マコネル院内総務、会見中21秒間の無言
米上院共和党トップ、ミッチ・マコネル院内総務(81)が7月26日、議会で記者会見中、一点を見つめたまま21秒間無言で、放心状態となった。
同氏は、3月上旬にワシントンのホテルでの夕食会で転倒し、脳震盪のため一時入院していた。最近は言葉がつかえることも多く、健康状態を不安視する声が出ていた矢先のハプニングだった。
(Who Will Succeed Mitch McConnell? 3 Likely Candidates for Minority Leader)
これまで、ことあるごとにジョー・バイデン大統領の高齢問題を取り上げてきた共和党も同じ問題を抱えることになったわけだ。
2007年から15年間にわたって院内総務を務めるマコネル氏は、押しも押されもせぬ共和党の最高指導者である。
2022年の中間選挙では、民主党に多数派維持を許した責任をドナルド・トランプ前大統領が批判(通説ではトランプ氏が強引に推した候補者が次々と落選したことが要因とされている)、院内総務候補に対抗馬を立てて再選を阻もうとした。
しかし、マコネル氏は党体制派の支持を得て辛うじて院内総務のポストを死守した経緯がある。質実穏健、ブレの少ない政治家ということが功を奏した。
とはいえ、党内にはトランプ氏に近いリンゼー・グラム(サウスカロライナ州選出)、テッド・クルーズ(テキサス州選出)両上院議員ら反主流派が、隙あればマコネル失脚を狙っているのも事実だ。
今回の放心騒ぎは、まさにこうした動きに火に油を注ぐことになりそうだ。
上院の最年長は89歳
米議会はまさに当選回数がものをいうシニオリティ・システム(Seniority system)。
当然、高齢者が上下両院の主要ポストに就く。一度なると、死亡、あるいは落選でもしない限り事実上の終身役職を全うする。
上院の高齢者はマコネル氏のほか、以下の議員がいる。
チャック・グラスリー(89=共和、アイオワ州選出)
ダイアン・ファインスタイン(89=民主、カリフォルニア州選出)
バーニー・サンダース(89=民主党系無党派、バーモント州選出)
ファインスタイン氏は、顔面神経マヒで長期治療を続けてきたが、かつて委員長だった司法委員会のランキング・メンバーの座を死守している。
4か月余の欠席ののち5月には登院したが、審議の表決では間違えたり、記者の質問にトンチンカンな返事をしたり・・・。
それでも任期中の辞任については完全否定している。地元選挙区での後継問題が辞任しない主因のようである。
参考:辞めるに辞められぬ米国の女傑・ファインスタイン上院議員の去就 カリフォルニア民主党は後継者争いでお家騒動 | JBpress
もっとも上院には健康上の問題が生じても辞任しない「伝統」のようなものがある。
2000年代、上院を牛耳っていた保守派重鎮、ストロム・サーモンド議員(100=共和、サウスカロライナ州選出)や2010年まで上院議員だったロバート・バード議員(92=民主、ウェストバージニア州選出)は現職のまま逝去した。健康上の障害については最後の最後まで否定していた。
政治家はたとえ健康状態が悪くなっても公表しない。これは古今東西同じだ。
ロナルド・レーガン第40代大統領が、アルツハイマー型認知症に罹っていたことを明らかにしたのは大統領任期を終えてから6年後だった。
その後、家族の一人は「父は大統領第2期に入った時にはすでにアルツハイマー型認知症に罹っていた」と語っていた。
米国に根付く「反年齢差別主義」の伝統
もう一つ、米政界に脈々と継承されているのは「年齢差別主義」(Ageist)の完全否定だ。
これは米社会の通念を反映した鉄則のようなものだ。ワシントン政界通の一人、J氏はこう指摘する。
「言ってみれば、人種差別、男女差別と同じような差別否定だ。シニオリティ・システムを尊重する一方で、年齢によって役職に就けなかったり、役職を外されることはまずない」
「その意味で上下両院議員や大統領が高齢だからと言って所属政党が公式に辞任を求めることはできない」
「世論調査では、バイデン氏の高齢問題について憂慮している有権者が68%に上ると言っても、それはあくまで世論調査に過ぎない」
(How Much Do Voters Really Care About Biden’s Age? - The New York Times)
バイデン氏より1つ年上だが、今なお健在なサンダース議員は、こう述べている。
「有権者は政治家の年齢だけを見て投票するのではなく、その政治家の全体像で判断してほしい」
「確かに、投票する上では年齢も一つの判断材料だが、経験もファクターだ。最も重要なことは、その政治家が有権者のためにどう働いてくれているか、だ」
「年齢は数ある判断材料の一つに過ぎない。年齢でああこう言うのは『年齢差別主義社会』だ」
前出の上院最高齢のグラスリー氏はマコネル氏の放心を弁護してこう主張する。
「(放心状態になった後に)マコネル氏に会ったが、ぴんぴんしていたよ。私は間もなく90歳になるが、この通り問題はない。年齢なんてただの数字だよ」
確かに年齢だけで政治家の政策立案力、政治判断力を推し量ることには問題がある。まして肉体的、精神的状態を判断するのは無理だ。人によって大きく異なるからだ。
前出のJ氏はこう付け加える。
「80歳どころか、2022年の予備選開始前に脳卒中で倒れた50代のジョン・フェッターマン(53=民主、ペンシルベニア州選出)やマーク・カーク(52=共和、イリノイ州選出)各上院議員のケースもある」
「70になっても80になっても国民のために働きたいという健康な高齢者はたくさんいる。年齢で線引きするのはデモクラシーとは言い難い」
自民党の73歳定年で政治は良くなったか
筆者が日本の新聞社の政治部記者として永田町を取材していた時、当時の小泉純一郎首相が2000年以降、衆院比例代表候補に定年制を導入したことがあった。
衆院の中選挙区制が廃止され、2000年総選挙には桜内義雄、原健三郎各氏、2003年には中曾根康弘、宮澤喜一各氏が立候補者リストから外された。
線引き年齢は73歳だった。
長寿国家になった日本にしてはこの年齢は「若過ぎる」年齢だし、みな政治活動を続けられる総理大臣や衆院議長を歴任した重鎮だった。
筆者は、当時、中曽根氏や桜内氏がこの決定に憤慨していたのを今も覚えている。
「政治は老壮青の協同作業によって動かすべきだ。年齢だけで線引きし、年齢差別することがいかに愚かしいことか、知るべきだ」(中曽根氏)
その後、長寿化が進み、73歳などはまだ『はなたれ小僧』になった現在、この定年制導入で自民党が若返り、優秀な人材が次々と出てきたかどうか。
日本は、サンダース氏の主張する「年齢差別主義国家」になってしまったのではないだろうか。
高齢政治家の進退について、世代交代を主張する若手議員たちはどう考えているのか。
共和党大統領候補のニッキー・ヘイリー元国連大使は、75歳以上の大統領候補はメンタル適応力テスト(Mental competency test)を受けることを義務付けるよう提案している。
かつてファインスタイン氏の補佐官を務めたアレックス・パディラ上院議員(民主、カリフォルニア州選出)などは、「ひとえに個々人が決めるもの」と慎重だ。
政治家同士、第三者の進退についてどう見るかは極めてデリケートな問題である。さらに対象となる高齢議員と自分自身との個人的な関係にも関わってくるだけに微妙だ。
(McConnell lapse, Biden stumble highlight advanced age of US leaders )
高齢問題は、今後のバイデン氏の動向と絡み合いながら大統領選だけでなく、上下両院選で争点として浮かび上がってくるのは必至だ。
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