東京都中野区にある車両基地で、原則8年に一度の全般検査中の車両を見ます。車両は車体と台車に分割され、工場入場からおおむね20日間で検査を終えて出場します

夏休みが始まって、鉄道会社のイベントも今がピーク。その一つ、東京メトロ東京大学生産技術研究所(生研)がコラボした「鉄道ワークショップ2023」が2023年7月26日に開かれました。中高生を対象に、半日はメトロ車両基地の見学、もう半日は東大キャンパスでのワークショップ(グループ学習)で、鉄道の仕組みを学びます。

2013年から続く人気企画で、今回のテーマは「車輪のしくみを科学しよう」。クルマと違いハンドルのない鉄道車両が、なぜスムーズにカーブを切れるのかを実験で考えました。

本コラムは丸ノ内線銀座線の車両が所属する中野車両基地(東京都中野区)のレポートに続き、現代中学生の鉄道趣味事情、さらに講座のポイントと盛りだくさんの中身で、〝鉄分100%〟をお届けします。

「日本最初の地下鉄は何色?」

ワークショップに参加したのは、中高生各25人。約4倍の応募者から抽選で選ばれました。中学生は午前中が車両基地見学、午後がワークショップ、高校生は逆順です。中学生コースに同行しました。

オリエンテーションは、「東京メトロクイズ」で肩慣らし。問題は3問です。

Q1 日本で最初の地下鉄銀座線。車両は何色だった? ①赤、②黄色、③緑
Q2 東京メトロ車両、全部で大体何両? ①約1900両、②約2100両、③約2700
Q3 メトロ各線で駅間距離が最も長いのはどこ次のうちどれ ①北千住―南千住間、②北綾瀬―北千住間、③西葛西―南砂町間

※回答は本稿の最後に記載いたします。

丸ノ内線の02系、引退も近い!?

中野車両基地は中野工場と中野検車区、中野車両管理所の総称で、銀座線1000系丸ノ内線の02系、2000系合わせて約560両のメンテナンスを受け持ちます。

メトロ社員のレクチャーで、参加者から予期せぬ歓声が湧き上がったのが、「丸ノ内線2000系の増備が進み、02系はやがて置き換えられる」のパート。「02系のラストイベントは開かれるのかな」と興味津々でした。いつの時代も、ファンの興味は車両ですね。

人の力が機能する鉄道工場

第3軌条式の丸ノ内線パンタグラフ代わりの集電靴。赤い舌のようなパーツの下側で電気を受けます

クチャーを終えると工場へ。鉄道会社でもメーカーでも、鉄道工場にはベルトコンベアーによる流れ作業はほぼありません。人の力で一点ずつ部品を取り付け、電動機(モーター)や台車を組み立てる。鉄道好きの中学生にも、ものづくりの原点のような光景は、カルチャーショックだったようです。

車輪を一軸ずつ点検。東京メトロは機械化や効率化に取り組みますが、工場での作業を見る限り完全に機械に置き換えるのは難しそうな気もします

工場の階上フロアから車両基地全景を遠望して、「あっ500系だ」の歓声が上がります。1957~1996年営団地下鉄帝都高速度交通営団)時代、丸ノ内線の主力車両として活躍した500形は、今も3両が中野車両基地で動態保存されます。

見学を終えた後は記念撮影。バスで目黒区の東大駒場キャンパスに移動します

「クラスの鉄道好き1人だけ」

午後のワークショップに移る前に、会場で見聞した現代中学生の鉄道趣味事情。

「僕『四季島』(JR東日本のTRAIN SUITE四季島)の写真持ってるよ」、「えっ、見せて」。てっきり友達同士と思って話を聞くと、学校は東京と埼玉で別々。今回のワークショップで初めて知り合ったそうです。

「クラスで鉄道好きは僕だけ。学校に行っても話が合う友だちはほとんどいないんです」。確かに、最近の中学生はカード、アニメと趣味も多様化しています。

「将来は東京の鉄道会社に就職したい!!」

鉄道の将来を託せそうな中学1年生もいました。福岡県から、イベントに参加するためにやってきたそう。工場でも熱心に作業を見学していました。

「将来は絶対、鉄道会社で働きたい。福岡にもJR九州や西鉄のようなすばらしい鉄道会社があるけれど、できれば東京の鉄道会社に……」。思わず、「がんばって!」とエールを送りたくなりました。

ずらり並んだ丸ノ内線車両をバックに全員で記念撮影。車両の多くは2000系ですが、02系もまだまだ健在です

鉄道、自動車の二刀流の東大生研

午後のワークショップが開かれた東大生研は、東大の付属研究機関。工学系の多彩な研究を手掛けます。

最近、本サイトでも研究成果を紹介させていただきました。2023年5月の「ソフトバンクグループが完全無人運転バスを公開」。東大で研究に参加したのは、今回のワークショップと同じ須田義大教授の研究室です。

鉄道と自動車、ジャンルは違っても、次世代のモビリティ(移動手段)を追求する姿勢は共通です。

円錐形の車輪は脱線しにくい

ワークショップのエッセンスも披露しましょう。実験で用意されたのは、①~④の4種類の車輪。本物の鉄道車両と違って、フランジ(つば)はありません。

ワークショップで使用された車輪の4形態(資料:東京大学生産技術研究所)

カーブ状の坂になった線路をころがして、最も脱線しにくいのは? 中学生の予想は、②か③が多数だったのですが……。

実は最も脱線しにくかったのは完全円すい形の①の車輪です。

「時には発想を変えて」(須田教授)

本物の鉄道車輪は、図のような円すい形。円すいは円を描くように丸く転がります。鉄道車輪は、左右それぞれが進行方向外側に丸く転がり、双方の力が打ち消しあって、まっすぐに進むのです。

直線区間で車輪がまっすぐに進む仕組み(資料:東京大学生産技術研究所)

カーブ区間、走行中の車輪は慣性で直進しようとしますが、レールが曲がっているので、車輪は外側にブレます。するとレールに接する面が外側にずれて、外側の車輪の方が半径が大きくなるので、車輪は自然にカーブを切るのです。

カーブ区間では外側の方が内側の車輪より車輪径が大きくなるため、自然にカーブを切れます(資料:東京大学生産技術研究所)

ワークショップでは、最後に日本の鉄道工学の第一人者・須田教授が特別講義。「鉄道は経験の積み重ねといわれるが、時に発想を変えることで、新しい発見や技術開発につながる場合もある」の言葉には、受講した中学生も深くうなずいていました。

記事:上里夏生

東京メトロクイズの答え

Q1 日本で最初の地下鉄銀座線。車両は何色だった? ①赤、②黄色、③緑

【答え】②黄色

Q2 東京メトロ車両、全部で大体何両?

【答え】③約2700

Q3 メトロ各線で駅間距離が最も長いのはどこ次のうちどれ ①北千住―南千住間、②北綾瀬―北千住間、③西葛西―南砂町間

【答え】③西葛西―南砂町間