自動車や戦闘機から変形する金属生命体たちの戦いを描いた「トランスフォーマー」シリーズ。その実写映画の最新作『トランスフォーマービースト覚醒』が8月4日(金)より公開される。本作ではオプティマスプライムバンブルビーなどおなじみのキャラクターに加えて、ゴリラチーターといった動物から変形するビースト戦士たちが参戦することでも大きな注目を集めている。

【写真を見る】新たな“破壊大帝”としてデストロンを率いるメガトロンは、日本語吹替版を担当した千葉繁の名演(?)もあって憎めないオヤジキャラに!

ビースト戦士とは、1990年代後半~2000年代前半にかけて日本でも放送されたカナダ製作のフル3DCGアニメーション作品「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」に登場したキャラクターで、当時の放送を観ていたファンを中心に根強く支持され続けている。その理由として挙げられるのが、シリアスだったオリジナル版をより明るい作風に改変した日本語吹替版の演出や、吹替声優陣によるアドリブ合戦。2023年4月からは当時の作品のセレクション版「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー アゲイン」もテレビ東京系で毎週日曜朝9時15分から好評放送中ということで、改めて「ビーストウォーズ」のおもしろさを探ってみたい。

■未知の惑星を舞台に、動物や恐竜、昆虫から“変形”するトランスフォーマーたちが戦う!

物語の時系列は、80年代に放送された「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」から数百年後。サイバトロン(オリジナル版ではオートボットだが、本稿では以降に登場するキャラクターや組織名も含めて日本語版に準拠する)とデストロンユニクロンによる戦争は終結し、トランスフォーマーたちの故郷セイバートロン星には平和が訪れていた。しかし、サイバトロンが極秘に保管していたトランスフォーマーたちのエネルギー源、エネルゴンの情報が記憶されたゴールデンディスクが、初代メガトロンの後継者を名乗るメガトロン(声:千葉繁)によって奪われてしまう。

少数の部下を連れて外宇宙へ逃亡したメガトロンを、探査任務中のサイバトロンの小部隊のリーダー、コンボイ(声:子安武人)が追撃し、トランスワープを経てたどり着いたある惑星軌道上での戦闘の結果、双方の宇宙船が惑星に墜落。その未知の惑星はエネルゴンの影響が大きく、宇宙船の外では約3分間しかロボットモードを維持できない。そこで、サイバトロンゴリラやサイ、チーターといった動物、デストロンは化石から情報を得たティラノサウルスプテラノドンなどの恐竜、サソリ、クモ、ハチら昆虫をスキャンして環境に適応することに。かくして、強大なエネルゴンを巡る、サイバトロンデストロンによる壮絶な戦いの火蓋が切って落とされることになった。

■実力派声優たちによってコミカルにキャラ付けされたビースト戦士たち

当時としてはまだ珍しかった3DCGによる映像や有機的な生物から“変形”するトランスフォーマーたちの斬新さはもちろん、古代遺跡エイリアンの存在など惑星にまつわる謎めいた展開もおもしろさの要因に。そのうえで、日本語版ではストーリーに大きな影響を及ぼさない範囲で作風のアレンジが施された。オリジナル版はハードな内容かつ設定も複雑だったため、メインの視聴者である子どもたちにより親しみを持ってもらうため、キャラクター同士の軽快なかけ合いや決めゼリフ、口ぐせといった要素が盛り込まれることに。これらは日本語版の監督を務めた、「ガールズ&パンツァー」シリーズや『ニンジャバットマン』(18)などの音響監督で知られる岩浪美和による演出の下、子安武人や千葉繫、山口勝平(ラットル役)、高木渉(チータス役)、藤原啓治(ダイノボット役)ら実力派声優たちによるアドリブも用いられ、随所にボケやツッコミ、ギャグ、第4の壁を破って視聴者へ呼びかけるメタネタが散りばめられていった。

例えば、新たな“破壊大帝”を自負するメガトロンは、痰を吐いたり、任務に失敗した部下をコミカルにお仕置きしたり、デストロン戦艦の内蔵コンピューター(声:柚木涼香。当初は永椎あゆみ名義で出演)を「ナビ子ちゃんっ!!」とハイテンションで呼んだりするなど、オヤジ感が強調されたキャラクターに。ほかにもサイバトロンからは、口ぐせが「~じゃん」のノリの軽い若者風で、ビームライフルを撃つ際には「撃つべし!」を連呼するチータスや、オリジナル版がベテラン戦士だったのに対し、自身を「オイラ」と呼ぶお調子者キャラになったラットルデストロンでは、「オラオラ」と粋がる不良っぽいスコルポス(声:遠藤雅)や、「ミ(Me)~」「~ザンス」といった特徴的な話し方をするキザなテラザウラー(声:飛田展男)、攻撃を受けた際にお決まりのように「やられた~」とフェードアウトしていくワスピーター(声:加藤賢崇)などなど、登場キャラクターそれぞれに個性的で魅力あふれる人格が付け加えられていった。

■ファンの間で語り継がれる!ラットルとエアラザーのテロップ芸

また、第1話超生命体トランスフォーマー登場!!」でデストロンとの最初の戦闘を終え、ライノックス(声:中村大樹)の上にコンボイラットルが乗って基地へ帰る途中、「サイの背中にゴリラを乗せて~。ゴリラの背中にネズミを乗せて~。サイがコケたらみんなコケたぁ~♪」とラットルが歌うようなとぼけたギャグシーンも満載。同じくラットルが途中参加のサイバトロン戦士でハヤブサから変形するエアラザー(声:岩永哲哉)に乗って偵察任務に赴くシーンでの、「オイラたちが真っ先に消されちまうんだね…」と愚痴をこぼすラットルにエアラザーが「人生もっと前向きに考えられないの?」と返し、「“人”が“生きる”と書いて“人生”なの。オイラ“ネズミ”だから“ネズミ生”」と屁理屈を言うシーンも有名。この時、ラットルのセリフがテロップとして表示されており、エアラザーが「バラエティじゃないんだからテロップ出すなよ」とツッコむなど、ファンの間でも名(?)シーンとして語り継がれている。

■最終回がまさかのモノマネ大会!?な「ビーストウォーズメタルス

このようなギャグ要素は、続編の「ビーストウォーズメタルス 超生命体トランスフォーマー」、「超生命体トランスフォーマー ビーストウォーズリターンズ」へと進むにつれてパワーアップ。そのなかでも特に、「メタルス」における最終話ファイナルリミックス・バナナをわすれた!」はインパクト大のエピソードの一つだ。

正式な最終話はこの前話「ハッピー?これでいいのだ」なのだが、おまけエピソードとして日本語版のみで放送。第14話「リミックス・バナナはどこ? 」と同じく、各話の本編映像を再編集したもので、前話でメガトロンの野望を打ち砕き、セイバートロン星への帰路につくサイバトロン戦士たちだったのだが、コンボイがバナナを忘れた(!?)ために惑星へ引き返すという本筋とは関係のないストーリーが展開されていく。前半&後半パートに分けられ、前半では契約の書に記された「真の勇者が伝説のバナナの種を手に入れるであろう」という記述に則り、サイバトロンデストロンがバナナの種の争奪戦を繰り広げる。そして後半では、種は2つあったことが発覚したため、契約書の「限りなく真実に近い模倣したもの、二つ目の種を手に入れるであろう」という記述を「つまり!モノマネの上手い奴が勝ちだ!」と解釈したメガトロンの提案によって、まさかのモノマネ大会が開始されてしまう!

ピカチュウ銭形警部などオーソドックスなネタに続いて、チータスが「名探偵コナン」の小嶋元太や「GTO」の鬼塚英吉、ラットル工藤新一モノマネしようとすると、これらは演じる高木と山口の持ち役のため、反則としてお仕置きの対象に。さらに、クイックストライク(声:飛田展男)の刑事コロンボインフェルノ(声:三木眞一郎)による「料理の鉄人」のキッチンレポーターなどは、お子様にはわからないということでこちらもお仕置き。ライノックスのジャムおじさん、デプスチャージ(声:梁田清之)のジャイアンもクオリティは高かったものの、おそらく他局作品ということでお仕置きされている。また、前半と後半の合間には、番組放送前に流れた5秒の告知CMをプレイバックする特集も。「このあとは、『開運!なんでも…』!」(チータス)や「俺、ビースト辞めてモーニング娘。に入るわ。え?ダメ?」(ダイノボット)、「今日のビーストはおいしいラーメン屋とくしゅう!しちょうりつはいただき!」(メガトロン)といった具合でボケまくっており、短い時間のなかで貪欲に笑いを取りに来る姿勢はさすが!と感服せずにいられない。

■ノリが深夜ラジオの「ビーストウォーズリターンズ

「メタルス」に続く「リターンズ」はそれまでの地上波放送からモバイル放送のモバHO!に変わったことで、アドリブが暴走。オープニング&エンディングテーマの代わりに声優陣によるフリートークが行われたほか、本編では下ネタが次から次へと飛びだすなど、深夜ラジオのノリのようなフリーダムな空間になっている。また、DVD最終巻の特典には「メタルス」に続いて恒例の(?)モノマネ大会が収録されているほか、声優陣たちがそれぞれの恥ずかしいエピソードを明かしていく「はずばな~」という企画も。トイレにまつわる失敗談などが赤裸々に語られており、本シリーズが“声優無法地帯”と呼ばれる要因にも大きな役割を担うこととなった。

■『ビースト覚醒』に「ビーストウォーズ」のキャストも参戦!

いよいよ公開が迫る『トランスフォーマービースト覚醒』の日本語吹替版には、子安や高木、柚木、飛田ら「ビーストウォーズ」からの声優陣も参加。さらに、演出として岩浪も携わっているという。さすがにテレビアニメ版のようなアドリブはできないかと思うが、シリーズファンにとって胸アツな本作と共に、放送中の「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー アゲイン」など過去作も楽しみたい。

文/平尾嘉浩

声優たちのアドリブがヤバい!?「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」のおもしろさを再確認/[c]TOMY