自衛隊に馴染みがない人でも「海上自衛隊は毎週金曜日がカレーの日」というのは聞いたことがないだろうか。では、陸自や空自はどうなのか、元自衛官の筆者が明らかにする。


■噂は真実、しかし一部でデマも…

自衛隊福岡地方協力本部

海上自衛隊が金曜日にカレーを食べるというのは本当だ。ただし、旧海軍時代以来、金曜日にカレーを出すことで曜日感覚が分からなくなるのを防いでいるというのはデマである。

これは海上自衛隊が出来てから、しかも近年始まった習慣で、ある海上自衛隊OBによると、そのOBのいた1980年代前半には金曜日のカレー文化が無かったそうだ。他の地方でもそのような話は聞いたことがないとのことで、正確な時期は不明だが、その後出来た文化なのは確かだろう。

しかしながら、海軍がカレーを好むのは、戦前の旧軍時代からの伝統である。明治41年(1908年)に発行された、「海軍割烹術参考書」という大日本帝国海軍の資料の中で確認されている。イギリス海軍より伝来した食文化という説が有力である。曜日感覚回復のためというのは近年の文化であるが、長い演習では何曜日か分からなくなるというのは元自衛官の筆者もよく理解しているので、とても理に適っていると感じる。


関連記事:自衛隊員が自動小銃を所持したまま行方不明に なぜこのようなことが起きたのか

■護衛艦対抗のカレー競技会

海自のカレーは海自のお家芸であり、受け継がれてきた伝統だ。カレー愛が強すぎて、一部ではどの護衛艦のカレーが一番美味しいか競う取り組みもあるほど。

例えば、海自佐世保地方隊が行っている、「GC1グランプリ」だ。GCとは「護衛艦カレー」の略である。お堅い自衛隊のイメージとかけ離れた、ユニークな企画だ。

艦艇毎に味付けやクオリティが異なるため競い甲斐があり、ここでグランプリを獲得したカレーは、レトルトカレーとして商品化、販売される。海自のカレーを再現したレトルトカレーは、海自基地や通販で購入可能なので気になる人は見てみてほしい。


■陸自や空自はどうなのか

自衛隊福岡地方協力本部

陸自や空自は船の中に長期間いる環境と全く異なり、陸自は駐屯地、空自は基地と呼ばれる陸上拠点にいるが、じつは金曜日のカレー文化は概ね共通だ。筆者のいた複数の駐屯地では、どこも毎週金曜日の昼食はほとんどカレーであった。

なぜ海自以外の自衛隊にも共通する文化なのだろうか。それは、陸海空自衛隊の横の繋がりの賜物である。陸海空と、組織は違えど同じ自衛隊ということで、有名な文化は陸海空自衛隊の共通認識である。対して旧陸海軍は仲が悪かったが故、ガダルカナルの戦いの連携不足などの数々の問題を引き起こしてきた。

戦後創設された自衛隊ではそういった反省を活かし、陸海空自衛隊で統合演習や人材交流など、横の連携をしっかり取っている。防衛大学校という同じ学び舎で、陸海空幹部自衛官の卵を育成していることなどから分かる。

彼らは卒業後、陸海空それぞれの幹部候補生学校に進み別々の道を歩むが、部屋や部活、学科などの友人関係は卒業後も変わらず、連携を取ることを容易としている。


■自衛隊のユニークな名物料理

今回はカレーに焦点を当てたが、自衛隊には他にも沢山の名物料理がある。例えば、空自の「空揚げ(からあげ)」は空自のほとんどの基地で頻繁に出されていて、空自隊員の日々の楽しみの一つである。

また、陸自にも沢山の名物料理があり、各駐屯地毎に定番メニューが異なる。前述のGC1グランプリのようなコンテストが存在するなど、名物料理には競争も存在している。筆者がいた陸自中部方面隊には「中方ダイニング甲子園」というコンテストがあり、中部方面隊の各駐屯地でレシピを共有し、どこの名物料理が一番美味しいかを隊員にアンケートを取り、決めていた。

「腹が減っては戦が出来ぬ」というように、軍事と食事は切っても切り離せない。自衛隊のご飯はとても美味しいので、自衛官と街で会うと自衛隊ご飯の話をしてみてほしい。盛り上がること間違いない。


■執筆者紹介

安丸仁史(やすまるひとし):1994年福岡生まれ、福岡育ち。防衛大学校(人文・社会科学専攻)中退後、西南学院大学文学部外国語学科卒業。 2017年陸上自衛隊に幹部候補生として入隊。

職種は普通科で、小銃小隊長や迫撃砲小隊長、通訳などを務める。元レンジャー教官。 現在は複数事業を経営。

・合わせて読みたい→自衛隊では常識の「防弾チョッキ」の“鉄板抜き” 元レンジャー教官が内情を告白

(取材・文/Sirabee 編集部・安丸仁史

海上自衛隊が金曜日にカレーを食べるのは本当、では陸自と空自は? 元自衛官が語る自衛隊メシ事情