2022年、『トップガン マーヴェリック』で一大旋風を巻き起こしたトム・クルーズ主演最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が公開中だ。秘密部隊IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のイーサン・ハントが最新AIの争奪戦に巻き込まれる本作の日本語吹替版で、慈善家の顔を持つ武器商人ホワイト・ウィドウの声を演じているのが広瀬アリス。現在放映中の大河ドラマ「どうする家康」で家康の側室・於愛の方を演じ、その愛されキャラで注目される彼女が裏社会の策略家にどんな想いで臨んだのか胸の内を語ってくれた。

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ネット世界を支配する最新鋭AI“それ(エンティティ)”を搭載したロシア潜水艦が、ベーリング海で沈没。何者かによって“それ”を制御する2本の鍵が持ち去られた。アメリカをはじめ各国が鍵の争奪戦を繰り広げるなか、人類を破滅に導く“それ”を破壊すべきと考えたIMFのイーサン(トム・クルーズ)と彼のチームは、独自に行動を開始。広瀬が演じるホワイト・ウィドウ(ヴァネッサカービー)は鍵の争奪戦に関わる武器商人。政界にも太いパイプを持つ彼女は、独自のネットワークを使ってイーサンをはじめとする様々な人間たちを出し抜くため水面下で暗躍する。ホワイト・ウィドウのシリーズ初登場は前作『ミッション:インポッシブルフォールアウト』(18)で、引き続き2度目の参戦となる。

■「『帰ってきたよ』という感じを出したかったし、圧倒的にセリフ量が多くて苦労した」

「彼女はいろいろな人やものをつなげる役」と広瀬が紹介するように、ホワイト・ウィドウは利益のためなら善悪や陣営に関わらず仲介役として暗躍。テロリストへの兵器密売からCIAとの取引までこなし、サスペンス面で本作の中心的な役割を担っている。「だから私の出るシーンはアクションが少なく、かわりに駆け引きや心理戦がすごいんです」という広瀬が特に印象に残っていると語るのが、イタリアヴェニスの巨大なクラブのシーン。鍵を巡る取引の場に“黒幕”として突然彼女が現れる。「ここはサプライズ感があって好きですね。『帰ってきたよ』という感じを出したかったし、圧倒的にセリフ量が多くて苦労したこともあって、すごく印象に残っています」。

前作では「ジョン・ラーク」と名乗って彼女と駆け引きをしたイーサンをちらりと見て「ラークさんとお呼びすればいいかしら?」と上から目線で言い放つ姿も彼女らしい。「前作からのつながりをさりげなく伝えるところは彼女らしくていいですね」。そんなウィドウを演じるうえで心掛けたのは、女性らしさ、強さ、そして「圧倒的なくらい」な悪女感だという。「相手を皮肉るセリフも多いですから(笑)。ヴァネッサカービーさんの美貌と相まって、悪に振り切ったところがホワイト・ウィドウの魅力だと思います」。

■「続編で呼んでいただけるのは演じる側としてすごくありがたいこと」

5年前の『フォールアウト』でもホワイト・ウィドウの吹替えを担当した広瀬は、本作への出演にあたりリベンジの気持ちもあったと明かす。「初めてウィドウを演じたのは23歳の時で、まだお仕事の経験も浅く自分としては悔しい想いもあったんです。5年の時を経て同じ役をやらせていただき、純粋にうれしかったです」という広瀬。ヴァネッサカービーが『デッドレコニング PART ONE』にも出演すると知った時の感想を尋ねると「話が来たらいいな、と思いました(笑)。でもドラマのお仕事もそうですが、続編で呼んでいただけるのは演じる側としてすごくありがたいことなんです」と教えてくれた。

そんな広瀬は本作でホワイト・ウィドウのほかに別の役も演じている。一人二役の役作りは収録の現場で探っていったという。「吹替えのお仕事の経験が多くないので、手探りの部分はありました。演じ方は完全に切り替えてほしいとのことだったので、喋るトーンや口調を変えながら。ウィドウは年上の役なので演じる時は大人っぽく、地声よりもキーを下げてセリフを言っていますが、もう片方は少し早口で焦りの感情を表現したり。息ひとつで感じ方が変わるので、ウィドウとは違うテンポを心掛けてお芝居しました」と振り返る。

■「役柄に合わせて声質を変えられる声だけのお芝居は私にとって魅力的」

アニメーションを含め、キャラクターのイメージに合わせ俳優をボイスキャストに起用することが多い昨今。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(19)や『バブル』(22)などアニメーション映画でも活躍している広瀬は、声の仕事は通常のお芝居とは違う準備をするという。「声優さんのお仕事は専門職だと思っているので、声のお仕事の時は新人の気持ちで取り組んでいます。役作りは映像や台本を何度も見返して、感じたことなどを台本にどんどん書き込むようにしています。台本段階の準備が普段より多いです」。

声の仕事は難しいが「広瀬アリス」を消せるおもしろさがあるという。「通常のドラマや映画のお仕事では顔と体と声を使って演じるので、アリスが強く出ていると感じることもあるんです。それはすごく嫌なので、役柄に合わせて声質を変えられる声だけのお芝居は私にとって魅力的。完全に自分を消せるお仕事です」と明かしてくれた。

1996年の第1作から27年にわたって愛されてきた「ミッション:インポッシブル」シリーズ。映画はジャンルを問わずなんでも観るという広瀬は幼いころからシリーズを観続けてきた。「母と兄がすごく好きで、小さいころから一緒になって観てきました。どんなピンチになっても最後にミッションが成功するとわかっているのに、ラストまでハラハラドキドキさせてくれるのが好き」と振り返るが、一番の魅力はやはりトム・クルーズのアクション。「あり得ないトム・クルーズさんのアクションを間近からちゃんと見せるという、このシリーズならではの撮り方が好きなんです。今回のポスターにもなったスカイダイビングもそうですし、ダイナミックな戦いもそう。だから映画を観ている間中、最初から最後までドキドキがずっと続くんだと思います」。

■「吹っ飛ばす側じゃなく、思い切り吹っ飛ばされるのを経験したい」

ラブストーリーからエンタメ大作まで幅広く活躍している広瀬は、自らもアクションの経験者だ。「思い出深いのは『地獄の花園』で、3人の俳優さんとタイマンするシーンはほんと楽しかったです」と回想し、挑戦してみたいアクションにワイヤーアクションをあげる。「ワイヤーは2回くらいしか経験がないんです。吹っ飛ばす側じゃなく、思い切り吹っ飛ばされるのを経験したいです」と笑う。デビュー前はバスケットボールに打ち込み、最近はスカイダイビングに挑戦する運動神経の持ち主だけに、特に苦手なシチュエーションはないという。ただし「ミッション:インポッシブル」シリーズのアクションでチャレンジしたいものを聞くと、「どれもNG」という回答が。「毎回観るたびに、なにやってるんだ、この人はと思っているので(笑)。飛行機につかまったまま飛ぶとか、高いところから落ちるとかどれも規格外すぎて絶対無理。骨が折れているのに走るとか、ついていけないです(笑)。だからこそトム・クルーズさんの作品はすごく価値があるんだと思います」。年齢を重ねながらも過激さを増す姿は驚きしかないと感嘆。「体力の衰えも一切感じさせないところは本当にすごいです。何歳になってもかっこいいし、すべて自分自身でやられる姿は尊敬します」。

映画を観るのは大好きだが、多忙のため仕事以外で映画館に足を運べなかったという広瀬だが、今年は久しぶりに『THE FIRST SLAM DUNK』をスクリーンで楽しんだという。「ずっとオフに外出しなかった私が久しぶりに映画館に行って、やっぱりいいなと実感しました。迫力が全然違うし、スクリーンと自分だけの世界に浸る感じがよかったです。映画館に行く間隔が空きすぎたので、時間を見つけてどんどん行きたいと思います」という広瀬は『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』はまさに映画館で味わってほしい作品だと推す。「スクリーンで観ると一体感が全然違うと思います。スピードがとにかく速いし、POV(主観映像)も入ってくるから目が回るくらいじゃないかな。映画の中に入り込めるし、すごくよい時間が過ごせると思います」。

ミッション:インポッシブル」ならでは絶対的な安定感もポイント。自身の演技にも手応えを感じている。「5年ぶりの待ちに待った作品だし、お馴染みのメンバーでテイストも変わってないけど、アクションはよりダイナミックになっているので本当に時間を忘れて夢中になれると思います。個人的には5年ぶりに続投させていただいた、私の成長も楽しんでいただけたらうれしいです」。

取材・文/神武団四郎

「ミッション:インポッシブル」のアクションをやってみたい?に対する広瀬アリスの回答は…/撮影/河内彩