7月30日土用の丑の日。この時期には夏の暑さに対する滋養強壮としてウナギを食べる習慣がありますが、そこでふと疑問。ウナギ絶滅危惧種……果たして口にしていいものなのでしょうか。みていきましょう。

今年のウナギの稚魚は歴史的な不漁だった

もうすぐ土用の丑の日

東京では猛暑日が続いています。夏バテ防止にウナギでも食べに行こうかという会話が聞こえてきそうです。しかしその二ホンウナギ絶滅危惧種。伝統的な食文化の危機として報道でも取り上げられるようになりました。

また、この時期には必ず、ウナギの稚魚が豊漁、もしくは不漁と話題になります。

今年2023年の2月末までのウナギの稚魚、シラスウナギは全国各地で歴史的な不漁に陥っていました。「絶滅危惧種ウナギを食べていいのか、いけないのか」といった議論もおきています。

そもそもなぜ二ホンウナギは絶滅が危惧されるほど少なくなったのでしょうか。

二ホンウナギはその一生のほとんどの時間を日本の海岸や川で暮らします。この成長期の環境が二ホンウナギにとって不都合な環境になっていることが見えてきています。

 

ニホンウナギの稚魚は日本の沿岸にやってくると細長い、円筒形の体形のシラスウナギとなり、満ち潮に乗って河川に入り、エビやカニ、小魚や昆虫などさまざまな餌を食べ、成長しながら、沿岸の海水域から上流域まで分布していきます。

しかし、これまでの研究では堰の高さが40㎝となるとその上下流でのウナギの生息密度が大きく異なることがわかっています。つまりニホンウナギは40㎝以上の堰を超えることが難しい ということです。日本の川にどれだけの堰があるのでしょうか。そしてその高さはどれくらいあるのでしょうか。魚道はついているのでしょうか。

日本自然保護協会では過去に5回、市民参加型の日本の自然の健康診断「自然しらべ」で川を調査しました。その結果は、明らかに川の周辺環境が悪化したという川は減ってきているというものでしたが、実はウナギ目線で川の状況を見てみるとどうも違った状況がみえてきました。

2017年の「自然しらべ」では、身近な河川に多くの堰のような河川横断工作物が存在していることが明らかにされました。計算を行った範囲では、川の流れ1kmにつき、1.6基も40cmを超える河川横断工作物が存在していました。

高密度で存在する障害物は、海で生まれたニホンウナギが成育場である河川へ侵入することを阻んでいます。川をきれいにすることや、コンクリート護岸を土や植生のある水際に戻していくことなど、各河川の環境の回復も水辺の生物にとって重要ですが、海と川を行き来するウナギのような生き物が成長する場を考えた時、最優先すべきは、海と川のつながりを取り戻すことです。 

海と川のつながりを回復するためには、河川横断工作物を撤去することが最善です。その必要性を再検証した上で、必要性が高く撤去が難しい工作物については、適切な魚道を設置する必要があります。魚道は、あれば良いというものではなく、様々な生物の生態を考慮し、それぞれの環境に適合した、効果的な施設である必要があります。

ちなみに、2020年はウナギの稚魚が豊漁と言われましたが、これはこの数年の中では少しだけ増えているというだけです。1960年から現在にいたるまで稚魚の漁獲量の変化は明確な減少傾向が続いています。

このままでは世界中のウナギを食い尽くす!?

さらに、国内でのウナギの供給量は、稚魚を輸入して養殖する分も含めたニホンウナギの国内養殖生産量の、倍の量のヨーロッパウナギやアメリカウナギなどを輸入してまかなっていますが、ヨーロッパウナギも2009年から貿易規制の対象となり、供給量全体もピーク時の3分の1程度に減少しています。

ニホンウナギがしっかり成長できる環境が戻らない限り、ニホンウナギ絶滅危惧種の指定からかわることはありません。また、減った分を他のウナギの輸入に頼って消費していくと、ニホンウナギ以外のウナギもやがて枯渇し、ウナギの種全体が生物多様性保全上の危機を迎えていきます。

世界の野生生物の絶滅のおそれのある状況を示した、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、表のように、日本で食されている、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギなどはみな、すでに近い将来絶滅の危険性が高いという絶滅危惧種に指定されています。

国も何とか、稚魚の減少を食い止めようと、ウナギ稚魚の密漁について罰則を強化する漁業法の改正を行いました。

今年2023年12月からシラスウナギ漁の許可制度が改正され、密漁や違反などの罰則が大幅に強化され、違反や密漁をした場合、従来は6ヵ月以下の懲役または10万円以下の罰金だったものが、3年以下の懲役または3000万円以下の罰金に引き上げられます。

また2025年12月からは、シラスウナギも水産流通適正化法の対象となることが決定し、漁獲から消費者に至る流通履歴を透明化して密猟や違法操業による流通を防止しようとしています。

ちなみに夏の土用の丑の日には、「う」のつく食材を食べると夏バテしないと言われ、ウナギだけでなく、梅干し、うどん、瓜(キュウリスイカ)なども無病息災の祈願の行事食として食べられてきました。ほかにも厄除けの土用餅(あんころ餅)、夏が旬の土用しじみ、土用の時期に産み落とされた土用卵なども各地で食べる風習が残っています。

栄養価のバランスの取れた食事で、夏バテは撃退しながら、ウナギの生息環境や世界での絶滅状況の実態がわかれば、きっと持続可能な利用の仕方を考えることができるはずです。安心して、「ウナギでも食べに行こうよ!」と会話できるような社会にしたいものです。

公益財団法人 日本自然保護協会(NACS-J)