真夏の祭典でメインを張った朝倉。日本中の格闘技ファンが注目した一戦だったが、彼はケラモフに屈した。(C)RIZIN FF

 わずか2分41秒。激闘が期待された勝負はあっけなく決した。7月30日さいたまスーパーアリーナで行われた格闘技イベント「超RIZIN.2」で実現したRIZINフェザー級王者決定戦で、朝倉未来トライフォース赤坂)はヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)にリアネイキッドチョークタップアウト。文字通りの惨敗を喫した。

 何よりも勝者となったケラモフは大いに称えるべきである。彼は「打撃戦より、グランドでいったほうがいいんじゃないか」と陣営からの助言を忠実に実行したのだ。

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 序盤から巧みさが際立った。絶妙な間合いで朝倉ににじり寄る“コーカサスの雷”は、反攻の打撃を許さずにペースを握らせない。そして、1分40秒が過ぎたところで右足をつかみシングルレッグタックルを仕掛ける。これで一気に流れを手繰り寄せた。

 一度は朝倉に踏ん張られたケラモフだが、いたって冷静だった。右のパンチを叩きこみながら、ロープに押し込んで、テイクダウンを成功。そしてマウントポジションから側頭部へフックのような一打を打ち込みつつ、パワフルな右ヒジを何発も顔面に叩きつけ、ダメージを与えていった。

 そして、「あのチャンスを逃したらダメ。やりきる自信はあった」というケラモフは一気に勝負をかけた。何とか窮地を脱したい朝倉が身体を反転させてロープ際で膝を立てると、アゼルバイジャンの雄は、右足だけをロックした横向き態勢から、クビに太い腕を巻きつけてチョークで締めにいったのだ。

 首元に深く腕が入った朝倉の顔はどんどんと変色。最終的に「どうあがいても落ちるしか道はなかったのでタップした」と右手でタップ。今年4月の堀江圭功戦以来となるRIZIN参戦を果たしたケラモフは、見事な快勝を収めた。

「ウォォォーー!」

 快哉を叫んだケラモフの声が、いやに会場で響いた。朝倉の惨敗を目の当たりにしたファンが一様に口をつぐみ、2万4264人が詰めかけたさいたまスーパーアリーナが異質な静寂に包まれていたからだった。誰もが茫然自失といった様子で明暗が分かれたリングを見つめていた。

 試合直後に朝倉は「とくに何もない。言葉がない…強かったですね」と漏らした。発言の真意を問われても、「反省するような内容ではなかった。何もしていないんで。今までの負けとはワケが違う。なんか(説明は)難しい」とポツリ。目深に帽子をかぶり、どこか打ちひしがれているようにも見えた。

 団体屈指の人気選手の惨敗。この現実は多くの関係者たちをも驚かせた。そのなかで榊原信行CEOは「格闘技の本当に真の魅力は圧倒的な現実を目の前に突きつけられること。予定調和で終わらないこと。そのリアリティ」とし、こう言葉を紡いだ。

「未来は多くを多く語らなかったという風に聞いていますが、これは求められる者の宿命で、みんなの切なくて悲しくてやるせなくてっていう思いは応援したその選手が処理することでしか勝利をする姿を見ることでしか埋まらない」

 もっとも、差は明確だった。日本人選手との対峙では際立つフィジカルとパワーも、相手が外国人選手となると同等か、あるいは下回る。21年6月にクレベル・コイケの三角締めに失神して敗れた際もそうであったように、苦手とする寝技に持ち込まれると“弱点”がより浮き彫りとなるのだ。

 どうもパワーで分が悪い外国人選手に対する内弁慶。これをいかに克服するかは常々「UFCに行きたいんですよね。今の夢ですね」と目標を掲げる朝倉にとって重大な課題と言えよう。フィジカルトレーニングを重ねているとはいえ、31歳となって現役キャリアもそう長くはなく、進化の時間は限られている。彼にとっては間違いない苦境だ。

 だからこそ、ストリートから成り上がってきた男が、どう変貌していくかは大いに興味深いところだ。試合から一夜明けた31日、朝倉は自身のYouTubeチャンネルを更新した朝倉は、一部で進退を案じたファンに向け、メッセージを残している。

「今は今後のこととかそういうことを考えている余裕がない。正直。やるならトップを目指さないといけないなかで今回のボロ負けというのは格闘技に対するモチベーション的にはすぐ試合をしたいという気持じゃないんだよね。途中で夢破れたじゃないけど、自分にガッカリしている。その辺のちっぽけな人間に感じるというか。いったん自分にガッカリして何も考えられない状態なので、1回整理してからだね」

「格闘技は俺の人生に大きくかかわりすぎてて、『じゃあ辞めます』って言って辞められるかっていったら辞められないと思うし。裏方に回ることとかも考えつつ、今後のことはいろいろ考えてしっかり答えを出したいなと思います。多分やり返しに行きますよ。軽々しく言えないけど、ここで終わるわけにいかないでしょ。気持ちはそっち側にだいぶ傾いているんで」

 アンチを含めた数多の人々をひきつけ、幻想を抱かせてきた。いまでは格闘技に興味のない人にもその名が知られるようにまでなっている。RIZINだけでなく日本格闘技界の寵児ともなった31歳が、真価の問われる局面でどうなるか。「路上の伝説」がこのまま沈むのは惜しい。

[取材/文:羽澄凜太郎]

わずか2分41秒の惨敗 再び外国人選手に露呈した朝倉未来の課題 まだ沈むには惜しい「路上の伝説」の行く末