裕福な家庭の自宅が全焼するという炎上事件から物語が始まるホームサスペンスドラマ『御手洗家、炎上する』が、7月13日の世界配信スタートから、世界各国・地域で大ヒット炎上中だ。静かに復讐(ふくしゅう)の炎を燃やし、家政婦として御手洗家に潜入する主人公・村田杏子を演じるのは、昨年「第48回 放送文化基金賞」で演技賞を受賞した俳優の永野芽郁。本作をはじめ、様々な作品を芝居で彩る永野に「転機となった作品は?」と聞いたところ、返ってきたのは「どの作品も、今の私につながっている」という答えだった。

【写真】美しい透明感! 永野芽郁の撮り下ろしカット(全10枚)

■杏子の人生がこれから少しでも明るくなればいいな

――原作を読んだときの感想を教えてください。

永野:漫画を読むのにすごく時間がかかってしまうタイプなのですが、この作品は面白過ぎてあっという間に読み切ったんです。読み終えたあとは、「これはNetflixだからこそできる規模感、スピード感のあるドラマになるのでは」と期待値が高まり、撮影する日が来るのが待ち遠しかったですね。

――実際に撮影をされてみていかがでしたか?

永野:復讐ホームサスペンスということもあって、色々な要素が散りばめられているんです。だから、演じている私たちも計算が必要だったんですよね。感情だけでお芝居をすると、辻褄(つじつま)が合わなくなる瞬間がありました。なので、とにかく監督やプロデューサーの方との会話を重ねて撮影を進めたんです。今までにない頭の使い方をした気がします。

――そんな本作で永野さんは、もともとは御手洗家の令嬢ながらも火事の一件で両親が離婚し、母方に引き取られ育った村田杏子を演じます。杏子にはどのような印象をお持ちですか?

永野:カッコいいですよね。彼女は火事の真相を探るべく家政婦として御手洗家に潜入しますが、それは、火事の原因とされている母の身の潔白を証明するため。何が待ち受けているか分からない状況でも、自分のためではなく、母のために立ち向かっていく強さにほれぼれしました。

――杏子は父・治の再婚相手である真希子が火事の真相を知っていると疑っています。そんな相手に対しても笑顔で接している姿を見たとき、杏子は器用で演技力にも長けているなと思いました。

永野:見方によっては、(杏子は)ちょっと怖い人ですよね。ただ、彼女にとっての復讐はいわゆる「誰かがこの世からいなくなって欲しい」というものではないんです。母の身を潔白して、真犯人に謝って欲しいというだけ。その1つの願いのために危険を顧みず御手洗家に潜入したり、何か行動を起こしたりするんです。並大抵の人じゃできないことだと思いますね。

――一方で、妹の柚子や友人のクレアと接するときは、柔らかい表情を浮かべます。あのときは、人間らしさを感じるというか…。

永野:そうですね。家政婦として御手洗家に潜入するときは、どこか人間味を消したいという思いがあったんです。そういう姿と家族やクレアなどの前で見せる姿とのギャップをどこまで振り切るのかは、監督とも相談しました。さじ加減が難しかったですが、両面を演じたからこそ、彼女の芯の強さやある種の大きな愛情などに気づくこともできて。演じていくなかで、彼女の魅力をさらに発見し、次第に「杏子の人生がこれから少しでも明るくなればいいな」と思うようにもなりました。

■あんなお父さん、私はやだ(笑)

――本作のキーパーソンである真希子を演じる鈴木京香さんには、どのような印象を持たれましたか?

永野:ふだんはとても穏やかな方なのですが、カメラが回った瞬間、目の光の入り方が一気に変わるんです。こんな一瞬で真希子になれるのかと驚きました。目が合うと吸い込まれちゃいそうで、杏子としても私としても恐怖を感じながら、真希子と対峙していましたね。

――改めて、真希子への印象を教えてください。

永野:彼女は一番欲求に真っすぐな人だと感じていて。私はこの作品のなかで“悪人”は出てこないと思っているんです。考えていることが理解できないということはあれども、その人はその人なりに誰かを守ろうとしていたり、自分の地位を確立するために行動していたりするんです。そういう意味では、みんなそれぞれの欲求に真っすぐ生きている人たちが集まったドラマだと感じました。その先頭を走っているのが真希子。京香さんが真希子として暴れれば暴れるほど、このドラマが濃くなっていくという印象がありました。

――個人的には、及川光博さん演じる治に「もうちょっと頑張れよ…」と思う部分もありました。

永野:ね(笑)! お父さん、結構“クセあり”ですよね。離婚した経緯なども踏まえると確かに娘たちに会いづらかったんでしょうけど、でも13年も会ってくれないなんて!

――彼もある意味、自分の欲求に真っすぐ生きている人間かもしれませんね。

永野:自分を守る術を知っている人ですよね。でも、それを子どもに向けなくてもよくないですか!? あんなお父さん、私はやだ(笑)。

――素直な感想、ありがとうございます(笑)。現場はどんな雰囲気でしたか?

永野:共演者の方と「次のシーンはこれだよね」「お昼ご飯何を食べた?」などの会話をするなど、穏やかな雰囲気でした。ただ、今回は1つのセリフもト書きもこぼしてはいけないと思って臨んでいたので、監督とディスカッションして、杏子について考える時間の方が多かったんです。これだけ台本と過ごした作品もなかなか無い気がします。

――インタビューの冒頭では「今までにない頭の使い方をした」ともお話されていましたね。

永野:もちろん、どんな役でも頭は使うし、台本も読み込みます。ただ、この現場はすごく緻密に色々なことが進んでいたので、何か間違えていないか、取りこぼしていないか特に気にする瞬間が多かったですね。

永野芽郁の13年前は?

――本作は13年前の火事の真相を探る物語ですが、永野さんは13年前、どんな日常を過ごしていましたか?

永野:13年前…10歳ですね。もう仕事はしていました。確か、ちょうど今の時期くらいに京都で映画を撮っていて。

――なるほど…。もうプロとして活動されていたんですね。

永野:まさか10年後もこの仕事をしているとは、当時は想像もしていませんでした。10年経つと、気持ちが変わることもあるんだなと実感しています。

――そんな子役時代から本作に至るまで、永野さんは色々な作品を芝居で彩ってきました。そのなかでも、自身にとって転機となったと感じている作品はありますか?

永野:最近だと『マイ・ブロークン・マリコ』という映画で、今までとは違う感情の出し方をする役を演じたんです。この役を私が引き受けていいのかという不安をはじめ、自分なりに色々なことを抱えながら挑んだ作品だったので、今までにない経験を積めたと感じています。ただ、私はどの作品も、次の作品につながっていくものだと思っているんですよね。何をやっても「これがまたひとつの転機になるんだろうな」「いい経験になったな」と思うことが多くて。だから、どの作品も、今の自分につながっていると感じています。

(取材・文:M.TOKU 写真:上野留加)

 Netflixシリーズ『御手洗家、炎上する』は、Netflixにて独占配信中。

永野芽郁  クランクイン! 写真:上野留加