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「国民負担増やさない」 波紋を呼ぶ首相発言

英国政府の重鎮の1人である保守党議員のマイケル・ゴーヴ氏は、2030年からガソリン車とディーゼル車の国内新車販売を禁止する政策の変更について真っ向から否定し、「方針は変わらない」と明言した。

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この発言は、政府の気候変動対策に疑問を投げかけたリシ・スナク首相の発言を受けてのものだ。

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現在の気候変動対策が国民の負担増につながる、とも解釈できる首相の発言には批判も集まっている。

気候変動に焦点を当てた「国民に不公平な影響を与える」新法はトーンダウンするとの噂が高まる中、スナク首相は7月24日の講演で、ICE(内燃エンジン車)の禁止が当初の予定通り実施されるかどうかを明確にしなかった。

その上で、英国は「ネットゼロに向けて前進する」としながらも、「人々の生活に不必要に手間とコストを増やさない」「相応の現実的な方法で」前進するとし、「(負担増は)わたしの関心事ではないし、そうする用意もない」と述べた。

しかし、翌25日の朝、ゴーブ氏はBBCラジオ4の番組『Today』で、これは事実ではないと語った。

2030年にICEの新車販売を禁止することは、人々に過剰なコストを課すことになるのではないかという質問に対し、「そうではありません」と彼は答えた。

「わたし達は、2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売をゼロにするという方針を維持することを約束します」

「その方針を変えたいと思う人がいるのは理解していますが、しかし、方針は変わりません」

スナク首相の発言は、主に保守党の右派議員からなる新グループの閣僚らが、いくつかの環境政策について再考を求めた後のことだった。これに対し、スナク首相は次のように述べた。

「わたしは英国国民のために立ち上がる。なぜなら、インフレが進む時代を生きていることも認識しているからです。インフレは家計や家族の生活費に影響を及ぼしています。わたしはそれを増やしたくない。もっと楽なものにしたいのです」

英国政府の現在の計画では、2030年からハイブリッド車とEVのみの販売が認められ、2035年からはEVのみの販売となる。ICEの禁止は、自動車業界にとって史上最大の政策と言っても過言ではない。

禁止令は当初は2040年に施行予定だったが、政府が掲げる2050年のネットゼロ目標に向けた取り組みの一環として2030年に前倒しされた。この禁止令へのコミットメントについて尋ねられたスナク首相は、次のように答えた。

「もちろん、ネットゼロはわたしにとって重要です。だから、そう、わたし達はネットゼロの目標に向かって前進し続け、エネルギー安全保障も強化するつもりです」

しかし、同時に他の手段も検討すべきであるとも述べている。

「ここ1、2年の出来事は、原子力発電や洋上風力発電など、国産エネルギーへの投資の重要性を示していると思います。それこそが国民が望んでいることであり、わたしはそれを実現するつもりです」

この発言の数日前、7月19日にはインドの自動車メーカーであるタタが英国サマセット州に総額40億ポンド(約7200億円)を投じて巨大バッテリー工場を建設すると発表したばかりだ。

英国でのICE販売禁止は政府公約

政策変更の可能性を残すかのような発言を受けて、首相の公式報道官は、2030年にICE販売禁止を実施するという確約を求められた。報道官は英ザ・テレグラフ紙にこう語った。

「わたし達の約束に変わりはありません。首相から聞いたように、わたし達がしたいことは、このアプローチが相応かつ現実的で、国民に不当な影響を与えないようにすることです」

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報道官や他の議員は政策変更の可能性を否定している。

「それは、国民や企業が期待することだと思います。しかし、明らかに2030年アプローチはわたし達のコミットメントであることに変わりはありません」

さらに、政府はネットゼロ政策が「すべて」「相応で現実的なものであることを確認したいと考えており、現在取り組んでいる」と付け加えた。

2030年禁止令に対する「アストン マーティン免除」

政府はまた、ICE禁止に対する「アストン マーティン免除」を考えていると英タイムズ紙は報じている。これは、生産台数の少ない自動車メーカーにEVへの切り替え期間の猶予与えるためだ。

これに先立つ2月、欧州連合(EU)の立法機関は、これらの「ニッチ」メーカーが2035年の禁止(欧州の計画)後もEUでICE車を販売できる可能性があることを認めた。具体的には、年間登録台数が1000台未満のメーカーは、禁止令の対象外となる。

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規模の小さい少量生産メーカーには、ICE禁止の緩和措置が講じられる可能性がある。

小規模メーカーの免除は英国政府も検討している。2月、運輸省の広報担当者はAUTOCARに対し、この免除が含まれる可能性を排除していないと語った。

リシ・スナク首相の発言に批判殺到

前述の首相の発言は、自動車業界の一部から批判を集めている。

英国の充電設備事業者を代表する団体ChargeUKは、ZEV(ゼロ・エミッション車)政策の一環として、「英国全土にEVインフラを前例のないスピードで展開するために60億ポンド(約1兆円)以上を投入した」と述べた。

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EV普及に向け、英国内の充電インフラ整備にはすでに多大な投資が行われている。

これにより、「良質で持続可能な雇用が創出され、EVへの転換が支援されるとともに、排出ガスが削減され、すべての人のために大気質が改善された」という。

「もし政府が公約を守らなければ、この投資と市場におけるEVの供給が危険にさらされることになります」

ChargeUKのメンバー企業はすでに、交通の電動化を支援し、よりクリーンな未来を切り開くためのインフラを提供しています。ChargeUKのメンバー企業は、英国がEVを所有・充電するのに最適な場所になるよう尽力しており、その鍵は、適切な場所に適切な充電インフラを設置することです」

もう1社、激しい批判を展開したのはInstavolt社で、首相のコメントを「まったく受け入れられない」とした。

同社のエイドリアン・キーンCEOは次のように述べた。

「ロードス島(ギリシャ)での山火事と今週の記録的な気温を考えると、このタイミングでの呼びかけは特に目を引きます。政治家の野心の欠如と身勝手さを示しており、彼らは、気候危機が迫っているのではなく、すでに到来していることを忘れているようです」

「これらの公約とその成果は、具体的な改善をもたらし、汚れた空気を浄化するのに役立つでしょう。政策の実現が必ずしも容易ではないことは承知していますが、汚染を引き起こしている都市や町で持続可能な交通を実現するためには不可欠なものです」

「政府の保護と支援がなければ、消費者の信頼は最も必要なときに低下し続けるでしょう。政府は、”Build Back Green” を掲げましたが、今回のような話はこうした公約に反するものです」


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