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自身の敬愛する音楽カルチャーの紹介を軸にしたYouTubeチャンネル「みのミュージック」での動画配信と並行して、ロックバンド・ミノタウロスでも活動するクリエイター、みのがさまざまなアーティストのライブの現場を訪問する連載「みのミュージックの素直にライブ評」。この企画では、洋楽邦楽を問わず幅広い音楽ジャンルに精通した音楽マニアであるみのが、直接現場に足を運び、感じたことを素直にレポートする。

【動画】のん × みのミュージック対談の様子

みのは連載第4回にあたる今回、のん7月9日に行ったワンマンライブ「PURSUE TOUR - 最強なんだ!!! -」の東京・Zepp Haneda(TOKYO)公演を観覧。俳優として国民的な人気を誇るのんのステージに、みのが感じたのは、彼女のパンク精神だった。

取材・文・撮影 / 田中和宏 ライブ写真撮影 / 南賢太郎(FOCUS STUDIO)

ステージに立つのんを見て「パンクだな!」

のんさんがミュージシャンとして活動なさっているのは随分前から把握してるんですけど、生で観たのは初めてでした。タレント性の高い方が音楽をやると、どうしても受け手からすると“素”とは違った“虚構”的な部分がチラつくことがあると思うんですよ。そういった部分をのんさんも理解してるから、これまで“創作あーちすと”と名乗っていたんだろうなと思います。

のんさんはライブでギターをたくさん弾いてましたけど、隣にいるギタリストのひぐちけいさんに喰らい付いていってる感じがして、カッコよかった。ステージにいるのんさんは「パンクだな!」って印象です。いい意味で開き直っている部分も感じて、楽しいライブ体験になりました。まずバンドの演奏がめちゃくちゃうまい。ギターアンプもベースアンプスピーカーが小口径だと思うんですよね。バスドラムも一般的なものより小さめで、音のレスポンスがいい。“軽量だけどすごくスピードの出るスポーツカー”みたいな編成で、キャッチーなパンクロックを届けてくれる感じが、のんさんに合ってるなって。

あとはストラトテレキャスター、シンラインといろんなギターを使っていたのも印象的で。音もすごくよくて、メタ的な視点ですけど、裏方のテックの方もとっても優秀な方なんだろうなと思いました。ギターに関しては特にひぐちけいさんのプレイがすごくて、ギターソロの音でぶっ飛びましたよ。ひさしぶりにあんないい音をライブハウスで聴きました。

音楽的ルーツがふんだんに詰まったステージ

フロアには音楽ファンというよりは「のんさんのことが好き」という方がたくさんいたと思います。つまり「のんさんがライブをやるからライブハウスに来た」という方々ですね。きっとのんさんはそういう人たちがいることを理解しつつも、自分の好きな音楽を届けていましたよね。攻めたサウンドのオープニングSEもそうだし、RCサクセション矢野顕子さん、サディスティック・ミカ・バンドとかをカバーするのもそう。自分を媒体にして、そういった古き良き音楽を伝えていこうとする姿勢を感じました。特にサディスティック・ミカ・バンドは日本における女性ロックボーカルの元祖みたいな存在なわけで、そういったアーティストのカバーを入れること自体、明確に自分の立ち位置を表明しているステージだなって。

素晴らしい演奏が展開される一方、のんさんのライブならではとも言える“面白ポイント”だと思ったのは、「むしゃくしゃ」という曲の途中で演奏が止まり、のんさんが倒れて小芝居をするというシーンですね。元気なく膝を落とすのんさんが、「みんなが『がんばれ!』って言ってくれたらがんばれる」と発言したあのくだり。あれはジェームス・ブラウンマントショーの現代版なんじゃないでしょうか? ジェームス・ブラウンマント演出は彼が熱唱して、燃え尽きて倒れて、みんなが「大丈夫か!」と呼びかける場面があり、マントをかけると立ち上がるという一連の流れで構成されています。深読みしすぎかもしれないけど、のんさんが俳優であるということを考えると、歌唱以外の演技的な演出を取り入れることでショーとしての幅を広げているのは素晴らしいと思いました。

基本的にパンクロック中心とはいえ、バラエティに富んだライブですよね。RCサクセション「I LIKE YOU」のカバーなんて忌野清志郎さんへのリスペクトがすごく伝わりました。特に細かい歌のニュアンスとかで“つかみにいってる”というか。キリンジの「エイリアンズ」もよかったですけど、あの曲はメロディが複雑で難しいと思うんですよ。「エイリアンズ」のカバーはのんさんの音楽キャリアの初期から歌ってきた大切な曲だと思うので、最新アルバム「PURSUE」で音源化されたのはファンもうれしいだろうし、意義のあるものだったんでしょうね。きっと2016年にのん名義でデビューしてからの成長過程も長年のファンからしたらうれしいでしょうし、ライブでもそんな温かい雰囲気を感じました。

バンド活動をしてくれて音楽ファンとしてうれしい

ひぐちけいさんのお姉さん・ヒグチアイさんが提供した楽曲「荒野に立つ」のパフォーマンスはライブにおけるハイライトの1つでした。この曲はのんさんの20代を総括するような内容で、のんさんがヒグチアイさんに自身の思いを打ち明けたうえで完成したということで、「自分の分身みたいな曲ができた」と話してましたよね。ひぐちけいさんのお姉さんということもあるし、信頼しているアーティストだからこそ、いろいろと赤裸々な話ができたんだろうなと思いました。

それとのんさんがひぐちけいさんとギターでハモる場面があって。ソロの直前にファンの1人がかなり大きな声で声援を送ったとき、一瞬のんさんが止まったんですよ(笑)。そのあとひぐちけいさんのほうを向いてギターを弾き続けるっていうのが、ライブらしい臨場感があってよかったですね。のんさんとしても今から難しいフレーズを弾くぞ、というところでひと呼吸がほしいんだなということが、あのファンの声かけによって鮮明に見えた瞬間でした。

MCではもうすぐライブが終わることを伝えたあと、お決まりの「えー」という反応が返ってきてましたけど、「しょうがないじゃん。私が決めてもいいでしょう」と言い切るあの感じ、かわいさがありつつも、自分の意思を曲げない強さを持った、芯の通った人なんだろうなと思いました。国民的な知名度を誇る方が、こういったバンドスタイルで音楽をやってくれるのって、音楽が好きな自分からすると、本当にうれしいです。ステージでの泥臭いパフォーマンス、素晴らしかったです。

のん