綾瀬はるかが、アクション映画で“史上最強のダークヒロイン”に。この謳い文句だけで心惹かれるものがあるだろう。コメディからシリアスまで幅広い演技で観る者を魅了する綾瀬だが、『ICHI』(08)では華麗な剣術、テレビドラマ精霊の守り人」では洗練された殺陣にワイヤーアクションを披露。近年も、『奥様は、取り扱い注意』(20)では東南アジアの伝統武術カリとプンチャック・シラットがベースの肉弾戦をこなした一方で、『レジェンドバタフライ』(23)では、気品高い濃姫らしい乗馬や大立ち回りを演じきるなど、様々な作品で新たなアクションに挑戦してきた。

【写真を見る】役への憑依するジェシー(SixTONES)!狂気を宿した立ち姿は、”ジョーカー”的な存在

8月11日(金)に公開となる『リボルバーリリー』では、そんな綾瀬の集大成とも言える超絶アクションが炸裂する。MOVIE WALKER PRESS編集部は、2022年8月に行われた撮影現場に潜入。東映東京撮影所の大規模セットで繰り広げられる、激しいガンアクションシーンの様子を、本作のメガホンを取った行定勲監督と紀伊宗之プロデューサーのインタビューと共にお届けする。

大正時代にタイムスリップ!脚本の世界観に沿って造られたセット

長浦京の同名⼩説を原作とした『リボルバーリリー』は、大正時代の1924年の帝都・東京が舞台。綾瀬演じるリボルバー使い手の小曾根百合が、羽村仁成(Go!Go!kids /ジャニーズjr.)演じる、一家を惨殺された少年の細見慎太に助けを求められ、帝国陸軍に追われながら逃避行を繰り広げる姿を描く。共演には、長谷川博己阿部サダヲ、豊川悦司ら実力派俳優から、シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、ジェシー(SixTONES)ら注目の若手俳優まで結集。まさにオールスターキャストと言える布陣だ。

セットに足を踏み入れるや、その規模の大きさに驚かされる。タイムスリップしたかのような錯覚を起こすほどだの精巧さだが、本作の美術は史実を完全再現するのではなく、時代考証をしつつも脚本の世界観に沿って造られたとのこと。まさに私たちが想像する“大正時代”な空間になっている。時代設定が関東大震災の翌年・1924年につき、意図的に“工事中”のようにした箇所もあるという。元はコンクリートの更地だったスタジオに土を入れ、用水路を張り巡らせ、建造物を建て、そこに本物の雑草や木を植えるまでに約2か月かかったというこだわりぶりだ。

■華麗なアクションが決まるも…?細部まで試行錯誤した激しい銃撃戦

この日撮影されたのは、色街・玉の井にある銘酒屋「ランブル」で、百合たちが陸軍大尉率いる兵士に追い詰められるシーン。ライフルを持った多数の兵士に囲まれるなか、百合と「ランブル」の従業員のたった2人で応戦し、激しい銃撃戦が繰り広げられる映画の見せ場だ。

百合がリボルバーを射撃する場面では、アクション部のスタッフと念入りに動きを確認し、テストを繰り返していた綾瀬。数十分のテストを経て、いよいよ本番。飾りが付いた華やかなドレス姿の百合が、太ももに隠し持ったリボルバーを5発撃った後に、兵士たちの銃撃から逃れるため建物に中に飛び込む。一連の流れをワンカット撮影し、綾瀬の身体能力の高さを生かした華麗なアクションが決まったように見えたが、行定監督も綾瀬も納得がいっていない様子だった。

綾瀬は自分の映り方にものすごく厳しい、と話す行定監督は、「僕やアクション監督がOKでも、『いまのはよくなかった』って、綾瀬さんが自分にダメ出しをして撮り直すこともあります。むしろ僕のほうが甘いです」と、その演技へのストイックさを評した。

この“史上最強のダークヒロイン”百合という役について、紀伊プロデューサーが意識したのは、「緋牡丹博徒」シリーズの富司純子や、「女囚さそり」シリーズの梶芽衣子といった東映のスター女優たちだという。「『孤狼の血』をやったので、次は女性を主人公にしたノワールもいいのではと、企画の最初に考えました。東映は単純な会社なので、例えば(高倉)健さんや鶴田浩二さんでやったことを、これは女性でもいけるのではと考えるんです(笑)。ただ、昔といまでは男性と女性の関係は大きく変わっているので、どういう女性ヒーローがかっこいいのかはものすごく考えました。本作では、いろいろな哀しみを背負った綾瀬さんになっているんじゃないかなと思います」。

その後もカメラ位置やカット割り、射撃回数など細かな変更や調整を行い、より良いカットを目指してテストと本番が繰り返された。撃つ際の視線や飛び込み方などを、綾瀬はスタッフと共に確認し、自分のものへとしていく姿を目の当たりすることができた。時には監督と綾瀬が笑顔で話す様子も見られたが、一緒に映像を確認する際は真剣な眼差し。この試行錯誤は予定の時刻を過ぎて数時間行われた。なかなか思う通りのカットが撮影できない緊張感が続いたなか、ようやく納得のいくシーンが撮影でき、キャスト・スタッフから安堵した様子が伺えた。

■「さすが映画だなということを取り戻したい」(紀伊プロデューサー)

百合と対峙する陸軍大尉を演じるのは、SixTONESのメンバーとして活躍するジェシー184cmの高身長と軍服姿で、遠くからでも存在感を放っていた。普段のたたずまいとは異なり、どこか狂気を宿した立ち姿は、役へ憑依しているように見えた。この配役について、紀伊プロデューサーは、「ある意味、この映画の”ジョーカー”的な存在です。原作が元々ハーフだったことと、百合にとって大きな敵であるので、月並みじゃない人がいいなと思っていました。キャスティングはどれだけイメージを裏切るかも大事だと思っているので、考えた末に、『ジェシーさんがいいのでは』と監督と話をしてオファーしました」と明かした。

陸軍兵士たちが百合たちのいる「ランブル」に目掛けて一斉射撃をするシーンの撮影では、「アクション!」の掛け声と共に、兵士たちが次々と発砲していく。「大きな音がするシーンです」と撮影前に説明を受けていても、思わずのけぞるほどの音と迫力だ。現在はCGでマズルフラッシュを加工することも容易だが、撮影現場で実際に銃口から発火させて生まれる轟音が、映画に緊張感を生みだしていると実感できた。

美しい画作りや豊かな人物描写などで国内外から高い評価を得てきた行定監督が、東映のアクション映画を監督することに意外性を感じた映画ファンもいるかもしれない。この抜擢について紀伊プロデューサーは、「それがねらいです」と笑顔で答える。「アートのできる人にジャンル映画を撮らせる。それは僕のなかでは、『チャン・イーモウがアクション映画を撮る』みたいなことだと思っています。「『僕にこんな題材を持ってきてきたのは、紀伊さんが初めてです』って言っていましたね(笑)」。

そして紀伊プロデューサーは、「この映画はLEXUS(トヨタ自動車の高級車ブランド)」と話してくれた。その心は、本作を“世界で戦える映画”を作っているという想いからくるそうで、「日本の映像会社が、本気で世界と戦うためにLEXUSを作る。お金をかけないことを前提におもしろいことをやるのが、日本映画の美徳みたいなところかもしれないけれど、お客さんには関係ないし、豊かなものを観たいと思います。だからこの映画が最初の一歩になって、日本映画はまだまだ捨てたもんじゃない、さすが映画だなということを取り戻したいなと思っています」。

一方の行定監督は、初のアクション映画に挑んだ難しさを「いままでラブストーリーとか人間ドラマしか撮ったことないので、『こうあるべき』みたいなものを覆していかないと、きっと新しいアクションにならない。難しいです」と心境を吐露した。

綾瀬をはじめとするオールスターキャスト陣の演技と、行定監督の演出の化学反応で、どんなアクション映画が生まれているのか。ぜひ大スクリーンでその全貌を目撃して欲しい。

取材・文/編集部

綾瀬はるかの超絶アクションが炸裂する、『リボルバー・リリー』現場リポート!/[c]2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ