中国では、2023年3月の両会(中国全国人民代表大会。全人代、国会に相当)の閉幕直後、党中央と国務院(政府)が「党と国家機構の改革方案」を発表するなど、党があらゆる分野を管理する「党管社会」の構築を目指す動きを明確にした。この裏には、当局が抱える焦燥がある。実情を見ていく(文中敬称略)。

「党管社会」を狙う機構改革

両会閉幕直後、党中央と国務院(政府)は「党と国家機構の改革方案」を発表。党があらゆる分野を管理する「党管社会」を構築しようとする動きが顕著になった。

金融面では国務院が銀行保険監督管理委員会を国家金融監督管理総局に改組し、業態を越えて集中的に監督する体制を敷いたが、党中央にも金融の安定・発展を管轄する中央金融委員会、金融システムを管轄する中央金融工作委員会を新設し、国務院指揮下にあった関連組織を廃止または党中央に移管。科技面でも同様の改組を行った。

政治面では「既存の国務院香港マカオ事務弁公室を基礎とし、その名称(牌子)を維持し、中央香港マカオ工作弁公室を党中央事務組織として設置」とされた。金融や科技と異なり、「1国2制度」ならぬ「1組織2牌子」となったのはなぜか、駐香港連絡弁公室(香港中聯辨)の位置付けは変わるのかといった疑問が沸く。

この点につき、香港地元紙は香港と本土の関係は31省市区と異なり、「1国2制度」の基となる香港基本法で法律上あくまで中央人民政府や全人代との関係として規定されているため、したがって香港中聯辨の中央政府出先機関としてのステータスは変わらないとの見解を示しているが、基本法の法律的制約を迂回しつつ、実態上、政治面でも党に権限を集中させる狙いだ。

社会管理面では、習が歴史に学び、明代皇帝が北京の東安門北に設置した特務諜報機関の「東廠」、毛沢東時代の一時期(1939~49年)情報活動を担当した「中央社会部」を真似た「スーパー(超級)東廠」を設置するとの噂があった。

実際には公安や国家安全保障を所掌から除外した抑え目の中央社会工作部を党内に設置。人民の政府に対する苦情申し立て(信訪)、党末端のガバナンス、各業界団体、私企業、グラスルーツレベルの新たな社会組織の管理監督を統括・調整するとされた。

この結果、国務院所管だった国家信訪局は同部の指導下に置かれた。そのほか、党紀律委・国家監察委の下に幹部集団教育整頓指導小組を設置し、幹部の政治忠誠度を監督し「集団に害を及ぼす輩(害群之馬)」を取り除くとした。

これらは「超級東廠」設置に意欲を示した習と、それに反対する勢力の妥協の産物という可能性もある。7月8日付法治日報は「7月7日、中央社会工作部長の呉漢聖 (吴汉圣)が〇〇会議に出席した」と報道。部長には党中央委員で、中央国家機関工作委員会副書記の吴汉圣が任命されたもようだ。吴汉圣は遼寧や山西での党組織部長、中央国家機関工作委員会関連の職を歴任するなど、中央、地方で幅広い経験を有するとされる人物。同部が実際にどう機能していくか注目する必要がある。

成長率目標と雇用創出目標

全人代の政府活動(工作)報告(以下、報告)は成長率目標を5%前後と保守的に設定する一方、これまで900~1100万人だった新規雇用創出目標は1200万人とやや野心的に設定。官製メディアは一斉に成長率目標を「現実的で妥当」として当局を支持。海外では成長率の土台となる22年実績が低いこと、ゼロコロナ政策が終了したことから容易に達成可能とする見方と、消費、輸出を中心に需要は弱く楽観はできないとの見方が交錯している。

第1四半期(Q1)は市場予想を超え、発表後官製メディアは「成長の内生動力が力強さを増している」と報じたが、4月末政治局会議は「最近の経済指標の好転は主に修復的(回復性)なもの」「内生動力、需要はなお弱い」など慎重。実際消費マインドは弱く、個人銀行預金は上期、22年通年の増加17.8兆元の7割弱の11.9兆元増加。例年理財商品投資が増え預金が減少する4月以外は増加傾向。人民銀行が四半期ごとに発表する「都市部預金者アンケート調査」でも、「貯蓄を増やす」と回答した者は23年Q1調査で58%、同比率は21年来上昇傾向にあり、消費が上向き始めたと判断するのは早計。4月は個人向け融資も2400億元強減少し「双減」だった。

国家統計局発表製造業PMIは4月以降、景気拡大か縮小かの判断の分かれ目となる50のラインを下回る弱い動き、特に製造小企業と輸出新規受注のPMIはいずれも22年来、50のラインを下回る状況が続き、2月にいったん50のラインを超えたが、直近急速に悪化している。国家統計局が7月に発表した上期経済実績によると、Q2成長率は前年比6.3%。表面的には大きく回復しているように見えるが、これはもっぱら比較対象である前年Q2成長率が0.4%と大きく減速していた基数効果によるもの。大方の市場予想7%以上を大きく下回った。前期比伸びは0.8%、Q1の2.2%から減速している。

中国当局は一貫して「GDP重視の中心は雇用」とし、李強も両会後記者会見ほかでこれを強調。若年層の失業率が高水準で推移しており(16~24歳の失業率は過去最高を更新し続け、6月は21.3%)、国務院は4月末、企業への雇用助成金給付、創業支援、就業困難者援助などを盛り込んだ雇用安定化通知を発出。発展改革委員会(発改委)は両会期間中の記者会見で、デジタル経済の発展が若年層の雇用を創出することへの期待を示した。

デジタル経済は12年11兆元(GDPシェア22%)から22年50兆元超(同40%兆)と急成長、23年は60兆元を超えるとの予測がある(中国信息通信研究所ほか)。他方、その雇用創出効果は誰もが平等に恩恵を受ける「包摂的」なものになるか、今回全人代で発改委の下に創設された国家データ局が個人情報提供要求など規制強化に乗り出す恐れがないかなどの問題がある。

なお上期雇用創出は678万人(前年上期は654万人)。今年はQ1発表時もそうだったが、昨年までと異なり、国家統計局の経済実績発表資料の中では触れられず、Q1数値は担当の人力資源社会保障部(人社部)が1週間後の記者会見で、また上期数値は国家統計局の同日記者会見で明らかにされている。

財政政策と金融政策

報告は財政赤字比率目標緩和(3%、前年比0.2ポイント拡大)、地方政府のインフラ投資財源となる地方債(専項債)発行枠増額(3.8兆元、前年比1500億元増)と積極財政姿勢を表明。専項債は上期2.3兆元と発行枠の60%を発行済。

ただ赤字比率目標は22年赤字実績5.7兆元、4.7%に比べると抑え目、またインフラ投資の主体である地方財政は全体として厳しい。ゼロコロナ政策で財政支出が膨らむ一方、地方歳入の半分近くを占めていた土地譲渡収入(土地使用権を開発業者に売却した収入)が不動産市場低迷で激減、22年から前年比20%以上の減少が続いている。

中国の金融政策は一般に、緩和、適度に緩和、モデレート(穏定)、適度に引締め、引締めの5つに分類されている。10年以降「穏定」が続いており、報告の金融政策はこれを維持。高レバレッジ経済からの脱却、特に不動産部門の高債務体質是正の方針は基本的には変わらず。報告は「金融政策は正確(精准)で効果的(有力)である必要」とした。

中国地元経済誌は、「精准」は「特に特定領域を支援する構造的政策であること」、「有力」は「真に実体経済に影響を及ぼし、目に見える効果が現れること」「現状必要なのは消費や民生分野に資金を回す構造的政策で、人民銀行が金利引き下げといったバラマキ(大水漫灌)政策を採る頻度は減っている」「3月の預金準備率引き下げは長期流動性確保が目的で金融政策方針の根本的変更を意味しない」と論評。実際、貸付金利(LPR)は5月まで9カ月連続で据置かれ、地元紙はこれを「人民銀行は戦況を見て兵を動かさない状態(按兵不動)」と報じている。

ただ預金準備率引き下げは市場の予想外。またLPRも6月に引き下げられた。当局が決して景気先行きを楽観しておらず、むしろ懸念を強めていることがわかる。

金森 俊樹