暗号資産市場では現在、リップルをはじめとする「アルトコイン」が急騰しています。ただ、このような相場では、市場の“基軸通貨”ともいえるビットコインが急落する危険性があると、マネックス証券の暗号資産アナリスト、松嶋真倫氏は警鐘を鳴らします。それはいったいなぜなのか、詳しく見ていきましょう。

リップル訴訟問題の進展を受けてアルトコインが急騰

2020年から米国証券取引委員会(SEC)とリップル社(XRPの発行元)の間で暗号資産XRPの証券性をめぐる裁判が続いていますが、2023年7月、米国の地方裁判所が「XRPの個人向け販売については有価証券に該当しない」との大きな判決を下しました。このニュースを受けて、XRPの価格は前日比約2倍となる115円台にまで高騰しました。

米国では今年に入って以降、SECによって「今あるほとんどの暗号資産は証券である」との指摘がされてきました。そのため、コインベースをはじめ、米国の主要暗号資産取引所が未登録証券を販売した疑いで次々に訴訟される事態となっており、ビットコイン以外の暗号資産(以下、アルトコイン)が総じて弱い値動きとなっていました。

XRPの裁判についても、SECは「リップル社がXRPを証券として未登録のまま発行および販売した」と主張しています。SECによれば、リップル社はXRPを購入した投資家に対して利益を提供する「投資契約」を提供しており、連邦証券法の適用を受けるべきであると主張しています。一方、リップル社側はXRPを独自のデジタル通貨と位置付けており、証券としての要件を満たしていないと主張しています。

今回の判決では、XRPの機関投資家に向けた販売は証券に当たると、SECの主張も一部認められました。しかし、暗号資産取引所を通じた暗号資産の個人向け販売は証券ではない、という判決事例は、XRPのみならず他のアルトコインに対しても明るい材料です。これにより、同じく証券性を指摘されていたソラナ(SOL)やエイダコイン(ADA)なども価格が高騰しました。

これを受けて市場ではすっかり楽観ムードが漂っていますが、SECは地方裁判所に対して控訴する可能性を示唆していることから、リップル訴訟問題はまだ解決したわけではありません。時価総額ランキングで上位に位置するXRPの裁判は、米国における暗号資産の法的枠組みを決定するための重要な試金石として見られており、今後の展開によって相場も大きく左右されるでしょう。

ビットコインの“ドミナンス低下”をどう捉えるか?

リップル訴訟問題に進展が見られた後の相場では、ビットコイン・ドミナンスの動きが特徴的でした。ビットコイン・ドミナンスとは、ビットコインの時価総額が暗号資産市場全体のなかでどれだけ占めているかを示す指標です。この指標は、ビットコインの影響力と市場のリスク選好度合いを測る上で役立ちます。

今年に入ってから、ビットコイン・ドミナンスは急上昇し、2023年6月にはおよそ2年ぶりに50%を上回りました。これは、米国においてアルトコインの取り締まりが厳しくなり、さらには本来、安全資産として見られるステーブルコイン(法定通貨と価値が連動した暗号資産)への不信感も強まったためです。ところが、今回の判決によってXRPを中心にアルトコインを物色する動きが強まり、ビットコイン・ドミナンスは急落しました。

通常、市場がリスクオフに傾いている時は比較的ボラティリティの小さいビットコインあるいはステーブルコインに資金が集まるため、ビットコイン・ドミナンスは上昇します。この時はアルトコインの投機的な売買も抑えられるため、上昇下落どちらの方向であっても相場が急変するリスクは小さいです。

一方、市場がリスクオンに傾いている時は、より大きなボラティリティを求めてアルトコインの売買が活発になるため、ビットコイン・ドミナンスは下落します。この時はアルトコインが循環物色により急騰する動きも目立ちますが、その後の急落によって、ビットコインも大きく下落するリスクが高まります。

直近、米国におけるビットコイン現物ETFの審査に関する続報も見られず、ビットコインの価格は430万付近で停滞していました。そのなかで、XRPの裁判に関するポジティブなニュースがあり、投資家はより大きなリターンが期待できるアルトコインの売買に動いています。

実際にビットコイン・ドミナンスが下がるなかで、一部でアルトコインの急騰が見られます。また、それとともにビットコインの価格はじりじりと下がっています。

このままアルトコインの投機的な値動きが目立ち、ビットコイン・ドミナンスが急落する展開となった場合には、ビットコインの急落にも警戒しなければならないでしょう。

松嶋 真倫

マネックス証券 マネックス・ユニバーシティ

暗号資産アナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)