綾瀬はるか主演の映画「リボルバーリリー」が8月11日より公開となる。本作で綾瀬と3度目の共演を果たす長谷川博己のキャリアを振り返り、俳優としての魅力を紐解いていく。

【写真】映画「リボルバー・リリー」お披露目会見で優しい笑顔をみせる長谷川博己

■「リボルバーリリー」で綾瀬はるか×長谷川博己の名コンビが再び

本作はハードボイルド作家・長浦京の第19回大藪春彦賞受賞作を、「世界の中心で、愛をさけぶ」「パレード」「リバーズ・エッジ」「窮鼠はチーズの夢を見るなど、数々のヒット作を世に送り出してきた行定勲監督の手で映画化。関東大震災に見舞われた大正時代の東京を舞台に、消えた陸軍資金の鍵を握る少年に助けを求められた元敏腕スパイ・小曽根百合(綾瀬はるか)の戦いを描く本格アクションだ。

シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、SixTONESジェシー佐藤二朗、吹越満、内田朝陽、板尾創路、橋爪功、石橋蓮司、阿部サダヲ野村萬斎、豊川悦司といった豪華キャストが集結している本作だが、物語の中心となるのは主人公の百合と、彼女に助けを求める少年の慎太(Go!Go!kids / ジャニーズJr.の羽村仁成)。そして、百合が営む銘酒屋「ランブル」の顧問弁護士を務める岩見(長谷川博己)だ。彼は慎太とともに陸軍から追われる身となる百合を支える存在となる。

綾瀬と長谷川といえば、NHK大河ドラマ「八重の桜」にて夫婦役で共演。綾瀬扮する主人公・新島八重の最初の夫となる川崎尚之助を長谷川が演じた。しかし、八重と尚之助は戊辰戦争の最中に離婚。その後、再会を果たすが尚之助は病で亡くなってしまう。悲劇に見舞われながらも互いを想い合う二人の愛に涙した人も多いのではないだろうか。

そして、ドラマの放送から8年。昨年公開された映画「はい、泳げません」で綾瀬と長谷川は久しぶりの共演を果たすことに。同作は泳げない男と泳ぐことしかできない女の、希望と再生の物語。泳げない男こと、水に顔をつけることすらできないカナヅチで堅物の哲学者・雄司を長谷川、泳ぐことしかできない女こと、泳ぐのは得意だがそれ以外は不器用コーチの静香を綾瀬が演じた。

静香に半ば強引に勧誘され、泳ぎを教えてもらうことになる雄司。変わり者の彼らが交わすコミカルなやりとりにくすりと笑える一方で、二人が抱える心の傷が見えてくる中でより物語は厚みを増していく。もがき苦しみながらも希望を手繰り寄せる人間の生命力を、綾瀬と長谷川という二人の名優が見せてくれた。

そんな彼らの3度目の共演が実現する本作。妻と夫、コーチと生徒という形で息の合ったやりとりを交わしてきた二人が今度は動乱の時代をともに駆け抜けていくバディとなる。まだ謎に包まれている百合と岩見のキャラクターはもちろん、二人の関係性にも注目だ。

■その危険な香りに魅了される

おっとりとした雰囲気がありながら、ハードなアクションも難なくこなす綾瀬。そんな日本を代表する俳優の彼女と名コンビを組む長谷川もまた、映画やドラマで様々な顔を見せてきた。彼はいわゆる“遅咲きの俳優”と呼ばれるように、意外にも映像界に進出したのは30歳になってから。それまでは文学座の座員として、舞台で経験を積んでいた。

ブレイクのきっかけは、2010年に放送されたNHKドラマ「セカンドバージン」。同作で鈴木京香演じる主人公のるいと道ならぬ恋に落ちる17歳年下の行を演じたことで世間にその名を知らしめる。行は金融庁の若手キャリア官僚。長谷川が全身から漂わせるエリートのオーラと知性、そして恋愛から長年遠ざかっていたるいをも惑わせる色気に魅せられた視聴者は多かったことだろう。一方で、行は妻がいながらるいと肉体関係を持ったことに加え、のちに金融商品取引法違反の容疑で逮捕されてしまう役柄。決して真っ当とは言えぬ危険なオーラを匂わせることができるのも、世界のニナガワこと、故・蜷川幸雄にも一目置かれる確かな演技力を持った長谷川ならでは。

長谷川はのちにNHK連続テレビ小説まんぷく」にて、ヒロイン・福子(安藤サクラ)の夫で、日清食品の創設者・安藤百福をモデルとした萬平を演じることになるが、彼もまた常に危うさを携えていた。根っからの発明家気質である萬平はインスタントラーメンにしろ、作りたいと思ったものは何が何でも完成させる。それは意思が強いとも言えるが、周りの迷惑を考えないところもあり、時に“マッドサイエンティスト”的な狂気も感じさせた。演じる役の魅力になる、長所と短所を長谷川は絶妙に配合し、作中に落とし込んでいく。その巧みな技に観るものは最後まで惑わされてしまうのだ。

長谷川博己は人間愛に溢れた役者

手足が高くすらっとした体型の長谷川はとにかくスーツが似合い、くらっとするような大人の色気が溢れている。それにもかかわらず、「はい、泳げません」の雄司もそうだが、ちょっとかっこ悪い役もハマってしまうのだから凄い。例えば、平均視聴率40%という驚異の数字を叩き出した「家政婦のミタ」(日本テレビ系)で演じた恵一。彼は主人公の三田(松嶋菜々子)が家政婦として派遣された阿須田家の大黒柱で、妻亡き後4人の子供を育てるシングルファザーだ。

しかしながら、妻が妊娠して仕方なく結婚した経緯もあって、父親としての自覚はほぼゼロ。不倫の末に妻を自殺に追い込んでしまった事実からも目を背け、子供たちが抱える問題とも一切向き合おうとしない。そのダメっぷりにイライラさせられる一方で、妙にリアルだったのは長谷川が人間愛のある役者だからだろう。その人が持つ、時に倫理から外れたダメな部分からも決して目を逸らさない。演じる者としての誠実さがそこにある。

デート〜恋とはどんなものかしら〜」(フジテレビ系)では、自身を高等遊民と称する無職の男性・巧を演じた。高齢の母親に代わる新たな“寄生先”を求めて婚活に励む中で、ヒロインの依子(杏)と出会う、説明だけ聞くと人間性に著しく欠けたキャラクターだ。しかし、趣味の話になるとペラペラと楽しげにうんちくを語る姿や、恋愛経験がないなりに懸命に依子と恋をしてみる不器用な姿が次第に可愛く見えてきた。だから本当に、長谷川が演じる役は最後まで目が離せないのである。

最新出演作「リボルバーリリー」で演じる岩見は果たしてどんな人間性を持った役どころなのか、期待が高まる。なお、民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」では映画の公開を記念し、出演キャストの過去ドラマが配信中。長谷川が出演した「聖なる怪物たち」も配信が開始されている。同作で長谷川が演じる敏雄も幼児教育に携わる巨大グループの理事長で周りから尊敬されているが、実は妻にも言えぬ秘密を持っている役柄。長谷川が演じ分ける表と裏の顔をとくとご覧あれ。

■文/苫とり子

映画「リボルバー・リリー」で3度目の共演をはたす綾瀬はるかと長谷川博己/撮影:田中隆信