老後のお金について解説する本連載。今回の相談者は、退職金受給者限定のキャンペーンとして銀行から案内された「抱き合わせ円定期」を契約した65歳のKさん。「年率5%」の定期預金で賢く運用できる計画でしたが、数ヶ月後、資産の状況をみて愕然とします。Kさんは、どうすれば失敗を避けられたのでしょうか。アルファファイナンシャルプランナーズの代表取締役・田中佑輝氏が解説します。

退職金の振り込み日に銀行から電話

今回の相談者はKさん65歳。35歳と37歳の息子はどちらも結婚して家を出ており、現在は67歳の奥さんと二人暮らし。つい最近、嘱託として働いていた仕事を退職し、セカンドライフの生活に入ったところです。

相談内容は下記のとおりです。

Kさんは、退職金が振り込まれた日に銀行からかかってきた営業電話で「抱き合わせ円定期」を紹介されました。銀行の担当者から聞いた抱き合わせ円定期のメリットは下記のとおりです。

・投資信託とセットの場合、定期預金の部分に金利5%がつく ・3ヵ月という短い期間で高金利を得られる

Kさんが利用している預金金利は当時0.02%しかありませんでした。普通に預けておくよりも高金利だと思ったKさんは、抱き合わせ円定期で500万円を預けることにしました。

抱き合わせ円定期の利用で退職金を賢く運用できると喜んでいたKさんでしたが、ある問題が発生します。

「金利5%」は年率であり、3ヵ月でもらえる利息は、5%÷12ヵ月×3ヵ月=1.25%(税引き後1.047%)だけ。購入した投資信託の手数料(3.3%)を加味すると購入手数料の一部を負担してもらった程度にしかならなかったことに気づいていなかったのです。

結果的に、銀行から紹介された投資信託もマイナスになってしまい、当時自分がどうすればよかったのかをFPに相談しました。Kさんはどうして抱き合わせ円定期で失敗してしまったのでしょうか。まずは、今回のテーマである抱き合わせ円定期についてみていきましょう。

退職金受給者限定のキャンペーン「抱き合わせ円定期」とは

「抱き合わせ円定期」とは、銀行が退職金受給者限定のキャンペーンと銘打って出している定期預金商品の一つです。「1ヵ月~半年程度の円定期預金」と「対象商品(投資信託や保険など銀行が手数料を稼げる商品」の申し込みを同時に行うことで、円定期預金の金利が優遇されます。

円定期と組み合わせる対象商品は、銀行により異なりますが、Kさんが選択した商品は下記3つのプランから選択可能でした。

新規資金プランA…金利5%のプラン。円定期を初めて利用する際に、円定期と投資信託または外貨定期預金を組み合わせる 新規資金プランB…金利2%のプラン。円定期を初めて利用する際に、円定期同士を組み合わせる スタンダードプラン…金利3%のプラン。円定期と投資信託または外貨定期預金を組み合わせる

抱き合わせ円定期は、対象の商品と組み合わせるだけで上記のような高金利が適用されるため、円定期預金のみの資産運用よりも資産を増やせますし、「退職金限定」ともなると、使う側は「やっておかないともったいない」という気持ちになってしまう人が後を絶ちません。

ただし、金利優遇は3ヵ月のみで、その後は満期日の定期預金または普通預金の金利が適用されますので注意が必要です。また、利子所得には源泉徴収課税20.315%(国税15.315%と地方税5%)が課税されることも理解しておく必要があります。

失敗要因はどこにあったのか…FPからのアドバイス

では、Kさんが抱き合わせ円定期で失敗しないためには、どうすればよかったのでしょうか。失敗要因や改善すべき点などについて解説していきます。

失敗した要因

今回、Kさんが抱き合わせ円定期で失敗した要因は主に下記の2点です。

・年率5%は3ヵ月では1.25%(税引き後1.047%)ということを理解していなかった ・銀行の投資信託は手数料が比較的高いことを知らなかった

Kさんは銀行の担当者から「抱き合わせ円定期なら金利が5%で高金利」と聞いていました。

ただし、金利5%というのは「年率5%」なので、金利優遇される3ヵ月間の金利は1.25%となり、3ヵ月間で5%の利子所得を得られるわけではありません。

また、銀行で取り扱っている投資信託は、購入時の手数料と保有していると取られる信託報酬がネット系証券などと比べると高い傾向にあります。Kさんが購入した投資信託は、購入手数料が3%でしたが、ネット系で購入していたら0~1%の商品でした。抱き合わせ定期の金利を1.047%受け取れたとしても、ネット系で購入していたほうが手数料が安かったのです。

また、もう一点気を付けなければならなかったポイントは、Kさんは「銀行だから変な商品は紹介してこないだろう」と信用してしまったこと。銀行を信用して買ったようですが、決してパフォーマンスは良くありませんでした。

改善すべき点

では、Kさんはどうすれば抱き合わせ円定期で失敗しなかったのでしょうか。改善すべきポイントは下記3点です。

1.定期預金はあくまで呼び水であることを知る 2.銀行の商品は手数料が高いことを知る 3.銀行の投資信託は種類が少ないことを知る

まず大前提として、抱き合わせ商品がすべて悪いわけではないのですが、定期預金の金利の高さに目が行き過ぎてしまっていたことが最大の敗因です。たかだか1%ちょっとの利息欲しさに杜撰な投資信託を購入してしまい、1%を超える損失をいとも簡単に出してしまったことがダメでした。

定期預金の金利だけでは、資産はほとんど増えません。そのため、定期預金の金利をあてにするのではなく、投資信託の価値に目を向けるべきでした。

投資信託とは、投資のプロに代わりに運用してもらう資産運用方法です。さまざまな国や会社の株式に分散投資してくれるので、個別で株式銘柄を選定したりする必要がなく、株式の知識があまりなくても安心して資産を増やしやすいことが特徴です。

しかし、知識があまりなくてもいいとはいえ、投資信託についての基礎知識は必要です。投資信託はプロに資産を運用してもらう代わりに、信託手数料などの手数料を支払わなければなりませんし、それが商品によって異なります。

投資信託は何千種類もあり、日本国内だけでなく、米国や中国、東南アジアの株式に投資するもの、国内外の債券に投資するもの、それらを組み合わせたものなどがあります。一口に投資対象を米国株式としている投資信託といっても、S&P500指数に連動するように設計されたものや、医療系・IT系の株式だけを対象にしたものなど、商品によってパフォーマンスも大きく異なります。

金融の営業マンの言葉を鵜呑みにするのではなく、基礎知識を身につけ、しっかりと商品選択もできるようになっておくことが重要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)