TPP

7月16日TPP(環太平洋経済連携協定)に加盟する11カ国は、ニュージーランドで閣僚会議を開催し、イギリスの加盟を決定した。

TPPは、日本、オーストラリアニュージーランドブルネイマレーシアベトナムカナダメキシコペルー、チリの11カ国によって、2018年に発効した自由貿易協定である。これに今回初めて新規加盟国が加わったのであり、GDPで14.8兆ドル、世界のGDPに占める割合で15%、総人口は約5.8億人という大きな経済圏となった。

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■イギリス加盟の背景

「環太平洋」の国でもないのに、イギリスが加盟したのは、EU離脱によるマイナスを補うためである。イギリスは、2020年12月末にEUから離脱し、2021年2月にはTPPへの加盟を申請した。

EU離脱によって、イギリスの貿易量は約15%減り、GDPは1〜5%縮小すると見られている。一方、TPP加盟によって増えるのは、イギリスのGDP(2022年で2.2兆ポンド=約400兆円)の0.08%にすぎないと計算されている。それは、イギリスが、加盟国の多くとすでに貿易協定を結んでおり、TPP加盟で一気に貿易量が増えるわけではないからである。

EU離脱のマイナスを埋めるにはほど遠いのが現状である。


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■アメリカはTPPに復帰するか

アメリカのトランプ前大統領は、自由貿易の結果、中国から安価な輸入品が流入し、アメリカ人の雇用を奪ったとして、「アメリカ第一主義」の保護貿易政策を採った。そのため、2017年に政権に就くと、TPP加盟交渉から離脱してしまった。

その後、バイデン政権に交代したが、今のところ、アメリカが復帰する可能性はない。バイデンは、2022年5月23日にIPEF(インド太平洋経済枠組み)を立ち上げている。アメリカ、日本、オーストラリアニュージーランド、韓国、ASEAN7カ国(インドネシアシンガポール、タイ、フィリピンベトナムマレーシアブルネイ)、インドフィジーの14カ国が参加している。

IPEFは、(1)貿易、(2)サプライチェーン、(3)クリーン経済、(4)公正な経済の4分野で交渉するが、関税削減は交渉対象になっておらず、参加するメリットは少ない。


■加盟申請国

TPPには、中国、台湾、エクアドルウルグアイウクライナも加盟を申請している。しかし、中国がTPPの求める厳しい要件を満たしているかと言えば、疑問である。また、台湾については、加盟を認めれば、中国との間で政治的問題が生じる可能性が大きく、これも難しいのではないか。

さらに、ウクライナはEUに加盟申請している。前回の本コラムでEU加盟高いハードルがあることを説明したが、もしウクライナがEUに加盟すれば、TPPには加盟できなくなる。

ウクライナも容易にはEUに参加できないことは認識しており、その前にTPP加盟に加盟して、戦後の復興に備えるという選択肢もある。

■ワインが安くなった

関税が下げられたり、無くなったりする自由貿易の恩恵は、私たちの日常生活を見てもよく分かる。輸入品が安くなるのである。たとえば、ワインである。2019年にはEUやチリから輸入するワインの関税がゼロになった。スーパーではチリや欧州のワインが安価に入手でき、しかも味も良い。

私は若い頃フランスをはじめヨーロッパで生活したので、ワインは食事には欠かせない。かつては1本3,000円くらいの価格だったワインが、今では1,000円も出せば買うことができる。そうなると、日本酒よりも安くなる。それに、種類も豊富になっている。ありがたいことである。


■自由貿易こそ戦争回避の道

第二次世界大戦に至る経過を見ると、まず自由貿易が廃れ、保護貿易主義が拡大する。そして、ブロック経済となり、それは戦争の引き金となる。

グローバル化とは、人、物、カネ、情報が国境を越えて自由に流通することである。パスポートを提示することもなく、自由に国境を越えてヨーロッパ大陸をドライブすることができる。それがヨーロッパ統合の成果である。

ウクライナ戦争の結果、世界の分断が拡大している。それに歯止めをかけるためにも、一日も早い停戦が必要である。自由貿易と平和は表裏一体である。


■執筆者プロフィール

舛添要一


Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「TPP」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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