は今月4日、両江道安全局に合同捜査団を派遣し、検閲(監査)を開始した。

別の情報筋によると、29歳の安全員は昨年、軍を除隊し、恵山市安全部に配属され、その後に道安全局に栄転した。大家の女性とは諍いが絶えず、事件の数日前から口喧嘩を繰り返していたという。

だが、大家一家とは当初、非常に仲が良かったことが知れ渡り、市民の間では様々な噂が立っていた。市民らはまた、中央の検閲に対し、「平壌出身の人を地方に配属したことがそもそもの間違いだ」と冷淡な視線で見ている。

生まれながらの特権層である平壌出身者だが、人手が足りないなどの理由で、地方の両江道に配属したのだろう。たとえ他意はなかったとしても、平壌出身者にとっては島流しにも等しい。それほど平壌と地方には大きな壁があるのだ。自分の意思に反して両江道に配属されたことで、相当の不満を抱えていたことは想像に難くない。

その後の捜査だが、噂が広まりすぎたことを負担に感じたのか、当局はあまり積極的ではないようだ。

別の情報筋によると、当局は事件について恵山市民にかん口令を敷いた。人民班(町内会)の会議でも、人民班長が事件について噂しないように釘を差した。

平壌から派遣された合同捜査団だが、安全員が民間人を殺害したことに対して非難する声を抑え込むのに注力し、事件の捜査そのものには力が入っていない。

しかし、安全員が自ら命を絶ったからと、捜査を早期に集結させようとする当局のやり方は、市民の怒りに油を注ぐ結果となっている。

別の情報筋によると、市民の間では様々な噂が飛び交う事態となっている。例えば、大家の女性と安全員は不倫関係にあったなどという噂が、安全部の幹部の話だとして広がっている。

こうした事件の発生そのものを「社会の統制を乱す」として忌み嫌う北朝鮮当局だが、わずか人口19万の小都市での衝撃的な出来事だけに、いくら市民の口を塞ごうにも、そう簡単にはいかないだろう。

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金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央通信)