人生100年時代、定年後も資産を増やしていくことが求められます。有効とされる方法の一つが、毎月一定額ずつ「投資信託」を購入する「つみたて投資」を、国の税制優遇制度「NISA」を用いて行うことです。では、どのような投資信託を選ぶべきでしょうか。ファイナンシャルプランナーの横山光昭氏が著書『定年後でも間に合うつみたて投資』(角川新書)より、投資すべき「国」を選ぶ際のポイントについて解説します。

リスク許容度から配分を考える 

投資信託で「米国」や「新興国」を購入するのは、一般的にリスクが高いと言われます。リスクを取れるのであれば、「米国」や「新興国」をしっかり買いましょうということも言われます。

しかし、そもそもどの国のリスクが高くてどこが低いかということは、どうすればわかるものなのでしょうか。

昔は、外国株を減らして国内株が多く入っている商品の方が、リスクが減って安定型だという考え方がありました。しかし、これはおかしいと思います。「国内」は安定していて安心だという話はどこから来たのでしょうか。

逆に「国内」は不確実性が高く、リスクも大きいと思います。リスクを減らすという方向に走ると、債券を入れていくようなイメージになってしまいますが、それも違うように思います。

また、リスクが怖いと言いながらずっと1本しか買わないのも、どこか違うのではという感覚があります。リスクが高いから投資はしないということではなく、金額のボリュームを小さくすれば問題は少なくなるようにも思います。

よく「1千万円と1万円の違い」のようなことが言われます。例えば、ビットコインには暴落のリスクもあってどうなるのかわからないので、1千万円分持つのは確かに怖いことですが、1万円だったらあまり気にならない、とも言えるわけで、金額の調節をすることによって意識が変わっていくのかもしれません。

リスク許容度が低い人は、配分をどうするということよりも、まずは少額から始めてみるのが妥当だと思います。あとは投資先を分散させ、段階的に上がっていくことによって、初めて自分の許容度がわかっていくと言えると思うのです。

最近のトレンドは、投資先の配分が偏りすぎている傾向にあります。これもリスクが高いと言えます。リターンがそこそこあるという理由から、分散を考えない人が増えていますが、これは、リスクが高いとか許容度がどうかということではなくて、そもそも投資の本質的なところをとらえられていないのではないでしょうか。

特に「米国」ばかりに偏りすぎている気がしますが、「米国」が10〜20年先も今と同じように順調に伸びていくかといったら、また違う可能性もあり得ます。

もちろん、米国一国だけとはいえ、これには約4千銘柄入っているので、すでに分散投資がなされていると言えます。しかし、結局のところ投資先がその1点だけということになれば、それはやはり本当の分散投資ではないというように解釈しています。

では、「米国」以外でどこがいいのかとなると、シンプルに言えば「全世界」となります。米国が多く入っていることに変わりはありませんが、日本も含めた「先進国」や「新興国」などの世界株式がワンパッケージで入っているタイプです。基本的には「全世界」を軸にしつつ、分散させる形がいいと私は思っています。

「全世界」の方が「米国」よりも幅が広くてリスクは少ない。その代わり、「米国」ほどのリターンが出ないと思っておく必要があります。「米国」の方が当然ながらリスクが高く、高いからこそリターンが出る可能性も高いと言えます。ただ、大きく落ちる可能性があるのも「米国」で、「全世界」はまずそこまではいかないだろうと考えられます。

日本に投資すべきかという問題 

日本という国を投資の対象に引き戻すためには何ができるかを考えようとすると、この国を根本的にどうするのかという話に行き着いてしまいます。

まずは従業員の給料が上がらない問題です。給料が上がっていかないとなると、根本から苦しいわけです。

上げられない理由の一つに、企業が内部留保をしっかりと持っておこうという思いもあるのでしょう。しかし、そもそも余裕がないので、給料が上げられないという状況なのだと思います。

[図表3]は主要国の平均賃金推移です。日本は終身雇用年功序列がある特殊な国です。終身雇用は、定年まで同じ企業で安定して働き続けられる仕組みではありますが、反対に個人の成果がなかなか給料に反映されにくい面があります。

政治の面から見ても、「本当に資本主義国なの?」と思うくらい、分配に力を入れています。米国は完全な資本主義と言っていいと思いますが、従業員のクビをばっさり切ってしまいます。

イーロン・マスクがツイッターを買収して、全社従業員7,500人の8割以上を辞めさせたりもしました。人を変えることがいい循環となり、どんどん業績を伸ばしていこうとする。そういう考え方の体質は日本とはまったく違っています。

日本で「明日から来なくていい」などとやったら間違いなく問題視されます。それはそれで日本のよさなのかもしれませんが、経済発展を考えるとプラスにはならないでしょう。

日米では経済政策もまったく違います。

米国はインフレが続く限り金融引き締めをやめないでしょうが、日本は基本的に金融緩和路線のままです。もし、他の国と同じように引き締めをやるとしたら、金利が上昇して借り入れができなくなり、日本企業は大量倒産騒ぎになってしまう怖れがあります。

金融引き締めをしないと、この先もずっと円安が続くことになるでしょう。しかし、円安だから、持っているドルを売って円を買うといった一時的なことではなくて、根本的な金融政策を打っていく必要があります。今の日本は物価高だけで大変なのに、金融引き締めで貸し出し金利が上げられ、経済活動が抑制されて景気が悪くなったりしたら、それこそ大変です。

なお、2022年9月、黒田東彦総裁(当時)は大規模な金融緩和の維持を打ち出していましたが、12月下旬に政策を修正し、長期金利上限を0.5パーセントとしました。インフレ抑制を優先する動きのようです。

ウォール街には、モルガン・スタンレーやゴールドマンサックスという投資銀行があります。昔は日本に対して投資したいという需要があったので、当然のように日本株専任の担当を置いていました。

しかし、ここ2〜3年は「日本株を買うやつなんていない」らしく、すでに日本株担当者を置いていないという話を聞きました。日本は捨てられたとまではいかなくても、すでに眼中にないということで、世界経済の中での日本の地位低下を物語っていると思います。やはり、投資の対象はまず「全世界」。そして「米国」や「先進国」にも目を向けていく意識で取り組むのがいいでしょう。

横山 光昭

株式会社マイエフピー 代表