子育て中の母親にとって、「ママ友」との人間関係は大事にしたいもの。しかし、その気持ちを優先したいあまり、わが子の気持ちを無視して「ごめんね」という謝罪の言葉や、「いいよ」という許す言葉を、まだ人生が始まって3~4年しかたっていない子に強要していることはありませんか。その“危険性”について、子育て本著者・講演家として活動する筆者が伝えます。

「謝れば済む」という誤学習

 ある日の公園の風景です。

 砂場にバケツがあり、A君はそれを見つけて遊び始めました。するとB君が来て、A君が遊んでいるバケツを奪いました。そこに子どもたちのママがやってきて、次のように言いました。

 B君ママ「お友達のおもちゃ、奪ってはダメでしょ! 『ごめんね』は?」

 A君のママ「意地悪しないで貸してあげなさい。『いいよ』は?」

 B君「ごめんね」

 A君「いいよ」

 親にとっては「めでたし、めでたし」です。でも、子どもたちにとっては、単なる条件反射で出た言葉です。謝罪と許容を強要された2人の子どもは、納得はしていませんでした。さらに、この出来事からB君は「謝れば済む」と誤学習して、翌日も同じことを繰り返しました。

 この対応で、大人であるママ友同士との人間関係は、取り合えず悪化しないとは思いますが、果たして、肝心な子ども側の心はどうでしょうか。

子どもたちに「任せる」

 子どもの気持ちを考えてみましょう。

 A君は「僕が先に見つけたバケツだ。まだまだ遊んでいたい」、B君は「どうしてもそのバケツで僕も遊びたい。一体いつまで使っているんだ!」といったところでしょうか。でも、親からの叱責(しっせき)により、双方とも自分の意思とは違う行動や言動にならざるを得なくなるわけです。そんなときは次の対応をしましょう。

 B君ママ「A君は楽しそうにバケツで遊んでいたね、遊んでみたかったんだね。でもね、いきなり奪い取るのはよくないよ。『貸して』とお願いしてみようよ」

 A君ママ「まだまだバケツで遊んでいたいよね。でも、B君がバケツを貸してほしいんだって。どうする?」

 こう伝えた後は、子どもたちに任せるのです。A君が遊び足りなくてすぐに貸さなかったとしても、それはそれでよいのです。仮に、けんかに発展しても「相手に砂をかける」「おもちゃで相手を殴る」といった攻撃的なことをしていなければ、少し様子を見ましょう。

 これらは、親密になっているママ友との間でしかなかなかできないことかもしれませんが、ぜひ、子どものためにママ友と、「子どもの社会性を育てるために、私たちがすぐ仲裁に入るのはやめておこうね」と事前に打ち合わせしておきましょう。

 人生のスタート地点の幼少期に、「自分の気持ちを押し殺して、相手の気持ちを優先させる」ことばかりを強いられると、自分の気持ちはいつも後回しにし、自己主張ができない人間に育ってしまうかもしれません。公園の砂場では、時に、思い通りにならないことも起こります。だからこそ、社会を学ぶよい場所、よい機会です。

 子どもは自己中心的でわがままな生き物です。相手の気持ちよりも、自分の気持ちが優先です。それが子どもらしさであり、子どものいいところなのです。そして、「親が自分の気持ちを大切にしてくれた」実体験を通して、相手の立場や気持ちが分かる人間に育っていきます。

「ごめんね」「いいよ」「めでたし、めでたし」で片付けてしまわないよう、気を付けたいものですね。

子育て本著者・講演家 立石美津子

「ごめんね」「いいよ」の強要、していない?