高速道路の工事規制に突っ込む事故が顕在化し、NEXCO各社が注意喚起を強化しています。その具体的な件数が急増していることが明かされました。工事作業員が犠牲になる事故も発生。どう対策するのでしょうか。

急増している「高速道路の工事規制に突っ込む事故」

高速道路上の工事規制へ衝突する事故が年々、増加傾向にあります――NEXCO東日本が2023年7月26日に行った由木文彦社長の定例会見で、このことが取り上げられ、工事作業員が犠牲になっている状況が具体的に紹介されました。

東日本以外のNEXCO各社でも近年、工事規制帯に猛スピードのクルマが突っ込んで、作業員の命を脅かす問題が顕在化しています。NEXCO中日本東京支社が2023年6月14日にTwitterで事故事例を集めた映像を公開し、大きな反響を集めたばかりでした。

「(NEXCO)3社で啓発を強化することを話し合い、データを改めて集めてみると、かなり深刻だ」とNEXCO東日本の幹部は明かしました。

同社はこうした事故を「他責事故」と呼称しています。2021年に35件だった他責事故の件数は、2022年には53件、そして2023年には上半期だけで37件に上っているとのこと。

2021年には他責事故で2人の作業員が亡くなっています。うち10月に発生した1件は、車線規制の撤去作業中、路肩に停車中の作業車の荷台脇で積込み作業をしていた作業員が大型トラックにはねられたケースです。

12月に発生したもう1件は、車線規制を伝える標識車の先の車線規制区域で、規制材の点検をしていた作業員が、そこに進入したトラックにはねられたというもの。手前の標識車は避けたのか、もともと規制されていない追越車線側を走っていたのかは不明ですが、いずれにせよ追越車線側から進路がズレて斜めに走行し、走行車線側の規制帯へ突っ込んだのです。

こうした状況に、NEXCO各社もポスターやSNS投稿だけでない具体的な対策に乗り出しています。

侵入車両を“強制的に停める”措置として、防護車両のバックに衝撃吸収のための緩衝材を付けるほか、衝突車両の前輪を強制的に浮かせて、車両とともに下がりながら停止させる装置を開発するなど、各社は様々な技術で対応策を生み出しています。

今回、NEXCO東日本はさらなる対策として、狙ったところのみに音を出す「指向性スピーカー」で警告音を発し、居眠りや“ながら運転”のドライバーなどに不快な音を聞かせる注意喚起装置や、走行車線上にリング状の凹凸をつけ、それを通過する際の振動で通行車両に注意喚起する装置などを紹介しました。

ながら運転で人が死ぬ?

ではなぜ、こうした事故が増えているのか。各社はその具体的なエビデンスやデータを積み上げるのに苦戦しているようですが、SNSなど一般向けの注意喚起では、やはり「ながら運転」への注意喚起を強化しています。

NEXCO中日本東京支社は前出のSNS発信で、「運転支援機能を過信し、前方を見ていないと思われる事故や、スマートフォンを見ながらの『ながら運転』による事故の多発と考えられます。走行中は前を見て運転してください」としています。

もちろん居眠り運転なども要因ではあるものの、近年になって顕在化しているのが、“運転支援機能を過信した”ながら運転です。

設定したスピードを維持するACC(オートクルーズコントロール)が普及し、アクセルから足を離していても前車に追随して自動減速したり、車線を逸脱しそうになると自動で軌道修正したりする機能を備えたクルマが増えています。ACCで走行しながらスマホなどをいじっていて、前方の工事規制帯に気づかず、そのまま猛スピードで突っ込むケースが少なくないと考えられているのです。

こうした運転支援機能としてのACCは、多くの場合、カラーコーンなどの工事規制器材には反応しないとされています。

NEXCO3社は連携し、他責事故の原因分析や技術開発を行っていくといいます。ある幹部は、「もっと具体的な事故の態様を発信していくべきだ」と焦燥感をにじませました。

現在、物流の配送時間短縮などを目的に、衝突時の被害の大きさからこれまで避けられていた、大型車の最高速度を80km/hから100km/hに引き上げる議論も国で行われています。これについて由木社長は「動向を見極めたい」としましたが、工事作業員のさらなるリスクとなる可能性もあります。

この議論の背景には、大型トラックなどへ衝突被害軽減ブレーキなどの運転支援技術の実装が進んだことがあります。近い将来、工事規制帯も自動で避けるようになるのかもしれませんが、それまで、工事作業員は気の休まらない日々が続くのでしょうか。

工事規制の標識車に突っ込んだトラック。実際の事故映像(NEXCO中日本東京支社の動画より)。