メッセージングアプリと聞くと、日本では大多数の人がLINEを思い浮かべると思います。LINEは、日本やタイ、台湾など一部の国では主要なメッセージングアプリですが、世界規模で見るとシェアはそれほど高くありません。それでは、世界ではどんなメッセージングアプリが利用されているのでしょうか。みていきましょう。

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

世界で利用されている「メッセージングアプリ」TOP3は?

現在、世界シェア1位を誇るメッセージングアプリは「WhatsApp」で、市場調査会社Statistaの調査によると、主にインド南アメリカ、ヨーロッパなどで利用されています。2位は「Facebook Messenger」で、北アメリカを中心にシェアを伸ばしています。しかし、WhatsAppは2014年にFacebookに買収されているため、上位2位をFacebook(現社名:Meta Platforms)傘下のアプリが占めていることになります。

人口が世界一多い国、中国で主流となっているのが「WeChat」です。中国では圧倒的なシェアを誇り、世界シェアでも3位にランクインしています。

WeChatが上位2つのメッセージングアプリと異なるのは、その多機能性です。メッセージの交換やグループチャット、通話など、メッセージングアプリとしての基本的な機能に加えて、公共料金の支払いやチケット予約、ネットショッピングなど、あらゆるサービスがアプリ内で完結しています。

アプリユーザーにとって、WeChatはもはや生活インフラの一部となっており、なくてはならない存在です。

進むWeChatの「新たなプラットフォーム化」

WeChatと日本で主流のLINEでは、基本的なメッセージの送信や通話機能に大きな違いはありません。チャット画面もよく似ていて、絵文字やスタンプ(WeChatではステッカー)、画像、動画などを送ることができます。ただし、WeChatには「既読表示」がないのがLINEと異なる点です。ちなみに中国ではテキストメッセージよりも、音声を送信する「ボイスチャット」がよく使われています。

ほかにも「モーメンツ」と呼ばれるLINEでの「タイムライン」に相当する機能や、QRコードで友人を追加できる機能、モバイル決済など、共通する機能が多くあります。企業が公式アカウントを取得してプロモーションやマーケティングに活用できる点も、両者の類似性を強調する要素といえます。

相違点を挙げると、WeChatはショッピングやチケット予約、公共料金の支払いに加えて、TwitterやFacebookのようなSNSとしても機能している点が挙げられます。さらに、GPS機能で近くにいる知り合いを探すことも可能です。あらゆるサービスがWeChatアプリ内で完結しているのです。

また、WeChatは、アプリ内にある「ミニプログラム」を使用することで、ショッピングやゲーム、動画視聴などを、それぞれのアプリを開くことなくWeChat内で行えます。ミニプログラムとは、WeChat内で動作する小規模なアプリケーションのことです。

WeChatのエコシステム内で動作するため、利用者は追加のアプリをインストールする必要がありません。また、開発者にとっても、独自のアプリを開発・配布する必要がないため、費用やリソースの節約になるという利点があります。

また、モバイル決済機能「WeChat Pay」では、支払い機能や送金機能だけでなく、「紅包」と呼ばれるお年玉およびご祝儀を友人や知人に送れる機能があります。お正月などのおめでたい日に送るほか、気軽に友人や家族に縁起の良い金額を送ったり、複数人にランダムな金額を送ったりと、さまざまな金銭のやり取りに利用されています。

一方で、WeChatではユーザーの身分証明証や銀行口座が紐づけられ、GPS機能によって居場所も把握できるなど、セキュリティ上の安全性や個人情報保護に関する懸念の声も上がっています。

LINEは日本で広く普及しているメッセージングアプリですが、もしもLINEが利用できなくなった場合でも、携帯キャリアの通話機能やメールなど、代替の連絡手段を利用することでそれほど困らないかもしれません。

一方、WeChatは単なるメッセージングアプリにとどまらず、日常生活に密着した総合プラットフォームとなっています。そのため、もしWeChatに何らかの不具合が生じた場合、多くの人々が日常生活に支障をきたすことになるでしょう。

各企業が開発を進める「チャットボット」の重要性

人々の生活になくてはならないものとなっているメッセージングアプリですが、近年、各アプリ会社が積極的に開発を進めている機能に「チャットボット」が挙げられます。チャットボットとは、ユーザーの入力した質問に対してAIが自然な会話で回答を返す「自動応答ツール」です。

最初に登場したチャットボットは、1960年代のアメリカで開発された「ELIZA(イライザ)」です。当初は入力されたキーワードに対して、あらかじめプログラムされたパターンに基づいて回答する簡易的なものでした。しかし、現在のチャットボットはAI技術の進化により、ディープラーニングを活用して複雑な回答やサジェストを返すことが可能となりました。

世界中で広く利用されているメッセージングアプリは、コミュニケーションツールとしてだけでなくビジネスの場にも浸透しています。アプリを通してユーザーと企業が繋がったり、アプリから企業のサービスを受けたりといったことが、すでにさまざまなアプリで行われています。

その際に、人に代わってユーザーと企業間のコミュニケーションを効率的に行うのがチャットボットの役割です。ユーザー対応や接客をチャットボットに任せることで、人手不足や働き方の変化への対応が可能となるため、各社で開発が進んでいます。

現在、主流なチャットボットには2つのタイプがあります。1つは「ルールベース型」と呼ばれるもので、あらかじめ想定される質疑応答内容をプログラムし、そのルールやパターンに従って応答します。このタイプは、想定される質疑応答に対して正確に答えることができるため、FAQなどの定型化された質問への問い合わせ窓口などでよく利用されています。

もう1つは「機械学習型」のチャットボットです。このタイプは膨大なデータを反復学習し、その統計から最も正解に近い回答を導き出します。ユーザーの質問の意味や要望を推測して回答するため、雑談形式の会話に力を発揮します。また、蓄積したデータからおすすめ商品の情報を提供するなど、マーケティング支援にも活用されています。

メッセージングアプリは、ユーザーと企業のコミュニケーションにおいても重要なツールとなっています。そのため、チャットボットを活用してユーザーエクスペリエンスを向上させることは、企業戦略上非常に重要な要素となっています。

実際、Facebook MessengerやLINEなどのメッセージングアプリでは、企業向けにチャットボットのAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)が提供されており、多くの企業がチャットボットを介したユーザーとのコミュニケーションを実現しています。

Telegram、Signalなど最新アプリの台頭

最近、「Telegram」や「Signal」などの匿名性の高い最新アプリがシェアを伸ばしています。その理由は主に以下の3つが挙げられます。

1つは、プライバシーへの関心の高まりです。近年、メッセージングアプリにおけるプライベートチャットの流出が問題となっており、一般ユーザーも自分のデータやコミュニケーションが監視されない環境を求める傾向にあります。匿名性の高いアプリは、そのニーズに応えているといえるでしょう。

2つ目の理由として、TelegramSignalはエンドツーエンドの暗号化を提供しています。これは、通信内容が送信者と受信者の間でのみ復号化され、中間での傍受や盗聴を防ぐ仕組みです。ユーザーは自分の情報やメッセージが安全に保護されることを望んでおり、このようなセキュリティ機能の普及が広く支持されています。

3つ目は、オープンソースの透明性です。TelegramSignalオープンソースアプリケーションとして開発されています。これは、ソースコードが公開されており、セキュリティ専門家や開発者コミュニティが独立して検証できることを意味します。オープンソースのアプリはセキュリティの信頼性が高まり、ユーザーはその透明性に対して安心感を持って利用することができるのです。

しかし、これらのアプリは、その匿名性の高さ故に、犯罪使用が増えているという課題も生じています。犯罪者は匿名性を利用して不正な活動を行う可能性があります。今後は匿名性と犯罪使用防止のバランスをどのようにとっていくかが重要な課題となるでしょう。

日本のメッセージングアプリの未来

メッセージングアプリは、単なる個人やグループ間のコミュニケーションツールに留まらず、WeChatのようにショッピングや支払い、予約機能など社会生活を送る上でのさまざまな側面を担うツールとして重要性を増しています。このような変化に伴い、チャットボットの役割もますます重要になっていくでしょう。

またチャットボットの開発が進むほどに多くのシーンで利便性が向上し、メッセージングアプリはますます人々の生活になくてはならないものになっていくと予想されます。

TelegramSignalなど新しいアプリの台頭は気になるところですが、メッセージングアプリは周囲の人々が同じアプリを使用しなければアプリとしての機能を果たしません。日本国内でいえば、LINEがほかのアプリに取って代わられることは、余程のことがない限りあり得ないことです。

LINEは、すでに企業の公式LINEアカウントから質問ができたり、お知らせを受け取ったりといったチャットボット機能を実装していますが、2021年3月に行われた「Zホールディングス」との経営統合によって、事業展開が今後さらに加速することが予想されます。

すでに具体的な取り組みが行われており、Zホールディングスの子会社であるYahoo!と協力し、LINE上でYahoo!から提供される災害情報を配信したり、「Yahoo! JAPAN」のトップページから「LINE MUSIC」にアクセスしたりすることが可能になっています。

さらに、同じくZホールディングスの子会社である「PayPay」と「LINE Pay」が連携し、「PayPay」の利用可能な店舗では、LINE Payも同様にQRコード読み取りによる決済が可能となっています。

メッセージングアプリは、人と人との交流の核となる「コミュニケーション」を構築させるツールです。そこに他のさまざまな生活インフラが結びつき、一つの大きなプラットフォームとしての機能を果たしていくことは必然であるとも言えます。

LINEは今後も国内でのシェアを維持し、TelegramSignalのような匿名性の高い最新アプリの技術を取り入れつつ、WeChatのような多彩な機能を盛り込んだ万能アプリに進化していく可能性があります。その日もそう遠くないかもしれません。

<出典>

Hootsuite株式会社「9 of the Most Popular Messaging Apps in 2023」

Statista株式会社「WhatsApp penetration rate among global messaging app users as of April 2022, by country」

吉田康介

フリーライター

(※写真はイメージです/PIXTA)