『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス23巻を熱く語る
キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス23巻を熱く語る

夢の超人タッグトーナメントもこの巻でいよいよ完結へ。"地球大逆転"や"アポロンウィンドウ"といった人知を超える仕掛けが続出し、クライマックスを彩ります!

●『キン肉マン』23巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●グレートの他に素性を隠した男がもうひとり!?

いきなりマスク・ジ・エンドという超大技から始まる23巻、読者にとって最大の関心事のひとつでもあるキン肉マンの素顔が、ついに晒されるのか否か!?......という作品の根幹を揺るがしかねない事態にのっけから緊張感はMAXです。そしてその流れのままついにはがされてしまったマスク。「素顔を他人に晒せば即自害」という掟(おきて)のなかで生きているキン肉マンの素顔のシルエットが大きく描かれたシーンの緊迫感は圧巻です。

しかしその最大の危機は、意外な形で決着を見ます。なぜならそこにあった素顔はなんと、パートナーであるテリーマンのもの。実はこの大技を受ける直前、リングの下でマシンガンズのふたりは予備工作を施し、テリーマンキン肉マンの予備マスクをかぶってあえて技の餌食になりにいくという対策を打っていたのです。

思い起こせば、かつての超人オリンピック決勝戦、ウォーズマンにマスクをはがされそうになったキン肉マンは、何枚もマスクを重ね着してきて素顔を守る「金太郎アメ作戦」でピンチを凌ぎました。どちらかというとギャグ寄りのほっこりした演出です。ですが、今回の身代わり作戦は本格的なサスペンス劇に使われても遜色のない演出で、緊迫感バリバリ継続のまま試合は続行していきます。ここはギャグ漫画から王道のストーリー漫画へと変質を遂げていった本作の歴史を感じられる、貴重な一場面でもあると僕は思います。

そして、この一幕をきっかけに物語は新たなフェイズへ突入します。これまで常に冷静沈着であったネプチューンマンが、マスク狩り失敗に大きく取り乱す予想外の反応を示し、さらに驚くべきはその直後。これまで物言わぬ兵隊としてネプチューンマンの忠実な部下を演じ続けていたビッグ・ザ・武道(ブドー)が「えーいみぐるしいぞ!!」とネプチューンマンを抱えて投げ飛ばす暴挙に出ます! そして明かされる彼の正体、なんとビッグ・ザ・武道というのは仮の姿で、まさに彼こそが完璧(パーフェクト)超人界の真の黒幕、既に死んだと思われていたネプチューン・キングその人だったのです。

この仕掛けには、さすがに度肝を抜かれた人も多かったのではないでしょうか。前シリーズ黄金のマスク編では、敵のボスである悪魔将軍の正体が、実は正義超人が探し続けた金マスクだったという大どんでん返しが用意されていましたが、その衝撃に負けないほどのビッグインパクト。そもそもこの決勝戦、素性を隠したグレートの正体がついに暴かれてしまうのか、というところから始まったわけですが、実は敵方にも同様に素性を隠した人物が紛れ込んでいたのもまた抜群に面白い対比であり、ゆでたまご先生は今回もシリーズラストに向けてものすごい爆弾を仕込まれていたのだなと。これで本当の意味で役者は出揃い、物語は真の決着に向け一気に加速していきます。

●なぜ、ネプチューンマンの言葉は光り輝くのか

こうして初めてマスク狩り予告を未遂に終えて失敗した、と思われた完璧超人組ですが不思議なことに、失敗などしていないと彼らは言い張るのです。果たしてどういうことなのか。答えは「時間を予告前に戻せば失敗したことにはならない」。これがもしクイズならこんな正解、誰ひとりたどり着くことはできません。しかしゆでたまご先生、いや、その意思を体現するヘル・ミッショネルズはやってのけます。地球の自転を力技で逆回転させ、太陽の位置を戻すというその名も「地球大逆転」。あまりにも豪快!

この肉世界においては、耐性がついて並大抵のことで驚かなくなっていた僕ですら、これにはぶちのめされました。見逃せないのはこの大技の最中の演出、リング上のキン肉マンたちから見た観客席はこの大異変に地獄絵図と化しているのに、実際に観客席にいる人たちは何も異変を感じていないというSFにも似た構図です。地球の自転を逆転させるという発想の突き抜け方もさることながら、こういう常識を超えた演出をその上に塗り重ねることで、本来なら無理筋に思えるゆでたまご先生の常識破りの発想は不思議な納得感を得たようにも思えます。要は嘘をただの嘘で終わらせない。嘘をつくなら読み手の心揺さぶる驚きのもうひと演出を必ずそこに付け加え、読者を意地でも感心させる。いわゆる"ゆで理論"が次々と生み出されてきた最大の秘訣は、この無限に広がっていく発想力の波状攻勢にあるのではないか、と僕はいつも本気で感心させられてしまうのです。

そして、そんな常識外の技をどんどん繰り出すラスボスネプチューン・キングという存在のスゴみもまた、僕はここであらためて声高に叫びたいところです。なぜなら『キン肉マン』史上、こんな狡猾で醜さを背負ったボスは他に類を見ないからです。序盤はネプチューンマンを表に立たせて、自分は陰から指示を出す。人気超人のマスクを集めていた目的も、自分たちがそのマスクを勝手にかぶって子供たちのヒーローの記憶を悪で上書きするのだというおぞましさ。挙句の果てには、他の完璧超人には禁じていた凶器攻撃にすら自ら手を染め、ヘイトの限りを集めて最後まで改心せず死んでいく。それゆえに人気は薄いのかもしれませんが、僕としては彼のような存在もまた作品全体を通してみれば、外せない大きなスパイスとなっていると思わずにはいられません。

そんな物語の最終盤、完璧超人の胸に浮かび上がった鍵穴状のアザは何ぞやというミステリーパートと、肉体をぶつけ合う激しい格闘パートが同時並行で進んでいくわけですが、その末にテリーマンが発した「それじゃ謎解きといこうか...」から始まる"アポロンウィンドウ=地球の鍵穴=これこそが完璧超人のパワー源だ"という徹底解説。単純な肉体同士の闘いだけで試合が決着していくのではなく、会話パートでもうひとつのまったく別の闘いが同じリング上で進行していくこの流れもまた『キン肉マン』ならではのよくばりセット。試合展開の特徴だと思います。

 こうして二人組のタッグを物理的に引き寄せあうことのできる完璧超人マグネット・パワーは完全攻略され、かたやどんな苦境に立たされても心情的に二人組のタッグを引き寄せあう正義超人友情パワー完全勝利。この壮大な闘いは決着を見ました。メタ的な意味でもその対比のなんと美しいこと。それがゆえにシリーズ最後のネプチューンマンの名言は最高に光を放つのです。

「この世に完璧なものがひとつだけある......それは正義超人の友情さ!」

キン肉マン』とはなんぞやというすべての答えが詰まった、まさに至言です。

キン肉マン4コマ

●こんな見どころにも注目!

この巻の中ほどで発表されている「人気必殺技BEST15」というコーナー。読者にとってのお楽しみということで、あえて過去の名場面の再掲載ではなく新規描きおろしの技イラストもあってとても豪華なのですが、気になったのは第8位。描きおろしのキン肉ドライバーを食らう相手がなぜか、対戦経験などないはずのスペシャルマン!? 他の技は全て実際の名場面からの抜粋なのになぜここだけ!? このシリーズにおける彼の境遇の悪さが本当に気の毒でなりません......

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! ミステリ小説『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『
爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』(宝島社)も好評発売中

漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご集英社

おぎぬまXのキン肉マン4コマ

『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス23巻を熱く語る