竜星涼が主演を務める舞台『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』が9月10日(日)~24日(日)に東京・世田谷パブリックシアターにて上演される。今年GP帯連ドラ初主演も経験、現在は日曜劇場『VIVANT』(TBS系)に出演中と、俳優としてますます存在感を増している竜星。舞台での主演は久々となるが、座長としての意気込みや、3月で30代に突入した彼の考える、俳優としての現在地と展望について聞いた。

【撮りおろし10枚】レモンを手にチャーミングな笑顔の竜星涼

■引っ張るというより、皆と同じ目線で作る座長

──2022年冬クールの『スタンドUPスタート』(フジテレビ系)では初のGP帯の連ドラ主演を務められました。放送を終えての手応えはどのように感じましたか?

まずは無事にすべてのオンエアを終えることができて本当によかったです。課題を挙げるなら……もう少し時間に余裕が欲しかったということでしょうか。もちろん監督やスタッフさん、キャストさんの皆さんと、やり切ることはできましたけど、もう少し時間に余裕があればみんなでご飯に行ったりもできたでしょうし。物理的に撮影に追われてしまったという現実もあって。そこに臨機応変に対応していかないといけないというのが課題ですね。

──主演、座長としての手応えで言うと?

いや、もうあの作品に関しては先輩方をはじめ、素晴らしい共演者の方々に担いでもらったという感覚が強いですね。そこに関しては本当に感謝です。もちろん課題も見えましたが、本当にいい思い出になりました。

──9月から上演されるCOCOON PRODUCTION 2023『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』でも主演となりますが、主演に抜擢されることが増えてきた現状を、ご自身ではどう捉えていますか?

素直にうれしいです。そこに行けるのは当たり前ではないというのももちろんわかっていますし、身が引き締まる思いです。でもいざ真ん中に立っていつも思うのは、「もっと主演らしく振る舞えたほうがいいのかな」ということ。つまりそれは引っ張っていくということなんですけど。どうしても先輩たちに甘えちゃうんですよね。たぶん自分自身が引っ張っていくタイプではないというか、ついていくのが好き。それでいて目立とうとするタイプ。ややこしいですよね(笑)。でも僕はそのスタイルが好きなんだと思います。一人で先頭を切って引っ張っていくような圧倒的な座長ももちろんすごいと思いますが、みんなと同じ目線、同じ感覚で作っていく座長が僕には向いているのかなって。「みんな支えてください」「ちょっと俺のこと持ち上げてくんないすかね?」みたいな(笑)。そうやってなんとかみんなで面白い作品を作っていくのが好きです。まさに『スタンドUPスタート』はそうでした。

──今回の『ガラパコスパコス』も先輩が多い現場です。

はい、本当に素晴らしい先輩方ばかり。だから胸を借りるつもりで、その中で自分は自分のできることを精一杯できればと思っています。

■今作は「新しい自分を見せるチャンス」

──改めて『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』について聞かせてください。まずは脚本を読んで、どういった印象を受けましたか?

特に面白さを感じたのは、オムニバス的に話が進むところ。いろいろな登場人物が、主軸に触れながらも、それぞれの想いを持って成長していく。そこがすごく面白いなと思いました。僕自身そもそもそういう作品が好きなんですよね。どの役もちゃんと物語の中で主役であり、主軸の物語に絡むだけじゃなくてちゃんとその人たちの姿も描かれるというのが。だからこの脚本を読んで「すごく信頼できる脚本だな」と思いました。

──過去に何度も上演されている作品ですが、そこに対するプレッシャーや「過去作と比べて今回はこうしよう」といった気持ちはありますか?

そこに関しては、正直あまりありません。ノゾエさん(作・演出を手掛けるノゾエ征爾)と一緒に取材を受けて思ったのが、今回はノゾエさんにとっても挑戦だということ。ノゾエさんご自身が、今回は新しいものを作りたいと思っていらっしゃる。たぶん、新しいものに飢えているんでしょうね(笑)。だから僕自身も、どうなるかわからないですが、ノゾエさんの挑戦に乗ってみたい。同時に、僕はこの作品に出るのが初めてなので楽しみたいですし、観ている人には何かしらを持って帰ってもらえたらなと思っています。

──竜星さんが演じるのはピエロとして働く青年・太郎。太郎を演じることに対して楽しみなのはどのようなことですか?

ノゾエさんが、今までは太郎をイメージしやすい俳優でやっていたけど、今回はまったくイメージできない真逆のような僕でやってみたかったとおっしゃっていて。その摩擦みたいなものを楽しみにしていると。それは僕も同じで、最近で言ったら割とちゃらんぽらんな役やひょうきんな役が多かったと思うのですが、今回はそうじゃない役でオファーをいただけたので、新しい自分を見せるチャンスでもある。まず、その点で太郎に惹かれました。太郎には社会で生きていく上で欠落している部分があると感じたのですが、まっちゃん(高橋惠子演じる老女)と一緒にいるときだけは普通の青年でいられる。そういう部分には素直に共感もできたので、ここから太郎という人物を広げていければいいなと思っています。

──キャスト発表時、「非常に怖い。でもなんだろう、、とてもワクワクする!」とコメントをされていましたが、「怖い」部分と「ワクワクする」部分はどのようなところですか?

まだ今回の演出は決まってはいませんが、とはいえ、この作品は舞台の上に俳優と黒板・チョークのみといっても過言ではないような作品。自分たちのイマジネーションと、観ているお客さんのコミュニケーションで成り立つものだと思うので、そういう意味で、自分が今までやっていないことという怖さを感じます。舞台作品って、いつも何かしらの挑戦をさせられるんですよね。結果的に、それが気付きや成長につながりますし、自分の中でのターニングポイントにもなることもあるので、怖くてもやっちゃうんですけどね。

──そこに対してワクワクする?

そうですね。どうなるのか全くわからないという意味ですごくワクワクします。タイトル通り「俺も成長するのかしないのか」みたいな(笑)。

■ターニングポイントになった劇団☆新感線への出演

──竜星さんは舞台にも、映画やドラマなどの映像作品にも出演されていますが、舞台ならではの面白さはどういったところに感じていますか?

稽古も含めて、同じ役を長い期間演じられること。舞台って、映像でいうところのリハーサルみたいなことを、いろいろな俳優さんとずっとやっていくじゃないですか。しかも、本番が始まっても公演しながらどんどん変わっていく。それによって自分の中でも正解がどんどん変わっていくわけで。ある意味、自分自身を鏡とした戦いというか、自問自答の日々。そこまで役を掘り下げられる機会というのは、時間的にも物理的にも、舞台以外はあまりないんじゃないかなと思いますし、そこまで深めた役を見せられるのが、役者としていいことだなと思います。

──ご自身がこれまでで一番“進化”を感じた、ターニングポイントを挙げるならどこですか?

確実に劇団☆新感線の『修羅天魔〜髑髏城の七人season極』(2018年)。あれは本当に……すっごい辛かったんですよ。上演時間も長いし、体力的に息もできないし。すべてが挑戦でしたね。でも、だからこそ自分にとってターニングポイントにしなきゃいけないと思わせてもらった作品でもありました。わからないなりに必死に、ただただ自分のできる限りのことをして後悔のないようにしようと思って挑みましたし、それによっていろいろな自信もつけることができました。だから、そういう匂いのするものは「ビビるけどやらなきゃいけない」と思います。

──今作にもそういう気持ちを感じている?

そういう匂いがするからやるんです。だから嫌なんですけど(笑)。舞台に立つには、自分と向き合わなきゃいけない。それが楽しくないということではないですけど、それだけ集中して身を削らないといけないから。

──それでも竜星さんは舞台に立ってお芝居をしています。お芝居をする喜びや面白さはどのようなところに感じていますか?

それはもう、観てくれた人の「良い」の一言です。それに尽きます。別に「良い」じゃなくてもいいです。「感動した」でも「最悪だった」でもいい。とにかく観てくれた人の喜怒哀楽の感情が出るということ。その手助けじゃないですけど、その一つのきっかけになれたら、「やっててよかったんだ」と思えますね。まぁ、結局どこかで褒められたいんですよね。どの仕事でもそうだと思いますけど、頑張ったからには褒めてもらいたいし、逆に頑張りが足りなかったら叱ってほしい。そういうことなんだと思います。

■自分じゃなくてもいい役を、自分にしたいと思わせられるように

──竜星さんは今年3月に30代に突入されました。俳優としてのご自身の現在地はどう感じていらっしゃいますか?

もっともっと自分から踏み出していかないといけないなと思っています。自分じゃなくてもいい役を、自分にしたいと思わせられるように。そのためにも、自分に対して期待を込めてくれる人をもっと増やしていかないとなと思っています。それこそ最近で言うと、3枚目の役の印象が強くなっているところがあります。僕自身がそっち寄りの人間なのでやっていて気疲れしないし、楽しくて好きですが、そればっかりでは成長していかない。だからそうじゃない役でも「意外とハマってたな」とか「こういう感じも好きだな」と思ってもらってオファーしてもらえたらいいなと思っています。

──30代になってギアや方向性が変わったような感覚はありますか?

役の幅に変化は出てくる年齢なのかなとは思いますけど……熱量はまだまだ落ち着いていないです。むしろこれからの10年が一番、体力的にも精神的にも動ける10年なのかなと思うので、この収まることのない熱量を大事にしていきたいですね。あとは自分がワクワクするものに対しては、受け身ではなくどんどん自分から仕掛けていきたいと思っています。それが失敗に終わったとしても、動いたということが大事だと思うので。そういう姿を見て、みんなが「なんか面白いことやってるな」とか「あの人の周りで面白いこと起こりそうだよね」と思ってもらえたらいいなって。日本にとどまらず、いろんなジャンルの人、いろんな国の人とセッションしてみたいという気持ちもあります。

──海外進出も?

はい。僕は、大和魂みたいな気持ちも持っているタイプなんですよ。心のどこかで「日本代表として」とか「日本人だし」みたいな気持ちもあるから余計に、いろいろなことをやってみたいんだと思います。……まぁ、ただただみんなでワクワクしたいんですよ、きっと。そのためにも「この人に飛び込んだら、なんか起こりそうじゃない?」と思わせられるような人になっていきたいです。

■取材・文/小林千絵

撮影/友野雄

ヘアメイク/井手賢司(UM)

スタイリスト/山本隆司(style3)

舞台『ガラパコスパコス』主演の竜星涼/撮影=友野雄