「一体、何を根拠に言っているんだろう」そんな風に私が怪訝に思っていたのは金曜日、プレシーズン2試合目となるマンチェスター・シティ戦前の記者会見でシメオネ監督の言葉を聞いた時のことでした。いやあ、確かに今週火曜にソウルに入り、ファンとの交流イベントや木曜のKリーグ選抜チームとの試合でアトレティコも韓国マスコミでの露出度が上がっているとは思うんですけどね。だからって、「Nos imaginamos que los coreanos estarán con el Atlético y no con el City/ノス・イマヒナモス・ケ・ロス・コレアーノス・エスタラン・コン・エル・アトレティコ・イ・ノー・コン・エル・シティ(韓国の人々はシティではなく、アトレティコの応援をしてくれると想像している)」(シメオネ監督)なんて、相手は天下のCL王者様ですよお。

実際、日曜に東京の国立競技場での横浜マリノス戦でこの夏のプレシーズンマッチをスタートさせたシティはハーランドの2発とロドリのゴールなどで3-5の白星スタート。続く水曜のバイエルン戦にもマカーティとラポールが得点し、1-2と連勝した後、金曜にソウルに着いたんですが、その時の空港の様子はアトレティコに負けずとも劣らずどころか、もしやそれ以上?たとえ、韓国のファンが何がしかの親近感をアトレティコに覚えてくれていたとしても、8月6日に今季の初公式戦、コミュニティ・シールドでのアーセナル戦を控え、先にギアを上げているグァルディオラ監督のチームに人気でも実力でも、どうやったら勝てるというんでしょう。

ちなみにこの木曜、ソウルワールドカップ競技場で行われたアトレティコサマーツアー第1戦、Kリーグ選抜との試合がどうだったか、先にお伝えすると、シメオネ監督のチームは前日、ダブルセッションを行い、午後は土砂降りの中、スタジアムで予行演習。その2度目の練習を筋肉痛でスキップしたジョアンフェリックスは7番をグリーズマンに取られ、空いた8番もサウールに戻り、背番号17を当てがわれていたものの、GKオブラク、カラスコマルコス・ジョレンテらと共にベンチ見学することに。ヒメネスとモリーナが負傷でお留守番となったのもあり、左右のカリレーロ(長い距離をカバーするSB)にはサムエル・リノ(昨季はバレンシアレンタル)、アスピリクエタ(チェルシーと契約終了)、そしてビッツェルがサビッチ、エルモーソと3CB制の一角に入る、レギュラー混合のスタメンでスタートしたところ…。

いやあ、スペインでは午後1時のキックオフとなったため、私もいつものバル(スペイン喫茶店兼バー)に行ってみたところ、マドリッドの夏あるあるですよ。何と、リーガのない7月は放映権を持つ局との契約を休止しているとのことで、流してくれるお店を探すのに時間がかかり、ようやく前半12分ぐらいから見始めたんですが、その時はもう、モラタが最初のゴールをお馴染みのオフサイドで取り消されていたよう。それでも13分、レマルがエリア内に送ったパスからのグリーズマンのシュートは韓国人GKに弾かれてしまったものの、転がったボールをレマルがvolea(ボレア/ボレーシュート)して、先制点を挙げるシーンは目撃できたから、滑り込みセーフでしょうか。

その後もアトレティコはオール韓国人選手だった相手を前に優勢に試合を進め、うーん、モラタなど、23分にもデ・パウルからのアシストで、45分にもリノに横パスをもらってゴールを決めたんですが、ことごとくオフサイド。聞いた話ではどうやら、来季からルールが変わって、今とは逆に最後尾の敵と体の一部が重なっているだけでオフサイドにはならないらしいので、この夏、2026年まで契約を延長したモラタにはそれまで辛抱してもらうしかありませんが、それ以外でもアトレティコグリーズマンゴールポストに弾かれたり、エルモーソ、サビッチ、リノらが敵GKに弾かれてしまったりで、結局、0-1のままハーフタイムに入ることに。

とはいえ、チームの動きは悪くなかったため、私もあまり心配はしていなかったんですが、Kポップスターハーフタイムショーを延々と聞かされた後、選手11人がそっくり交代となった後半はまったく異なった展開となります。ええ、早くも後半3分には敵のFKにゲルビッチから交代したゴミスが不用意に飛び出してしまい、クリボチェク(大田ハナシチズン)が頭で触れたボールがネットに収まって、同点にされてしまうんですから、困ったもんじゃないですか。それでも40分にはピッチに入ったカンテラーノ(Bチームの選手)5人をリードすることになったコレアがエリア内右奥からキラーパス。昨季、アトレティコBをRFEF1部(実質3部)昇格に導いたエース、現在は絶賛、レンタル先募集中のカルロスマルティンがゴール前から蹴り入れて、とうとう勝ち越し点をゲットしてくれたため、プレシーズン最初の試合から、PK戦なんて、胃の痛む思いをせずに済んだかとホッとしたんですが…。

もっと最低でした。というのも、すでに終わりの見えていた44分、後半からソユンチュ(レスターシティとの契約終了)、ハビ・ガラン(セルタから移籍)らと一緒にデビューとなったモウリーニョ(同ラシンクラブ・デ・モンテビデオ)がエリア内で敵を倒し、PKを献上しまったから!それどころか、パロチェビッチイ(ソウル)に同点にされた後のロスタイム4分、イ・スンミン(光州)にもエリア前からシュートを決められ、最後は3-2で逆転負けとは、あまりに前半と後半のチーム力の差がありすぎですって。

うーん、試合後のシメオネ監督は日曜午後1時(日本時間午後8時)からのシティ戦に向けて、「Ojalá jugar tres partidos seguidos contra ellos porque con ellos se aprende y puedes mejorar/オハラ・フガール・トレス・パルティードス・セギードス・コントラ・エジョス・ポルケ・コン・エジョス・セ・アプレンデ・イ・プエデス・メホラル(彼らからウチは学べるし、それで改善もできるから、3試合続けてプレーできたらいい)」なんて言っていたんですけどね。何せ、今はギュンドガン(バルサに移籍)やマフレス(同アル・アハリ)などがいないものの、未だに私には最後の対戦となった21-22シーズンのCL準々決勝で敗退した時、グァルディオラ監督に「5-5-0のシステムでプレーするチームと戦うのは難しい」とまで言われてしまった黒歴史を頭から消すことはできず。金曜には呑気にコケやサウールら、主力選手数人がオフィシャルカースポンサーのヒュンダイ訪問などをしていたアトレティコですが、怖いハーランドもいるとはいえ、昨季の三冠チームに一矢でも報いることができたらいいですよね。

え、同じ木曜の未明、お隣さんもヒューストンでサマーツアー2試合目となるマンチェスター・ユナイテッド戦をプレーしていなかったかって?その通りで、こちらはまたしても生で見ることはできなかったんですが、まったく心配する必要はなかったよう。ええ、新顔のホセル(エスパニョールからレンタル)とブライム(3年間のミランへのレンタル移籍から帰還)が先発したミラン戦とは逆にビニシウスとロドリゴがスタメンとなったこの試合、開始6分に輝きを見せてくれたのは早くも不動の10番の地位を確立したベリンガム(ドルトムントから移籍)。リュディガーが自陣から放ったロングパスを受けると半回転して、デ・ヘアが去った後、後釜として入ったGKオナナ(インテルから移籍)の頭の上を越すvaselina(バセリーナ/ループシュート)で先制点を挙げてしまうのですから、恐るべき20才じゃないですか。

ただその後はビニシウスなどのチャンスもあったものの、追加点はなかなか挙げられず、いえ、クルトワ休場で2試合連続の先発GKとなったルニンもこの日はしっかりやっていたため、別に1-0のままでも良かったようなんですけどね。最後の最後、後半44分には途中出場した、今季のマドリーfalso nueve(ファルソ・ヌエベ/シャドーCF)ではなく、まっとうなCFと言える唯一の存在、ホセルがルーカス・バスケスのクロスを見事なchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)で決めてくれたとなれば、チケットに400ドル(約6万円)以上払ったNRGスタジアムの観客も満足して帰ることができた(最終結果2-0)?

そのユナイテッド戦ではカセミロやバランとの感動的な再会などもあったんですが、翌日、マドリーは2連勝を引っ提げてダラスに移動。いよいよこの土曜午後11時(日本時間翌午前6時)、AT&Tスタジアム(アメフトのダラス・カーボーイのホーム)でクラシコ(伝統の一戦)を迎えることに。いやあ、相手のバルサマドリーと同じ日にスペインを発って、ロサンジェルス入りしたんですが、選手たちの大半がウィルス性胃腸炎に見舞われ、日曜に予定されていたユベントス戦をキャンセル。木曜のアーセアル戦は無事、開催できたんですが、レバンドフスキラフィーニャ、フェラン・トーレスらがゴールを挙げながら、相手に撃ち負けて、5-3で黒星スタートしていますからね。

一応、未だに足の手術のリハビリを続けているイニゴ・マルティネス(アスレティックと契約終了)以外、ギュンドガンオリオル・ロメウ(ジローナから移籍)の2人の新戦力はデビューしているんですが、今度はマドリーもGKクルトワの出場がOKに。昨季はリーガ優勝をバルサにさらわれたリベンジもしたいでしょうし、新シーズン初めての手合わせとなるこの一戦、果たして軍配はどちらに挙がるんでしょうか。

そして今週は弟分のヘタフェも第2次キャンプ地カンポアモール(地中海沿岸のゴルフリゾート)でプレシーズンマッチをやっていて、水曜にはスタッド・ランスと対戦。こちらはクラブのYouTubeチャンネルで中継があったため、私もリアルタイムで追うことができたんですが、前半は相手が積極的に攻撃を仕掛けてくる展開に。ええ、今季から入団した伊東純也選手(ヘンクから移籍)にガストンがきりきり舞いさせられていたのが印象に残ったんですが、ヘタフェが失点したのは後半になってから。17分、アレニャが自陣でディアカテにボールを奪われ、それまでparadon(パラドン/スーパーセーブ)で2度程、ピンチを救っていたGKフサト(イビサから移籍)が破られてしまったから、さあ大変!

その日は先発したボルハ・マジョラル、ラタサ(RMカスティージャから再度レンタル)も後半に入ったマタ、ポルトゥも不発だったため、そのまま0-1で負けてしまい、ヘタフェはプレシーズンの連勝を3で終わらせることになりましたが、チームはもう金曜にはマドリッドに帰還。来週水曜には1部最短Uターンを果たしたグラナダとの試合も控えていますしね。2016年から2020年の4シーズン、ヘタフェを牽引してくれたホルヘ・モリーナは先日、41才で引退を発表してしまったため、ピッチで再会することはできませんが、パコ・ロペス監督のアシスタントとして、グラナダに残るため、ボルダラス監督を始め、この試合を楽しみにしている選手たちも多いんじゃないでしょうか。

そうそう、この週末は土曜にラージョもポルト戦に遠征するんですが、その前日にはCBルジューヌが今季はアラベスから250万ユーロ(約4億円)で完全移籍して戻って来るという朗報が。いやあ、契約が終わってオサスナに移ったカテナがレアル・ソシエダ戦でハットトリックを挙げたと聞いてから、逆方向に移動したアリダネ(オサスナと契約終了)はシャルルロワ戦でペナルティを献上しているし、何か損した気がして仕方なかったんですが、これでフランシスコ新監督も少しは気が楽になった?ただ相変わらず、ファルカオやバリウらにはサウジアラビアから高給オファーが舞い込でいるようで、まだ安心はできないんですが、アトレティコサマーツアーに招集されたリケルメとは違って、U21ユーロ後のバケーションをフルに満喫しているカメージョも来週辺りには再レンタルが決まりそうなのは心強いですよね。

そんな男子クラブチームがプレシーズンマッチに明け暮れている中、地球の反対側で真剣勝負している選手たちもいて、それは女子W杯参加中のスペイン代表チーム。コスタリカに3-0勝利でデビューした後、水曜のグループリーグ2節ザンビア戦でもゴール力を発揮して、5-0で勝っているんですから、大したものじゃないですか。ちなみにその試合では序盤にテレサ・アベジェイラ(マドリー)、続いてリハビリが終わって、初先発となった2年連続バロンドール女子、アレクシア・プテジャ(バルサ)のクロスをジェニ・エルモーソ(パチューカ)がヘッドして2点を先行。そのまま、ハーフタイムまではおとなしかったものの、後半に入ると、アルバ・レドンド(レバンテ)が2得点、その間にこれで代表100試合出場となったエルモーソも自身の2発目を決めて、大量5点となったんですが、え?それは日本女子も同じだろうって?

その通りで日本もザンビアには初戦で0-5と大勝していて、同日のコスタリカ戦には2-0の勝利で、スペインと一緒にメデタク、グループ突破が決定したんですが、実はこの2チームが週明け月曜午前9時(日本時間午後4時)から、ウェリントンで1位の座を懸けて対決するんですよ。両者の差はコスタリカ戦の1点だけで、今のところ、スペインが上にいるものの、日本に負ければ2位になってしまいますからね。ただ、16強対決でマッチアップするグループAはまだスイス、ニュージランド、フィリピンが混戦状態なので、何とも言えないんですが、できれば、優勝候補のアメリカなどとは準決勝まで当たらないコースになるとラッキーですよね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。