EP『Rolling』以降の作品からセレクトした楽曲+新曲で構成されている最新アルバム『Dance for Sorrow』。2019年11月にリリースしたミニアルバム『GINGAKEI』の後、岩渕想太(Vo.)の声帯ポリープの手術、田村夢希(Dr.)の脱退、コロナ禍など、様々な出来事を経た中で重ねられた表現の探求を示す作品だ。今作を岩渕、浪越康平(Gt.)、タノアキヒコ(Ba.)はどのように捉えているのだろうか? 2023年8月8日(火)・兵庫・MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎で開催する自主企画イベント『パノパナの日 2023』の話も含めて語ってもらった。

――80’sの要素が反映されているのが、今作の印象的な点の1つです。そして、00年代以降のガレージロックリバイバル的なサウンドも大きな柱となっているなと。

岩渕:パノパナのオリジナリティを作りたいと思ってやってきた中で、おっしゃる通りガレージロックリバイバル、80’sのニューウェイブ、ポストパンク的なものが出てきたんですよね。そういう音楽が全員好きだし、「こういうの面白いよね?」ってよく話していたんです。

浪越:コロナ禍以降、「バンドサウンドでやろう」っていうのを改めてみんなで考えたんですけど、ニューウェイブ、ポストパンクをリファレンスにすることが多かったです。

タノ:かっこいいと感じる最近の音楽も、どこかしらに80’sのエッセンスが入っていたりするんですよね。リスナーとして好きになる音楽は、やっぱりバンドにも反映されます。

岩渕:どの時代の曲かどうかは関係なく、「今、これを聴いてかっこいいと思う」っていうのが、パノパナの原動力になることが多いんですよね。

――例えば「Run」も、80’sをパノパナ流に取り入れていますね。a-haの「Take On Me」のエッセンスは、かなり意識したんじゃないですか?

岩渕:まさに「Take On Me」です。あの曲の要素を取り入れた最近の曲は、例えばザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」や、ハリー・スタイルズの「As It Was 」もそうでしたよね。「取り入れたものの中でオリジナリティを出す」みたいなのがちょっと前にブームになった感覚があって、その代表的な曲が「Take On Me」なのかなと。あのサウンドの間の抜けた感じというか(笑)。「洗練されてるけど、何かを抜いてる」っていうあの感じをやりつつ、自分たちの答えを1個出したかったんです。

――「Take On Me」みたいな80’sサウンドは、上手く料理しないとダサくなっちゃう難しさがありますよね?

岩渕:そうなんです。実はダサくなってしまったデモもありました(笑)。

――(笑)。あの頃のシンセの音色を使ったり、スネアにゲートリヴァーブをかけたりする感じは、長らく「ダサい」とされていましたからね。

浪越:最近記事で読んだんですけど、70年代末辺りはシンセをステージに上げるのがダサい感じがあったらしいです。そういう時期を経て、ヴァン・ヘイレンシンセを取り入れて上手く行って、80年代に入ってからはシンセキーボディストをステージに上げるのが恥ずかしくなくなったみたいです。最近の音楽に80’sサウンドが取り入れられるようになっているのも、歴史は繰り返すってことなのかもしれないですね。

父と母が出合った瞬間に流れてた音を今の自分達が鳴らすことに意味を感じてしまった

――新曲の「Cranberry, 1984」も、80’s的なサウンドですね。岩渕さんのツイッターで読んだんですけど、ご両親が出会ったのが1984年

岩渕:はい。「父と母が出会った瞬間に流れてた音」みたいなものを今の自分たちが鳴らすことに、何かしらの意味を感じてしまって。ギターソロは、浪越が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティみたいなことをしています。

浪越:あの映画でマーティがチャック・ベリーの曲を弾くので、そういうフレーズを入れてみました(笑)。

――(笑)。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が上映された頃は、文化的にもいろいろ面白かったですよね。音楽のミクスチャーがさらに進んだ時期でもありましたし。RUN DMCエアロスミスがコラボした「Walk This Way」がヒットしたのが、たしか1986年とかでしたから。

岩渕:「Dive to Mars」とか、『GINGAKEI』のリファレンスになったのが、その辺の曲なんですよね。だから今回、少し遡ったということだと思います。

タノ:現代的なものを取り入れつつ、リファレンスで遡っていくっていうのを、パノパナはずっとしてきたのかなと。

浪越:最近、「ニューウェイブより少し前の、血の通った人っぽいものもやりたいよね?」っていう話もしているんです。だから今後、さらに5年くらい遡るかも。

岩渕:その感じ、なんとなくわかる。最近思うんですけど、パノパナは「バンドを組む意味」っていうのをとことん考えたいバンドなんです。「バンドで鳴らしてることの意味」を探す旅をしている感覚があります。80年代の音楽もそうですけど、あの頃の音楽が今聴いても刺激的なのは、「バンドであることの必然性」があって、「これとこれを組み合わせたら面白い」みたいなのがあるから。そういう根源を探求していくと、自然と音楽の歴史を遡っていくことになるのかも。だから今後はニューウェイブ、ポストパンクより前の音楽、より生っぽくて肉体的なものに回帰していくのかもしれないですよ。

――遡りながらバンドサウンドによるグルーヴを一貫して追求してきたのが、パノパナということですね?

岩渕:はい。そうなんだと思います。

Panorama Panama Town 撮影=上原俊

Panorama Panama Town 撮影=上原俊

音楽の原点は、高校の頃に先生をディスしたラップ

――「Melody Lane」も、そういう部分を感じる曲です。FODで配信中されたドラマ『ギヴン』の劇中バンドのために書き下ろした曲をリアレンジしていますが、80年代のUKロック的なサウンドですね。

岩渕:このアルバムの流れの中に入ったことによって、より自分らの曲になった感じがしています。

――「Sad Good Night」も、改めて聴いてかっこいいと思いました。《Sad Good Night》という音の響きが気持ちいいです。

岩渕:語感が気持ちいいものが、やっぱり好きなんですよね。リズム重視なところは、ラップをやってた頃に会得していったものなので。

――「King's Eyes」や「Strange Days」みたいな言葉の乗せ方がスリリングな曲も、ラップで培われたものが出ているんじゃないですか?

岩渕:そうかもしれないです。

――岩渕さんの音楽の原点は、高校の頃に先生をディスしたラップですよね?

岩渕:そんな細かいエピソードを覚えてる人は、もうほとんどいないですよ(笑)。でも、今回は歌として良いもの、メロディが立っているものを作りたいというのもありました。「Black Chocolate」や「Knock!!!」とかは、今までよりもメロディ寄りのものにしたくて作っていきましたから。

――メロディを立たせている曲が特にそうですけど、80年代のUKロック的なギターサウンドを感じます。ザ・キュアーとか聴きました?

岩渕:聴いたりはしますけど、そこまでたくさん聴いてる感じではないです。

浪越:そういう要素に関しては、ロシアのポストパンクの影響かもしれないです。今回のアルバムの制作期間にロシアのポストパンクのムーブメントを発見したので。

――ロシアのポストパンクムーブメントって何ですか?

岩渕:2018、2019年頃にロシアでポストパンクムーブメントが盛り上がったらしくて。プレイリストを見つけたんですけど、掘れば掘るほど、その頃の曲が全部良いんですよ。でも、曲名とかがロシア語だから読めない(笑)。

――冷戦下のソ連では西側の文化は規制されていたから、リアルタイムでは80年代の欧米の音楽が流れていなかったんでしょうね。だからあの頃の音楽がロシアで新鮮なものとして捉えられるようになって、2018年頃にそういうサウンドのバンドが盛り上がった……っていうことなのかも。あくまで推測ですが。

浪越:ロシアのポストパンクの曲をやってるバンドの他の曲を聴いたら、ハードコアみたいな感じでした。そういうバンドのバラード的な一面として、ポストパンク的なものをやってるっぽいです。

岩渕:ロシアのポストパンクのMVもかっこいいんです。ジョイ・ディヴィジョン、バウハウスみたいな頽廃的なものを感じます。

――頽廃的な感じは、パノパナにもすごくあると思います。乾いたフィーリングというか、ビートニク的なものは、もともと好きですよね?

岩渕:好きですね。アメリカンニューシネマとか、ジャック・ケルアックみたいなビートニク的なカルチャーは、「全力で明るいわけではないけど、暗い中に差し込む光」というようなものを感じるんです。だからパノパナの曲にもそういうのは表れますね。

「今ここにないもの」「なくなりつつあるもの」を愛したい気持ちがある

――例えば「Knock!!!」も、そういうテイストをとても感じます。

岩渕:この曲は、デモがいくつかあった段階で自分ではそんなに推していなくて。でも、浪越が「これは絶対に形にしよう」って言ってくれて、アレンジとかのいろんなアイディアを出してくれたんです。ライブでやるようになったら、お客さんや他のバンドからも「良い曲」って言われるようになりました。周りの人によって自信を持てるようになった曲ですね。

――歌詞の中に新宿の描写が出てきますが、そこにもパノパナらしさを感じます。

岩渕:新宿が、なんか好きなんですよ。新宿ってそれ自体が歌詞っぽいというか、街がずっと歌ってる感じがするんです。

――岩渕さんの地元の北九州のシャッター商店街も、パノパナに反映されている原風景ですよね?

岩渕:はい。北九州も街が歌ってる気がしています。あと、神戸の新開地もそうですね。言い方が難しいですけど……「今ここにないもの」「なくなりつつあるもの」を愛したい気持ちがあるんです。そこにある光のようなものを歌いたいというか。それは実家が商店街の中にある餅屋だというのも大きいのかも。育った街が寂れていくのを経験しているので、そういうものを歌っていたいんでしょうね。

――歌詞に関しては、「SO YOUNG」についてツイッターで書いていたのが面白かったです。《夕暮れの街のサリンジャー》を削ろうか悩んでいる旨をお蕎麦屋さんでお父様に話したら、「そこがいいのに」と言われたんですよね?

岩渕:そうです(笑)。

――そして天ぷらの海老の尻尾を残したら、「そこが一番美味いのに。尻尾が"夕暮れの街のサリンジャー"や、お前は何もわかってない」と言われたんですね?

岩渕:はい(笑)。父は今年の1月に亡くなったんですけど、言ってたことは意識してるというか、自分の心の中にありますね。父は「《デタラメも 信じ抜いてみりゃ それが答えだろう》ってこの曲で歌ってるんだから、お前がそれをやらなきゃ」っていうことも言ってました。

「Run」

大げさな表現とかは要らなくて、ただそこに繰り返し鳴ってるものが気持ちいい

――あと、サウンドに関してもう少しお話をしておくと……最初に軽く触れましたが、ガレージロックリバイバルへの敬愛が反映されているのも、今作の聴きどころだと思います。「King's Eyes」「Rodeo」「SO YOUNG」とかがまさにそうですが。00年代初頭の海外のガレージロックリバイバルは、リスナー体験としても大きかったですよね?

岩渕:そうですね。アークティック・モンキーズの『AM』が出て、2013、2014年くらいにその辺がある程度落ち着きましたけど、その直前くらいが高校、大学だったんです。

タノ:好きなジャンルであることはたしかですね。僕は大学入ったくらいから、そういうのをすごく聴くようになりました。

――「King's Eyes」が代表例ですけど、ループ感のある展開で昂揚感を醸し出すのがパノパナの得意技だなと。今作を聴いて、それを改めて思いました。

浪越:それしかやってないって言ってもいいのかも(笑)。

岩渕:転調とかをできるだけせずに、リフをひたすら違うアプローチで鳴らし続けるのをずっとやってます(笑)。ポリープ手術の後に再始動して曲を作りだした頃も、「リフをループするのが気持ちいいよね?」っていうのから始まりました。

――こういうアプローチが醸し出す昂揚感は、「トランス状態」という言葉が当てはまるのかも。

岩渕:純粋にこういうのが気持ちいいんですよね。『Dance for Sorrow』っていうアルバムのタイトルにも通ずるんですけど、悲しいことがあった時って、何かしらのループでダンスするのがすごく気持ちよくて。大げさな表現とかは要らなくて、ただそこに繰り返し鳴ってるものが気持ちいいんです。この前、西日本の方に行って1週間で5本ライブをして、最後が東京だったんですけど、情報量が少ない、ミニマルで洗練された音楽しか聴きたくなくなってました。疲れた時、悲しい時って、そういうものがグッと来るんですよね。

――ミニマルなもので得られる昂揚感は、華やかな音楽で得られる興奮とはまた別ですよね?

岩渕:そうなんです。例えばテーマパークとかに行って感じる非日常感ってありますけど、それとはまた別の「内なる非日常感」みたいなものもある気がします。それがトランス状態みたいなことなのかなと。自分にすごくフィットする音楽を聴くと「聴いてる」っていうよりも「自分もそこの中で鳴ってる」みたいな感覚になるんです。それって「内なる非日常」だなと。没頭する中で見つかるそういうものに出会いたくてやってるのが、パノパナです。

――パノパナの音楽がダンスミュージックと通ずるところがあるように感じるのも、そこが大きい気がします。

岩渕:石野卓球さんが渋谷のVISION(SOUND MUSEUM VISION)で最後にDJをやった時、僕は2時間ずっと下を向きながら踊ってたんですけど、30秒くらいだった感覚でした。何かに没入すると時間経過の感覚がなくなるんですよね。そういう意味で、パノパナもハウスとかのダンスミュージックに近いことをやってるのかもしれないです。

Panorama Panama Town 撮影=上原俊

Panorama Panama Town 撮影=上原俊

胸を張って「ダンスロックってかっこいい!」って言えるバンドじゃなきゃいけない

――アルバムについてじっくり語っていただきましたが、改めて何か感じることはありますか?

岩渕:自信作ができました。今までで一番良いのはもちろんだけど、現行のいろいろなバンドの中で聴いても刺激的で、純粋に一番かっこいいと思えます。「わかる人にわかってほしい」「これが好きな人がいる」ということでもなくて、「これが一番かっこいいんだ!」っていう我儘を聞いてほしい(笑)。そういう気持ちがすごくあります。3人それぞれの「ここを聴いてほしい」ってポイントを言っておく?

タノ:では、僕から。「Knock!!!」はバンドにおける自分のベースの仕事から飛び抜けられた感覚があります。「面白いことができた」って思えています。

岩渕:ニュー・オーダーっぽい?

タノ:そうだね。「バンドの中でどうしたらベースが一番機能するのか?」みたいなことをずっと考えているんですけど、その悩みからちょっとだけ出られた感じがしています。

――浪越さんは、いかがでしょうか?

浪越:ギターに関して何か推しておきたいことは、あったりする?

岩渕:「Run」の2Aのギターのブリッジミュートが、すごく良い仕事してる。

タノ:「Strange Days」のギターソロは、名作だと思う。

浪越:おっ! やっとわかってきた?(笑)。

――(笑)。岩渕さんは何かあります?

岩渕:「Faceless」の歌詞を、ぜひ文章で読んでほしいですね。意味がないようでいて、意味があるように書いたので。

浪越:歌詞に関しては、「Cranberry, 1984」の《グラスがコトンと笑う》が好き。これ、どういうことなの

岩渕:喫茶店でずっと会話をしていて、アイスコーヒーとかの氷が融けて音が鳴る瞬間のこと。

浪越:なるほど。

岩渕:かなり細かい話(笑)。

――(笑)。かっこいい音楽をやっているという確信は、ずっと持ってやってきましたよね?

岩渕:はい。虚勢を張ってビッグマウスで言ってたこともあったんですけど、今はそういうことを心から言えるようになりました。ライブも、いろんな人に観てほしいですね。「ダンスするってなんだろう?」「自分たちのダンスってなんだろう?」って去年くらいからずっと思ってて、今年のテーマにもなっているんです。「ダンスロック」っていう言葉を使うのを避けてた時期もあったんですけど、最近は胸を張って「ダンスロックってかっこいい!」って言えるバンドじゃなきゃいけないと思うようになってます。

Panorama Panama Townとパノラパナマタウンが対バンするような気持ち

――ライブに関しては、8月8日に兵庫・MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎で『パノパナの日 2023』がありますね。

岩渕:はい。『パノパナの日』は内容が毎回流動的で、リクエスト投票でやる曲を決めたり、メンバー各々が弾き語りやDJをやったりもしてきたんです。今年は昔の曲をやろうと思ってます。

浪越:パノラパナマタウンと戦います。

――アルファベット表記のPanorama Panama Townに改名したのが2020年12月。その前のパノラパナマタウン時代の曲もやるということですね?

浪越:はい。Panorama Panama Townとパノラパナマタウンが対バンするような気持ちです。

――Panorama Panama Townのメンバーとして、パノラパナマタウンに言ってやりたいことは何かありますか?

浪越:パノラパナマタウンは高いところに登ったり、ステージからフロアに降りたりとか、それくらいやってくれないと(笑)。

タノ:とにかく、普段のワンマンライブとは違った感じになると思います。

岩渕:普段のライブとは違うものを観られる年に一度のイベント、それが『パノパナの日』なので。今までずっと東京でやってたんですけど、今年は神戸です。太陽と虎はホームグラウンド的なライブハウスで、「実家」と呼んでます(笑)。

――(笑)。最近のリハでは、昔の曲の練習もしているんじゃないですか?

タノ:まさにそうです。

岩渕:結構難しいのとかありますからね。

――今までに作った曲は、結構な数ですよね?

浪越:そうですね。何曲あるんやろ? イチ、ニ、サン、シ、ゴ……。

岩渕:今数えるのか?(笑)。


取材・文=田中大

「Dance for Sorrow」Trailer


 
Panorama Panama Town