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シンガー土岐麻子が中心となり、毎回さまざまな角度からK-POPの魅力を掘り下げている本連載。Vol.14からは短期連続企画として、ハングル能力検定(以下ハン検)へ土岐が挑戦する様子に密着してきた。その最終回となる今回では、ついに合否が明らかに。今回の受験を通して、土岐が得たものとは?

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さらには土岐が取材後に訪れたソウルでチャレンジした、韓国語での会話の様子をつづってもらった。

取材・文 / 岸野恵加 撮影 / 堀内彩香

自己採点では驚異の95点。果たして結果は?

──ハン検挑戦記、ついに最終回を迎えてしまいました。受験日の夕方には公式サイトで正答が発表されたので、それぞれ自己採点をしましたね。3級も5級も、それぞれ合格ラインは60点です。土岐さんはいかがでしたか……?

土岐麻子 緊張感から解放されたのか、試験のあとは帰宅してまずすぐに爆睡しました(笑)。そして起きてからすぐ答え合わせをしたところ……95点でした!

──おおお! 高得点じゃないですか……素晴らしすぎます!

土岐 でも自信満々だったところを間違えていたり、間違えたと思っていたところは正解していたりで、自分の知識が信用ならなかったです(笑)。お二人はどうでしたか?

スタッフS 私はですね、40点ちょっとでした……。悔しい!

──本当に直前からしか勉強できなかったのに、40点台は大健闘ですよ! 私は20点くらいだろうと覚悟していたのですが、自己採点したところ47点でした。

土岐 あと数問解けてたら合格ラインも見えてたんですね! すごいです。マークシートの塗りつぶしさえミスしていなければ、みんな自己採点通りの点数だと思われますが……。

──では、自宅に届いた合否のハガキを開いて、結果を確認してみましょうか。せーの……!

土岐麻子:聞き取り38点(40点満点)、筆記57点(60点満点)、総合点95点(100点満点 / 平均点69点)
編集岸野:聞き取り24点(40点満点)、筆記23点(60点満点)、総合点47点(100点満点 / 平均点80点)
スタッフS:聞き取り18点(40点満点)、筆記23点(60点満点)、総合点41点(100点満点 / 平均点80点)

──全員自己採点通りでしたね。土岐さん、合格おめでとうございます!

土岐 わあ! ありがとうございます。お花に、「チュカヘヨ」(韓国語で「おめでとう」の意)……どら焼きまで!(笑)

──本当はハングルで印字したかったけどできなかったので、カナでかわいらしくしてみました(笑)。95点、素晴らしいです!

スタッフS 私たちは自己採点通りで残念な結果でしたけど……。土岐さんが素晴らしい点数で合格したことがとにかくうれしいです。おめでとうございます!

土岐 ありがとうございます! 無事に合格できてホッとしています。

「この歳で」と思っていたことにも挑戦していきたい

──改めて振り返っていきたいのですが、今回受験にチャレンジしたことで、得たことといえば?

土岐 たくさんあります。試験って日程が決まっていますよね。ハングル学習においては期日を決めて集中して勉強したことがなかったので、ふわっとわからないままにしておいたことがたくさんあったんです。それを洗い出すことができて、確信を持ってハングルを理解することができるようになった。より自信が持てたというんですかね。

──第1回では3級と準2級との併願も悩まれていましたけど、準2級も受けていたら合格できたと思いますか?

土岐 どうでしょうね。準2級の模擬問題を解いてみたこともあるんですけど、それで80点くらい取れるときもあったから、挑戦したら受かったかもしれない。でも点数がそのまま成果になるTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)やTOPIK(韓国語能力試験)と違って、ハン検の場合は落ちてしまうとゼロになってしまうので。ひとまず初めてのチャレンジは、この3級で確実に結果を出せてよかったと思っています。こうしてナタリーさんで記事にしていただけるということで、いい意味でプレッシャーもあり、自分のペースでゆったり楽しく勉強するのとは違ったモードで取り組めました。お二人は残念でしたけど、でも本格的に勉強できたのは半月くらい前からでしたもんね。大健闘だと思います。

スタッフS 悔しいけど、チャレンジしたことは無駄ではなかったですね。この企画の前はハングルがほぼわからなかったけど、スムーズに読めるようになりましたし。音楽番組の左上に出てるテロップなどを「ヨ、ジャ……、あ、(G)-IDLEね!」ってすぐ理解できるようになって、楽しいです。韓国ドラマを観ていても、前は字幕頼りだったんですけど、まず自分の耳で聞いてみるようになりました。そうしたらやっぱりなんとなく理解できる部分もあって。また絶対にリベンジしたいです。

──理論的に理解できるようになると楽しいですよね。私もリベンジ受験したいんですが、しっかり時間をとって勉強できれば4級も狙えるような気がしたんですよ。もう少し子供が大きくなったら時間が取れると思うので、その機会にチャレンジしてみようかなと思っています。

土岐 うんうん。ゆっくり勉強を重ねていけば絶対に合格できると思います。私も次は準2級を受けようと思っているんですけど、今年の秋のハン検の日程はスケジュール的に合わなさそうなので、TOPIKを受けてみようかなとも考えています。余談ですけど、今自動車の教習所に通ってるんですよ。それはこのハン検受験がきっかけになったところも大きくて。

──そうなんですか! いろいろなことにチャレンジしたい気持ちが強まったということですか?

土岐 そう。やれることを全部やってみようと思って。今までは教習所もこういう試験も、学生のうちにやるイメージがあったというか、「この歳で」って思っていた部分があったんです。教習所で学科の授業を50分受けるのも自分にできるのか不安だったし(笑)。でも今回ハン検に挑戦したことで、「今さらだと思っていたいろんなことに挑戦したい」という前向きな気持ちになれました。2019年の春くらいからアプリを中心にゆっくりゆっくり続けてきたハングル学習ですが、そんな亀の歩みでも3級に合格できるレベルになった。読者の大人世代の皆さんも、迷っていることがあってもぜひチャレンジしてみてほしいですね。最初はゆったり楽しみながら、大人ならではの勉強法でいいと思うので。お二人は今回、いきなり受験という茨の目標を設定しちゃったから、大変だったと思いますけど(笑)。

──本当に(笑)。でも私も受けてよかったなと心から思っていて。韓国語の細かいニュアンスを学んでいくことで、よりK-POPを深く楽しめそうな気がしています。土岐さんはカバーアルバム「HOMETOWN~Cover Songs~」で、ドラマ「トッケビ~君がくれた愛しい日々~」の主題歌「I Miss You」を日本語詞で表現していましたけど、韓国語を勉強することで、韓国語で書かれた歌詞への理解が深まることもありますか?

土岐 ありますね。韓国語ってパンマル(タメ口)、チョンデンマル(敬語)の使い分けが細かくて、歌詞でも二人称の使い分けで相手との関係性を表現していたり、面白いんですよ。例えば「우리(ウリ)」は「私たち」という意味ですが、お互い仲がいいと認め合っている関係性のときに使うそうで。まだ出会って日が浅い男女が「ウリ」を使うと、「え、2人はもうそんな仲なの?」って驚かれちゃう。あるドラマで「私たち、今日から『ウリ』になっていいですか?」というセリフのシーンもありましたね。そういう細かいニュアンスがわかってくると楽しいです。私も歌詞に関しては、まだまだわからないことがたくさんあるんですけどね。

──土岐さんは「韓国へ留学してみたい」と話していたこともありましたが、今後実現させる可能性はありそうですか?

土岐 したいですね! やっぱり流暢に会話ができるようになって、韓国のミュージシャンともたくさん会話をしたいですし。でもソロデビュー20周年を迎える年なので、来年はちょっと難しくて。ひとまずは日本で勉強を続けて、会話力を上げたいです。ちょうど近々ひさびさに韓国旅行へ行くので、そこでも自分の会話力を試してきたいなと思います!

土岐麻子の受験日誌&韓国旅行記

アンニョンハセヨ!
とうとう最終回を迎えたこの企画。
スタッフお二人は悔しい結果となりましたが、それでも短期間でのチャレンジと考えるとすごいことだと思います。
私は4年間、寝る前や空き時間にチマチマと遊ぶようにしてきた「大人の語学勉強法」で、本当にゆっくりとしたスピードで学んできましたので。

さて試験後、4泊5日でソウル旅行をしてきました! 4年ぶりの韓国旅行。
3級合格はうれしかったものの、現地で一体どのぐらい聞き取れて話せるのか……想像もできなくて、少々不安な気持ちで向かいました。
メンバーは韓国留学経験がある弓木英梨乃ちゃんと、(フランス語と少しの英語はできるものの)韓国語を全く知らない放送作家松崎桃子ちゃんとの3人。
蓋を開けてみると、心配は杞憂でした。
向こうで一緒に過ごした韓国の人々はみんな、私たちの韓国語を一生懸命に聞いて、察して、コミュニケーションを成立させてくれるのです。
クールな店員さんが話す韓国語は何度聞き返してもわからないこともありましたが、私たちの友人や知人とは、あらゆる言語を使って仕事の話までできるほど!
滞在中、1人行動もありました。
私は音楽業界で働く3名の韓国人と会食の機会がありました。お三方とも日本語は話せず、一方私は英語が苦手なので、韓国語オンリーでの会話です。でも、90年代渋谷系からの日本の音楽のファンということで、その思いを真摯に情熱的に語ってくれました。
気付けば夜遅くまで「長く音楽(仕事)を続けることと、新しいことに挑戦し変わっていくことのバランスや葛藤について」「角松敏生さんと山下達郎さんの音楽、それぞれの魅力」など、興味深い話をたくさんしていて、自分でも驚きました。
もちろん、旅の間に語学力が突然上がったわけではありません。むしろ使っていた文法は知っているものの一部だけでした。どうしてあんなにコミュニケーションができたのか振り返っても不思議な気もしますが、会話は論文やスピーチコンテストと違って、ひたすら、お互いの助け合いなのでしょうね。

このメンバーを招集してくださったのはK-POPファンのためのアプリ「blip」代表、キム・ホンギさん。この連載にも登場してくれたMICAさんが紹介してくれました。
blip」は、カレンダーと連動して情報がチェックできるので、仕事や子育てに忙しい大人にも最高のアプリなのです!

推しを選択さえしておけば、自動的に推しのニュース……各種出演情報から記念日まで、すべてのスケジュールをリアルタイムで知らせてくれる「オタ活秘書」のようなモバイルアプリ。
日本語でもサービスが提供されているのでわかりやすいです。

そしてもうお一人は、ホンギさんと一緒にON STAGEなどのコンテンツを作ったチョン・ジェユンさん。NAVERのマルチバース会社であるZEPETOの方です。
ON STAGEには、メジャーではないアンダーグラウンドなバンドなど、非商業的な音楽を作っているミュージシャンたちが多く出演していて、私もInstagramでよく観ていました。ステージセットもおしゃれで素敵!
そしてもうお一人はNOVVAVE RECORDSという、レコードショップ、本の出版、アナログ制作をしているキム・ソンレさん。Spotifyではプレイリストが聴けます。日本の音楽のマニアであり、角松敏生さんをこよなく推していらっしゃるとのことでした。
デザインのセンスも抜群です!!
「会話は助け合い!」を最も強く感じたのは、3日目の夜。
韓国語を話せない桃ちゃんが、日本語を話せない韓国の飲食店会社CEOと事業の哲学(!)について盛り上がっていたのを見たときでした。話しながら韓国語の単語を少しずつ聞き取って覚えて、どんどん応用していく桃ちゃん。対するCEOは、ルー大柴さん的な英単語混じりの韓国語で一生懸命話す。弓木ちゃんと聞いていましたが、語弊もなくちゃんと会話が成立していて本当に衝撃でした。しかも冗談も飛ばしていてドカンドカン笑っていました。スゴすぎる!

というわけで、会話は読解や聞き取りとはまた違う脳の使い方なんだなーと、認識を新たにした旅行でした。
またすぐにでも、韓国語を浴びに行きたい……!

土岐麻子

1976年東京生まれのシンガー。1997年Cymbalsのリードボーカルとしてデビュー。2004年の解散後よりソロ活動をスタートさせる。本人がCMに出演したユニクロCMソング「How Beautiful」(2009年)や、資生堂「エリクシール シュペリエル」のCMソング「Gift ~あなたはマドンナ~」(2011年)などで話題を集める。CM音楽やアーティスト作品へのゲスト参加、ナレーション、TV・ラジオ番組のナビゲーターなど、“声のスペシャリスト”として活動。またさまざまなアーティストへの詞提供や、エッセイやコラム執筆など、文筆家としても活躍している。K-POPでの最推しはMONSTA XのジュホンとBLACKPINKのジェニ。

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※松崎桃子の崎はたつざきが正式表記。

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