一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今回はフィリピンへの海外からの投資増大の動きと、さらにこれを促進させるであろうソブリンウェルスファンド・マハリカ基金法制化の最新の動きについてみていきます。

規制緩和で「再生可能エネルギー」への投資に関心高まる

フィリピンでは、再生可能エネルギープロジェクトの外国所有は以前は40%に制限されていましたが、政府が昨年11月に再生可能エネルギー部門の完全な外国所有を許可したことにより、再生可能エネルギーへの投資への関心が高まっています。

フィリピン投資委員会(BoI)は、2021年1月から6月までの間に155件のプロジェクトから約6,980億ペソ(約1兆4,000億円)の投資を承認しました。これは、前年の108件のプロジェクトから2300億ペソ(約4,600億円)の投資額を大幅に上回るものです。この半年間の承認された投資のうち、再生可能エネルギー部門は5,365億ペソ(約1兆7,300億円)と全体の3/4を占めています。太陽光、風力、水力、バイオマスプロジェクトなど、30のプロジェクトが含まれています。

BoIはまた、95.5億ペソ(約191億円)相当の8つのITプロジェクト、21.3億ペソ(約42億円)相当の5つの物流関連プロジェクト、16.1億ペソ(約32億円)相当の21の製造業プロジェクト、および6.4億ペソ(約12.8億円)相当の11の農業プロジェクトを承認しました。承認された投資の60%、つまり4,230億ペソ(約8兆4,600億円)は外国からのもので、前年の78.9億ペソ(約157億円)から52倍増加しました。投資元別にみるとドイツが最も多くの投資を行い、3930億ペソ(約7兆8600億円)。これに続いてシンガポール168億ペソ)、オランダ357億ペソ)、フランス204億ペソ)、アメリカ(190億ペソ)が続きます。

また、フィリピンローカルの投資承認額は2,750億ペソ(約5,500億円)に上昇し、前年比24%増加しました。地域別にみていくと、西ビサヤ地域が3,060億ペソ(約6,120億円)で最も多くの投資を受け、カラバルソン地域(1,640億ペソ)、イロコス地域(555億ペソ)、中部ルソン地域(287億ペソ)、および首都圏256億ペソ)が続きます。

BoIの議長である貿易大臣のAlfredo E. Pascual氏は、「投資承認の増加は、フィリピンが投資先としてますます魅力的になり、経済成長と発展のさらなる可能性を示していることを反映している」と述べています。

これらの新たな投資は、予測されていた15,301人から96%増加した29,965人の雇用を創出する見込みです。フィリピン政府は、再生可能エネルギー部門の外国所有を完全開放するだけでなく、公共サービス法、外国投資法、小売業自由化法も改正し、さらなる投資を誘致しています。

また、昨年来のマルコ大統領の日本、米国を含めた外国訪問での投資誘致活動で獲得した投資コミットメントは、今後数ヵ月でさらなる外国投資を後押しする可能性があり、BoIの2023年の投資承認目標1兆5,000億ペソ(約3兆円)を達成する可能性が高いと見られています。

さらには、フィリピンのRegional Comprehensive Economic Partnership(RCEP)貿易協定への参加も、投資を促進する可能性があります。

RCEPは、東南アジア諸国連合ASEAN)10ヵ国、日本、オーストラリア、中国、韓国、ニュージーランドが参加する貿易協定で、関税を引き下げたり撤廃したりすることで参加国間の貿易を促進することを目指しています。

フィリピン「国営ファンド」創設に向けて…課題は?

マルコ大統領は、経済学者らが資金調達と運営に関して懸念を表明していた、ソブリンウェルスファンド*を創設する法案に署名しました。この法案は、フィリピンの経済成長、さらにはインフラストラクチャーの整備を促進することを目指すマハーリカ投資基金(MIF)法(共和国法第11954号)です。

*国家の金融資産を積極運用する政府が出資する投資ファンド

マラカニアン宮殿は、新たに署名された法律の文書をまだ公開していませんが、大統領広報局が発表した情報に基づくと、同基金は5,000億ペソ相当の優先株式と普通株式を発行し、政府(NG)、国営企業、金融機関が出資できるようになるとのことです。初期資金の1,250億ペソは、フィリピン娯楽事業公社(PAGCOR)やその他の政府所有のゲーム事業者や規制機関からの収入、民営化収益、政府資産の譲渡などから調達されます。

NEDA長官は、政府はマハーリカ投資基金(MIF)を活用して、エネルギー部門などの戦略的な領域はじめ資本が非常に必要な領域はたくさんあるとしています。また、現在、フィリピンは2025年までに世界銀行の設定しているカテゴリーで低中所得経済国から上中所得国への昇進を目指していますが、マハーリカ投資基金(MIF)は、フィリピンが上中所得国カテゴリーに昇格して、公的開発援助などの優遇融資を受ける資格がなくなる場合に、債務調達の代替手段としても機能するとも述べています。

一方で、一部の専門家からは、ガバナンスに関連する問題や、議会が予算の権限を放棄してしまうことについての指摘もあります。さらにマハーリカ投資基金(MIF)に中央銀行が全額の配当を提供することが求められるため、中央銀行の資本増強により多くの時間を要することになります。現在の世界経済の不確実性と変動性の時代において、通貨当局はむしろ強化されるべきとの意見もあります。

またマハーリカ投資基金(MIF)に使用される公的資金を補充するために、政府は税金を増やすか、国内外で資金を借り入れるか、または両方を行わなければならなくなる可能性も指摘されています。そして、マハーリカ投資基金(MIF)が医療、住宅、教育などの社会サービスに使用可能な公的資金を減少させる可能性があるとの懸念も一部の専門家から指摘されています。

マルコ大統領は、マハーリカ投資会社(MIC)が、政治化されないようにすることを強調し、基金の決定は政治的なものではなく、財務的なものでなければならなず、それが基金の本質で、基金が利益を上げられない場合、基金は失敗する、シンプルなことだと述べています。

マラカニアン宮殿の文書によると、MICは財務大臣を含む9人のメンバーで構成される取締役会を持つ予定ですが、大統領や財務大臣が意思決定のループに入れると、その決定は政治的な考慮によって色づけされるとし、マルコ大統領は演説で、財務大臣だけでなく大統領もMICの取締役会のメンバーに含めるべきでないと述べています。

ディオクノ財務大臣は、財務大臣がマハーリカ投資基金(MIF)を運営することはなく、非政治家である9人のメンバーからなるマハーリカ投資会社の独立した取締役会が基金を運営。予算管理局、NEDA、財務省による投資とリスク管理のための諮問機関を設置する予定です。

マハーリカ投資基金(MIF)は国際的に認められた透明性の基準に従うよう求められ、厳格な財務報告と監査システムを採用し、監査委員会、内部監査人、外部監査人、および監査機関による厳格な審査と監査を受けることになります。また、MIC法は、さまざまな違反行為に対して100万ペソから1500万ペソの罰金と、6年から20年の懲役刑を規定しています。

署名式の後、この法律の実施規則(IRR)は年内に完成する見込みで、マハーリカ投資会社(MIC)は、2024年末までに完全に稼働する予定です。

写真:PIXTA