(河崎 環:コラムニスト)

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アラサー女子の本音「婚活は戦場」

 限界アラサー女子が言った。

「河崎さん、20代からの仲良し女ともだちグループって、やっぱり30手前くらいから変な空気になりますよね。彼氏ができたり結婚したり、人の幸せ(結婚式)にご祝儀出しながら悪口言ったり、みんなの前でハッピー絶頂で結婚式挙げたほうも結局どっちかの浮気で別れたとか再婚するとか、だんだん疎遠になっていきますよね・・・」

「ほほう、貴女もそういうお年頃になりましたか」。私はほくそ笑む。

 そう、「仲良し女ともだち」なんて、お互いお年頃になった途端に見事な空中分解を見せる人間関係である(と聞いたことがある)。誰か一人に彼氏ができて、女子の飲み会調整で「ごめーん、今回は見送らせて」と言い始めたらそれが合図、終わりの始まりだ。結婚が視野に入った瞬間、女同士の絆なんてもんは一瞬でブチリと千切れてバラバラに散っていくのである。

 イチ抜けした女は言うものだ。「え? 私はいつまでもみんな、それぞれに置かれた状況で仲良しでいられると思ってたけど?」。あなたも置かれた場所で咲きなさい、って、どこの神目線なんでしょうかそれは。そんな余裕発言をハッピーウェディングソングをBGMにぶちかまし、「みんな、式、来てくれるよね?」と微笑みながら、これまでさんざん男や世間の悪口を共有し合ってきた仲間を、自分の晴れ姿を見せつけるセレモニーのモブ(その他大勢)にする、そんな恐ろしく理不尽な展開を平気で決行するのが「仲良し女ともだちグループ」である。

 晴れ姿を見せつけられる方も負けてはいない。女同士こそ心の底から震えるほど冷徹で薄情な視線を有する。

「なんか本人は幸せいっぱいで一つも覚えてないみたいなんですけど、私たち、その結婚相手となる男の以前のモラハラ乱行っぷりとか、彼女のリベンジ浮気とか幾多の修羅場なんかも全部聞かされてたんで、もう全然祝える心理じゃないんですよね。続かないんだろうな~、2年もてばいいほうかな、って予感しかないから、ホントはご祝儀なんて出したくない(笑)」

 何十年も前からの「女子あるある」だ。女子よ、心に刻んでおこう。

 婚活は戦場。敵も味方もそれぞれ権謀術数をめぐらせ、戦闘流血中である。

独身者婚活アプリで若い女に群がるおじさん

 女ともだちがバタバタと結婚していき、婚活話にうんざりした限界アラサー女子は続ける。

「女ともだち6人組のうち、そんな感じで4人が結婚していって、この数年、みんなで集まる飲み会もなくなっちゃって。みんなバタバタと焦るみたいに結婚していったけれど、モラハラとか浮気だなんだで揉めて離婚した人も少なくないんですよね。こないだなんて私、安定した結婚生活を送っているとばかり思っていた専業主婦の友だちが別の男性と親密そうにご飯食べている姿も目撃しちゃって、気まずかったです」

「だから思うんです。自分が結婚するなら、初めの結婚でひととおり経験したバツイチで、結婚に焦らない落ち着いた大人の“離婚経験者”の方がいいかなって・・・」

 結婚相手はバツイチがいい、なぜなら幸せの絶頂から修羅場まで結婚の酸いも甘いも知ってオトナの余裕があるから、との意見に「バツイチがみんなそうかってーと、必ずしもそうでもないんだけどなぁ」と一抹の不安がよぎったが、私はうむうむと頷いて聞く。

 そこで彼女は、最近マッチングアプリの中で存在感を示している“バチェラー(富裕な独身者)”ジャンルを見つけ、「ここだったらバツイチの、精神的にも経済的にも余裕ある年上男性がいるんじゃないか」と登録したのだそうだ。そのアプリは男性側のみが約3万円近い登録料を支払い、女性側は無料でスタートできるという、よくある男女傾斜ものである。

 もともと年上男性との交際が得意な彼女は、相手側に望む年齢の下限だけを自分より上の42と指定して、上限はオープンのままにした。すると、出るわ出るわ、アラサーの彼女に対して40代どころか、50、60代の“推定独身男性”がわんさと提示されてきたという。どの人も(申請上は)高年収の男性ばかり。彼らの共通点は、「自分が50代や60代であっても」現在30代半ばくらいの彼女のような女性を指定してきているということだった。

 うーん、おじさんたちめ、バチェラーアプリで年下女子に群がってるな厚かましい! まあ今さら日本人男性の年下志向自体には驚きはしないけれど、ちょっと待って、だけどそれ20歳とか30歳差だから。本当に真剣な再婚相手としてそんな年齢差を求めてるの? そうか、子どもを産んでくれる相手を求めているってこと?(男性側が50や60になってから? なんかいやらしいよなぁ。)

 そもそも、そんな高年収の50代や60代が、婚活市場へ「バツイチ」として大量に解放されているものだろうか。なんだかすごく怪しいぞ。本当に離婚経験者だとしても慰謝料背負ってることもあるだろうし、いわゆるワケアリ物件の可能性は低くない。

「妻とは冷めてて離婚するつもり」離婚未遂は独身希望であって独身じゃない

「本当にその人たち、独身なのぉ? 独身願望じゃなくて? 事実確認する方法はあるの?」

 私が疑い深く聞くと、「実際に会って聞く以外ないんですよ」、アラサー女子は首を横に振った。実際に会って聞いたところで、そいつがホントのことを言う確証なんてないしなぁ。

 だがこれまでの恋愛経験でも数々の年上男性と付き合い、しかもわりと面倒な物件もこなしてきた彼女、その辺りは私なんかに言われずとも心得ていたどころか、ものすごい金言を発した。

「私の経験上、かなりの年齢差を超えて年下女子にアプローチしてくるおじさんは、本人がどう申告しようとも基本、既婚者。本当に離婚していたとしたら自分に理由があって奥さん側に捨てられた人。結婚経験がなければもしかして何か致命的な問題がある人、という前提から入るので大丈夫です」

 ああ、胸のすくような懐疑主義と性悪説! さすが冷静で賢い女子はよくわかっている。私は込み上げそうになる涙をこらえる。そう、そうなのよ。男は嘘をつく生き物(女もだけど)。彼らの言うことを真正面から信じてはいけない。特に既婚者の独身詐欺や「妻とは離婚秒読み」詐欺は非常に悪質で、幾多の女子たちが、まだキャリアも浅い20代やそこらで引っかかっては情が湧いてしまい、目が覚めたら30代も半ばだわどうしようなんて、いろいろ棒に振ってきた。

 断言しよう、「“妻とは冷え切ってていずれ離婚するつもり”と言う既婚男性は9割が口だけ」である。可愛い女の子に向かって、そう言うだけならタダですからね。「つもり」ってのは意思表明っていうか願いの話であって、実行に移すかどうかなんて1ミリも約束してないですからね。

 結論から言うと、彼らのほとんどは結婚生活に飽きたり、その時期機嫌の悪い奥さんにムカついたりして「離婚という概念」を弄んでいるだけで、結局離婚なんかしやしないのだ。同世代の女子たちが年上既婚者との不倫で大事な時期を棒に振るのを若い頃からさんざん見てきた私からすれば、ううむ卑怯者め、離婚してから言えよ、ってなもんであるが、まあなんせ「妻とは冷え切ってて離婚するつもり」は滅びないフレーズである。

実際に会ってみた50代独身男性とは

 独身を騙って年下女子に手を出す既婚男は許さんよ、と憤る私。ところが、アラサー女子が語った実情は、もっと切実な現代を反映していた。「それで、50歳のおじさんと52歳のおじさん、2人と実際に会ってみたんですけど、二人ともかなりの確かさで本当に独身でした」。そう、2020年の国勢調査から導き出されたのは、日本人男性の50歳時点での独身率は31%超との現実である。

 50歳のおじさんは「結婚歴はなく、高級住宅街の実家で、80代の母と介護同居中のIT系サラリーマン」。

 52歳のおじさんは「20代で結婚し18年経って離婚後(結婚年数から子どもはいるものと思われ、慰謝料も抱えているものと推測)、その後しばらくバツイチ40代として適度に恋愛もしつつ、仕事や趣味が忙しくて邁進。人生がひと通り落ち着いてきて、晩年を共に過ごす本気の伴侶を見つけたいと思うけれど、既に生活スタイルが固まりすぎて結婚難民」。

 あらやだ、そのおじさんたち、よく考えたら私と同年代ではありませんか。確かにいるわ、似たような境遇の同級生・・・。それぞれにやむなき事情があるとはいえ、自分が50代や60代でありながら相手に30代を求めるという点もいじましくて泣ける。これまで独身だったけどどうしても子どもが欲しい(老いた親に見せてあげたい)とか、自分の生活スタイル(俺スタイル)が強固になりすぎて、せめて相手の女性がまだ若くて柔軟なら受け入れてもらえるんじゃないかと画策したりとか。

 先述の国勢調査、50~54歳での独身率31%超の内訳は、生涯未婚率24%超、死別約0.6%、離別約6.5%だという。「50代で独身なんてそんなにいるぅ?」と私が偏見全開で「独身詐欺」を疑う以前に、事実としていま50代独身は約3人に1人。かなりの数いる、ということだ。

 そう考えると、中高年の独身者のための婚活アプリってニーズあるんだろうなぁ。しかし先ほどアラサー女子が豊富なおじさん経験から語っていたように、「本当に離婚していたとしたら自分に理由があって奥さん側に捨てられた人。結婚経験がなければもしかして何か致命的な問題がある人、という懐疑的な前提から入る」のであるから、女子の側の目もなかなか厳しいぞ。

 晩婚傾向で独身率もどんどん上がるが出生率は下がる一方の日本の婚活、前途多難そうである。

◎連載「河崎環の『令和の人』観察日記」記事一覧

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