日本と同様に朝鮮半島でも、各地で大雨が降り続き被害が続出した。韓国では13日から18日まで、各地で断続的に大雨が降り続き、6日間の累積降水量が800ミリを越えたところも出た。

15日には、大雨により氾濫した川の水が地下車道に流れ込み、17台の車両が水没、14人が犠牲になるなど、全国的に50人が死亡または行方不明となった。

梅雨前線は、朝鮮半島を分断する軍事境界線を越えて、北朝鮮でも大雨を降らせた。国営の朝鮮中央通信は、13時午前6時から14日午前9時のあいだに、黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)で135ミリ、延安(ヨナン)で118ミリなど、主に韓国に近い地域で大雨が降ったとし、開城(ケソン)などでは3時間に50ミリ以上の雨が降るなど、短時間にかなりの降水量を記録したと報じた。

東海岸の咸鏡南道(ハムギョンナムド)洪原(ホンウォン)では、60代の夫婦ががけ崩れに巻き込まれ死亡した。だが、夫婦はもともと、現地の住民ではなかったという。国民の移動統制が最も厳しい北朝鮮で、一体どういうことなのか。現地のデイリーNK内部情報筋が事情を伝えた。

Aさん夫婦はもともと、咸興(ハムン)市内の沙浦(サポ)区域の興西洞(フンソドン)に住んでいた。本来なら老年保障(年金)を受け取り悠々自適の生活を送っている年齢だが、雀の涙ほどの年金すら支給されなくなってしまったようだ。だからといって、働ける年齢でもない。

北朝鮮では、家を売り払い、山に入って畑を耕して暮らしている人が少なくないが、この夫婦も、家を売り払って食費を賄おうとしたものの、深刻な不況の中で買い手がつかなかった。

そんな中にあった今年1月末、洪原に住む遠い親戚が訪ねてきた。夫婦の暮らしぶりを見て「こんな暮らしをするなら、うちに来て野良仕事でもして食べていければいいじゃないか」と、農村への移住を勧めた。他に生き残る方法がないと、夫婦は家を700元(約1万3860円)で貸し出して、自分たちは親戚の家のそばの畑にテントを張って暮らし始めた。

ところが、そのテントを土砂が襲った。被害の復旧に当たっていた住民たちは、17日になって夫婦の遺体を発見した。土砂と石の生き埋めになって亡くなったようだ。夫婦の変わり果てた姿を見た村人は「何とか生き残ろうとがんばっていた人を死なせるとは、天も無情だ」と嘆いたという。

この地域では昨年にも、家の崩壊、道路の浸水など大雨による深刻な被害が発生したが、今年は去年より幾分マシだという。しかし、夫婦のように、生き残るためにテントを張って暮らしていた人の多くが犠牲になったと、情報筋は伝えた。

咸鏡南道の災害復旧現場を現地指導した金正恩氏(2020年10月14日付労働新聞より)