あまりにもゴージャスなメンバーの名前。そして、ずっと見ていると体力がごっそり持っていかれそうになるアーティスト写真。しかもファンの名称は「カロリー」。そんな情報過多な7人組のバンド、デラックス×デラックスが6月2日に1stフルアルバム『千紫万紅(せんしばんこう)』をリリースした。結成の地・沖縄で頭角をあらわし、2023年2月に上京。「昭和歌謡」をモチーフとした楽曲とバンドの活動スタイルがSNSで話題となり、TikTokのフォロワーは7月の時点で約18万人。その一方で、まだ謎に包まれている部分も数多い。そこで今回は、メンバーの輝夜朝蛾王(カグヤアサガオ/Vo.)、道頓堀桜(ドウトンボリサクラ/Dr.)、虎吼(コク/中央守備(SP、DJ、マニュピレーター))に、同バンドについて話を訊いた。

輝夜 朝蛾王(カグヤ アサガオ)

輝夜 朝蛾王(カグヤ アサガオ

ーー1stフルアルバム『千紫万紅』はそのタイトル通りとても多彩な曲が並んでいますが、軸となるのは「恋愛感情」だと思いました。その点を重要視されている気がしますが、いかがですか。

朝蛾王:恋愛感情は人となりが一番出るものだと思います。誰をどのように愛するのか、そして愛されるのか。恋愛感情はとても人間味があるものだから、楽曲を作るときも自然に出てきます。特に私は、相手に対して「好き」という気持ちをとてつもない量で浴びせるタイプ。好きな人、友だち、メンバー、誰であってもそれを伝えたくて仕方がないんです。相手がどう受け取るとか考えていなくて、一方的に愛をぶつけます。ただ、それだと「グイグイ来すぎ」となるから、このところは冷静にブレーキを踏む準備はしています(笑)。

:私は正反対ですね。「好き」と言う言葉をストレートにぶつけず、何個もいろんな言葉に変換して使うんです。夏目漱石さんが「I love you」を「月がきれいですね」と訳したように、遠回しに表現して、結局伝わらないことが多いです。でも根本にあるのは、引きずり続けて、卑屈で、そして自分のなかで熟成された感情。それを歌詞にしたためます。好きという気持ちが伝わらないときばかりですけど、「それはそれで良いや」って。あと、過去の恋愛をスッパリと忘れて「次」ではなく、そのまま持って行って、一生引きずり続ける感じです。

朝蛾王:前回のミニアルバム『女を月に例えるなんてハレンチね』(2019年)では、私が書いた「線香花火」、桜ちゃんの「涙流れたのは」にお互いの初恋的要素が入っていました。でも初恋がテーマでも世界観が全然違う。今回も桜ちゃんの「嘘とアイスコーヒー」と、私が考えた曲は、まったく異なる恋愛観が描かれています。そういえば虎吼って、どんな風な人の愛し方をするの?

虎吼:僕は当たって砕けろの精神かな。で、何度も砕けてきました(苦笑)。自分でこんなことを言うのもなんですが、ありがたいことに「モテそうだね」とよく言われるんです。でも「だとしたら、なんでこんなに成功してないんだろう」って。自分はいつの間にか誰かとよく一緒に過ごすようになって、そうしたら突然、パーンとそれが愛へと変わっていきなり気持ちをぶつけちゃう。ただ、あまりに突然すぎて相手がびっくりしちゃって、知らない間にフラれてる。

朝蛾王:ああ、確かに虎吼が砕け散ってきているところをよく見てきた。

道頓堀 桜(ドウトンボリ サクラ)、虎吼(コク)

道頓堀 桜(ドウトンボサクラ)、虎吼(コク)

虎吼:でも音楽を作ったり、聴いたりするとき、感情が動きやすいテーマってやっぱり恋愛な気がします。恋愛でなにか問題が起きても、それを曲にできるし。

:自分が作る曲には、そういう気持ちがめちゃくちゃ入っています。なんならそういう引き出しが何個もあって、そのなかに恋愛の話がいろいろ入っていて、いつでも取り出せるようにしています。

朝蛾王:その恋愛の引き出しはさ、どんな風に入れているの? 私の場合は引き出しの一番前には、その恋が終わるときの感情がある。だから、本当はもっと楽しかったはずの恋の思い出も、「終わった瞬間」に隠れちゃってなかなか取り出せない。だから私が作るものは別れたときの感情の曲が多いのかも。それに多くの恋愛って寂しさで終わるケースが圧倒的というか、スッキリと終わる失恋なんてほとんどないじゃないですか。「女心ミステリヰ」は逆に幸せな感情だけで書いたのですごく挑戦的だったけど、やっぱり幸せを思い出すのがしんどかった。「じゃあ、あのときなんで別れたんだろう」って(苦笑)。「あの恋はしんどかった」と感じたままにしておく方が楽なんだなと、「女心ミステリヰ」を書きながら考えていました。

:私は、そもそもそれが恋愛に発展しているのかどうか、もしくは失恋と呼べるのかというところから始まるんです。結局、私のなかではどれも全然終わりがきていない。片想いのままだったりするし、その長いロールも切らずにそのままにして、また別のロールを作ったりする。だから恋愛のロールが何本もあるんです。一生忘れられないロールがリアルに7本くらい(笑)。

輝夜 朝蛾王(カグヤ アサガオ)

輝夜 朝蛾王(カグヤ アサガオ

ーーデラックス×デラックスの曲は、そういう恋愛要素が昭和歌謡というジャンルへうまく落とし込まれています。でも実はみなさん、年齢的にはほぼZ世代なんですよね。

朝蛾王:そうなんです。私が昭和歌謡を好きになったきっかけは祖母の影響です。祖母がカラオケ教室に通っていて、美空ひばりさん、山口百恵さんの曲をよく歌っていたので、昭和歌謡に親しむようになりました。

:私は好きなものを深掘りするんです。たとえば最初に触ったゲーム機はお父さんが使っていたスーパーファミコンで、それにハマって、次に先世代ゲーム機ファミコンにも手を出したり。ルーツをたどるのが好きだから、昭和、大正のものに興味を持ちました。

虎吼:私もおばあちゃんが漫画好きで、その影響で昔の漫画をよく読んでいたんです。音楽も、1980年代のバンドの曲を聴いたりして。

道頓堀 桜(ドウトンボリ サクラ)

道頓堀 桜(ドウトンボサクラ

ーー昭和の音楽、映画、ドラマ、漫画とかってコンプライアンスも今よりゆるく放送禁止歌のようなものも多かったですよね。つまり、良くも悪くも今ではできない表現だから刺激的に映って、昭和リバイバルにもつながっている気がします。

朝蛾王山口百恵さんの「プレイバック part 1」(※)とか、すごいエッチでしたもんね。そういう「昔は刺激的だった」ということを、ネットなどが当たり前にある今の時代だからこそ、ここまで深く掘っていけるんだと思います。

(※シングル曲となった『プレイバック part 2』とは別曲。1978年リリースのベスト・アルバム『THE BEST プレイバック』収録)

:世代的にネットネイティブで、調べたらほとんどのことが出てくるという状況が幼少期からありましたし。最近はサブスクが主流になり、スマホひとつで音楽の歴史をたどることもできる。勉強すること自体が便利になってきて、その分、大人になってもいろんなことが学べますよね。

朝蛾王:興味があることは自分でとことん探しに行ける環境だし、そういう部分が昭和リバイバルに少なからず影響している気がします。それに人間は真新しいものに興味を持ちやすい。昭和の文化、アイテム、考え方って令和の日常にはないものばかり。だから新鮮で、おもしろく感じるんじゃないかな。

虎吼(コク)

虎吼(コク)

虎吼:SNS中心の生活になり、昭和ではあり得なかったアーティストとファンの距離感もできあがりましたし。僕たちの親世代は、好きなアーティストはテレビで観るものだった。コンサートもあったけど、距離という点では今ほど近くはなかったはず。でもSNSで、アーティストとファンの関わり方も変わってきた。若い世代はもちろんのこと、一度は昭和を経験している上の世代のみなさんも、今、新しい青春が獲得できているんだと思います。もちろん僕らのように昭和歌謡をテーマにやっている若いバンドを見て、「こんな子たちがいるんだ」と興味を持ってくれることもあるでしょうし。

:SNSでいうと、ショート動画で昭和歌謡の一部だけをカバー演奏して投稿できるのも大きい。それも昭和リバイバルを後押ししているはず。「サビだけ切り取って流すのはどうなのか」と反論もあるでしょうけど、どうやって興味を持たせるかが大事だし、なにより若い世代にとってはそれがすごく新鮮に聴こえてくるはず。昭和にはできなかった、現代ならではの試みなんじゃないかなって。

朝蛾王:むしろそういう時代に生まれたからこそ、あまり変だとは思わない。昭和リバイバルって、昭和の頃の印象をそのまま引っ張ってくるのではなく、それを通して新たな印象や価値観が芽生えることだと私は思います。なんなら今は日本だけではなく海外でも気軽に聴ける。そうなると受け取り方はもっと変わってくる。だからこそ私たちも、昭和歌謡を題材に「令和歌謡」が作れているんです。

デラックス×デラックス

デラックス×デラックス

ーーみなさんの世代観などが楽曲に詰め込まれていることがよく分かります。デラックス×デラックスって、よく「メンバーの総体重」や「これだけたくさん食べられる」という部分がまず前に出てきますよね。それってすごくキャッチーである反面、バンドとしてボヤける情報も出てくるはず。でも今回のインタビューで見えなかったバンド像が浮き上がってきた気がします。

朝蛾王:「総体重」や「食欲」のネタはキャッチーだから、入口になりやすい。それをキッカケにして私たちのことを調べてもらうと、「実は楽曲が良いんだ」とかギャップが感じられるはず。バンドマンって、細くて、クールで、格好良いものだけど、私たちはあえてすべて逆をやっている。太くて、とにかく華やかで、優しさが感じられるスタイル。それをあえて選んでやっていこう、と。昭和歌謡と一緒で気になったら自然と自分で調べるでしょうし、そういうこともひっくるめて楽しさを感じてもらえるバンドだと思います。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=高村直希

デラックス×デラックス