首都圏における中古マンション成約価格は右肩上がりの推移をたどっており、夢のマイホームはどんどん手の届かない存在になりつつあります。しかし東京から一歩踏み出せば、平均的な収入のサラリーマンであっても十分にマイホーム購入を検討できる“穴場の街”はまだまだ存在します。いま、会社員が買える街…今回は「蕨」に焦点をあてます。
駅西口では大規模再開発が進行中
国土交通省『土地白書』によると、22年の首都圏・中古マンションの平均成約価格は、前年比10.5％増の4,276万円。とくに都心の物件は大きく値上がりしており、平均的なサラリーマンではなかなか手の届かない水準になっています。しかし、埼玉県にまで目を向ければ、十分にマイホームを購入できる穴場の街はまだまだ残っています。
たとえば今回取り上げる「蕨（わらび）」。
蕨駅は埼玉県蕨市にあるJR京浜東北線の駅です。2021年度の1日平均の乗降者数は約9万6,000人と、埼玉県内のJR・私鉄すべての駅の中で11番目の利用者数を誇ります。停車するのは京浜東北線のみですが、赤羽駅まで3駅、たった9分でアクセス可能です。赤羽で埼京線に乗り継いで池袋まで23分、新宿まで29分、渋谷へは36分（いずれも平日8時台の乗車）と都心への通勤も余裕の距離といえます。
蕨市といえば、全国の市のなかでもっとも面積が狭いことで知られています。直線距離で4km、徒歩1時間20分ほどで横断できる蕨市の人口は約7万5,454人。人口密度は全国の市町村でもっとも高い14,765人／平方キロメートルです。
蕨駅は、川口市との市境近く。駅東口を出ると、飲食店やカラオケなどが入る雑居ビルが並び、少々ごちゃごちゃした印象。駅前通りを進み、120mほどいった交差点を超えると、もうそこは川口市です。反対側の西口は、どこか懐かしい雰囲気のロータリーが広がり、東口よりは開けた印象です。その周囲にはやはり雑居ビルが建ち並び、飲食店をはじめとしたお店が集積。蕨市役所は西口から1.2km、徒歩で15分ほどのところあります。
レトロな雰囲気の漂う駅西口側では、『蕨駅西口地区第一種市街地再開発事業』が進行中。この再開発事業では、11年に先行整備された7番街区の高層マンション『シティタワー蕨』の隣に、いずれも100m級の2棟、総戸数400戸超の高層ツインタワーマンションを建設する計画です。低層階には、商業施設や図書館・行政センターなどの公共施設も入居予定であり、25年8月の竣工を予定しています。
現時点でもすでに、市役所をはじめとする行政機関に市内どこからでもアクセスしやすい蕨市。再開発によって行政手続きは駅西口周辺のみで完結できるようになり、市が将来ビジョンとして掲げている「日本一のコンパクトシティ蕨」の実現に、一歩近づくことになりそうです。
通勤電車の混雑には覚悟が必要だが…都心へのアクセス・マンション価格は魅力
赤羽駅経由で池袋や新宿、渋谷へもアクセスが容易な蕨。国土交通省『土地総合情報システム』によると、駅徒歩20分圏内で取引された中古マンションの平均取引価格は2,619万円、平均平米単価は47.06万円であり、単純計算では80平米程度の中古ファミリーマンションを3,700万～3,800万円で購入可能です。
実際に平均的な会社員が蕨で中古ファミリーマンションを購入した場合の返済プランをみていきましょう。
東京の会社で働く会社員（平均年齢：44.0歳）の平均給与は月収41.2万円、賞与も含めた年収は666万円です。駅周辺に購入するマンションの価格は平均的な価格帯の3,800万円。頭金を2割（760万円）入れ、残りは住宅ローンを活用します。返済方式は元利均等、金利0.5％・返済期間25年とすると、利息分は約195万円、月々の返済額は10万7,819円となります。ローンの返済額は年収の19.4％であり、住宅ローンの適切な返済割合とされる20%以内に収まっています。
そんな蕨の住み心地について、市の狭さを背景とする暮らしの利便性の高さを評価する声が目立ちます。
●市が小さいため、コミュニティ活動が活発。市民の声が、行政にも届きやすい
●市役所などの行政機関が近くて便利
●20分圏内にコンビニやスーパー、薬局、外食チェーンが集まっている
一方、治安を心配する声や、高い人口密度ゆえの道路の混雑などをネガティブに評価する声も聞こえてきます。
●この地域に多い外国人が、夜にコンビニ前にたむろしていることがあり、ちょっと怖い
●チェーン店は多いが、女子会ができるようなおしゃれなお店は少ない
●車通りが多く、とくに駅前は路上駐車が目立つ
西口の大規模な再開発により、さらに暮らしやすい街になることが期待される蕨。平均的な収入のサラリーマンであれば、「適切な水準」とされる年収の20%以内の住宅ローン返済割合で、ファミリータイプの中古マンションを購入可能です。通勤時間帯の京浜東北線や、赤羽から先の埼京線の激しい混雑には覚悟が必要でしょうが、都心勤務であれば、マイホームの候補地として検討してみる価値は十分にあるでしょう。
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