白熱した議論が続いた「最低賃金の引き上げ」。物価高の影響により生活苦を訴える低所得者を救うためにも、継続的な賃上げが望まれますが、それでも低所得者の未来は希望に溢れているとは言えないようです。みていきましょう。

世界的にみると低すぎる「日本の最低賃金」

物価上昇を背景に、最低賃金の引き上げについて議論され、今年度の最低賃金について全国平均の時給で過去最大の41円の引き上げるとする目安をとりまとめました。最低賃金は、企業が労働者に最低限支払わなければならない賃金として地域ごとに決められていますが、現在、全国平均は時給961円。それが全国平均で時給1002円となり、初めて1,000円を超えました。

最低賃金の議論では「格差是正」がセットで語られます。フルタイムの従業員と、最低賃金がひとつの基準となるパートタイマーなどの非正規従業員との給与差。これこそが格差拡大を助長しているという指摘がされています。

OECDによる世界主要国の最低賃金水準についてみていくと、調査対象31ヵ国中、フルタイム従業員と最低賃金との格差が最も少ないのは「コロンビア」で、フルタイム従業員の給与水準を100としたとき、法定最低賃金は92.31。以下、「コスタリカ」「チリ」「トルコ」「ニュージーランド」と続きます。

【世界主要国「最低賃金水準」トップ10】

1位「コロンビア」92.31

2位「コスタリカ」81.52

3位「チリ」71.96

4位「トルコ 」70.61

5位「ニュージーランド」67.61

6位「ポルトガル」66.29

7位「韓国」61.36

8位「フランス」60.97

9位「スロベニア」60.41

10位「イギリス」56.93

出所:OECD 資料:GLOBAL NOTE

「日本」は全体26位。世界主要国の中でも格差の大きな国といえるでしょう。世界の基準でみると、確かに、最低賃金の引き上げは必要かもしれません。

20~60歳まで「最低賃金」で働き続けたら…

最低賃金水準で働くパートタイマーなどの非正規社員。昨今の物価高により、その生活はますます厳しいものになっています。ネット上で自身をスーパー貧乏の非正規と例える40代の男性。やはり、昨今の物価高には頭を悩ませているといいます。

――腹が減るのは慣れた

――我慢できなければ、公園で水をがぶ飲みすればいい。水さえ飲んでいれば死なねぇよ

そんなつぶやきを繰り返しますが、最近の炎天下にはまいっているよう。昼間は仕事で留守にしているからいいけれど、夜は暑くて、冷房なしでも自宅にいられないといいます。しかし冷房代がもったいない……そこで、何かを買うわけでもなく冷房の効いたコンビニをはしごして、涼をとっているのだとか。

仮に男性が最低賃金で働いているとしたら。時給961円。一般的な会社員と同様、月に167時間*働いたとしたら、月収は16万円ほど。手取りでは12.5万円程度です。学卒以来、夢を追って非正規社員で働いているものの、正社員に登用されることなく現在に至るという男性。「夢を追えるだけ幸せ」と強がっていいますが、昨今の物価高の影響は、そうも言っていられないほどの厳しさだとか。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』より

仮に現在45歳、このような生活を20歳から始め60歳まで続けるとしましょう。仕事を始めた20歳、1998年最低賃金は全国平均649円。年間2,000時間働いたとして、月収は10.8万円、年収は130万円ほど。25年で給与は1.5倍になった計算です。このままの上昇率で60歳まで働いたとしたら、最終的には月収は20万円に迫ることになります。

しかし問題は老後の生活。公園の水で空腹をごまかすほどですから貯蓄があるとは考えにくく、今後も資産形成を進められるとは思えません。また国民年金の保険料をきちんと払っているとしても、65歳から受け取れるのは、現状、月6.6万円ほど。2023年10月から、短時間労働者として働く従業員の厚生年金保険への加入義務が拡大されたので、15年ほど厚生年金に加入したとしましょう。65歳から手にする厚生年金は月1.7万円、国民年金と合わせて8.3万円ほどになる計算です。

もちろん、だいぶ前から厚生年金に加入しているかもしれませんし、いままでもこれからも国民年金だけかもしれません。さらに年金保険料を滞納していて国民年金すら受給できない……そんなこともあるかもしれません。どちらにせよ、十分な年金を手にする未来は考えにくく、生きていくために「一生働き続けることが確定」という、なんとも絶望的な未来しか描くことができないのです。

このようなワーキング・プアを根絶し格差是正を図ろうとする最低賃金の引き上げ。ただ企業、特に中小企業としては、難色を示すところ。

今後、深刻化する人手不足の問題からも、最低賃金を引き上げるのは自然な流れ。ただ体力のある大企業であれば賃金増分を吸収できるでしょうが、中小企業としては経営を圧迫する死活問題。しかもこの物価高。価格転嫁が進まないなか、最低賃金の引き上げとなると途端に経営破綻……そんな中小企業が増えると、専門家は警鐘を鳴らします。

ただ上げればいいという、単純なものではない最低賃金。あらゆる問題が改善の方向へと進めることができるか、という点でも目が離せません。

(写真はイメージです/PIXTA)