ドイツ・ブンデスリーガのボルシアMG、そして新生森保ジャパンのDFの要として、多くのサッカーファンから注目されている板倉滉。ただ、そこで慢心することなく、自ら立ち上げた社会貢献活動プロジェクト、〝Ko creation project〟を昨年、本格的にスタート。子供たちの未来への支援、日本食文化の伝播など、熱き思いを独占告白!
■小児科病棟で見た景色とは
もともと社会貢献への関心は強かった。純粋に困っている人たちを助けたい、喜ばせたい、ただその一念で。
例えば、海外のスター選手が難病と闘う子供とゴールパフォーマンスを約束して、きっちり果たしたみたいな話は素直にカッコいいと思う。
僕の所属するボルシアMGのチームメイトには、経済的に恵まれていない環境で育ち、サッカー選手として大成した後、家族のみならず故郷全体をサポートしている選手もいる。そうした姿を見ると、本当にすてきだなと。
僕自身も小学生時代、プロの選手に良くしてもらった経験があって、今でも覚えている。当時のサッカースクールに、ある日、鬼木(達)さん(現・川崎フロンターレ監督)が遊びに来てくれた。
パスを一本出してもらっただけで、めちゃくちゃうれしかった。どんなに小さな交流でも、僕の中では貴重な思い出になっている。
だから、プロデビュー後から、自然災害の被災地支援やファンの方々と交流するイベントなど、積極的に参加していた。一方で自分は、そうした人が企画してくれた活動に便乗しているだけではないかと、モヤモヤすることもあった。
それなら、自分なりの方法で社会に貢献できるアクションを起こそう! そういう思いで〝Ko creation project〟(KCP)は始まった。
最初に行なった活動は、東京医科歯科大学病院の小児科病棟と京都府にある社会福祉施設「みんななかま」さんへの訪問。
2022年12月22日、カタールW杯を終えた直後のことだ。かつて、鬼木さんが自分にエネルギーを与えてくれたように、僕からも子供たちへ夢や希望を伝えたかった。
いざ小児科病棟を訪れて感じたのは、子供たちのパワー。包帯姿の子、複雑な装置に支えられて生活する子。みんななりたくて病気になったわけじゃないのに、日々闘っている。
そんな子たちがけなげに「W杯見てたよ」とか、「これからも頑張ってください」と声をかけてくれる。
子供たちを励ますつもりが、気がつけば逆に励まされていた。そこでは、人の触れ合いによって生まれたエネルギーが確かに感じられた。この経験で、僕はもっとたくさんの子供たちに会ってみたくなった。
次に行なったのは100人以上の子供を対象にしたサッカー教室だ。今年の6、7月のオフシーズンに地元・横浜と宮城県で開催した。
子供100人との試合もしてみたけど、いくら子供とはいえ、あの人数は手ごわい。どこにいっても子供だらけ。崩せない、プレスがすごい。結果、横浜では負けてしまった。
宮城では大人げなく、攻略法を本気で練って、サイドから攻撃を組み立てることに(笑)。子供たちがケガをしないよう、細心の注意を払いながら、今度は勝てた。
それはさておき、子供たちが一生懸命プレーする姿を見ていたら、昔の自分を思い出していた。横浜のサッカースクールで、ロナウジーニョに憧れて、スパイクもユニフォームもそろえ、〝絶対にサッカー選手になる〟と日々ボールを蹴っていたことを。
少しでも地元・横浜の子供たちの役に立てたのなら本望だ。
横浜に続いて宮城県を選んだのにも理由がある。やっぱり、ベガルタ仙台に対する思い入れが強いからだ。プロになって初めて、1シーズン通じて試合に出場させてもらえたのが仙台だった。
2018年のシーズンがなかったら、今の自分はいない。それだけ充実した日々を送ることができた。宮城、そして仙台には感謝してもしきれない。だから、少しでも恩返しができるよう、地元の横浜に続いて真っ先に宮城を選んだ。
あと、純粋に宮城に帰ってきたかったという気持ちもある。なんせ牛タンや海鮮など、食べ物がとにかくおいしいから。
■海外生活で感じた和食のありがたみ
KCPでは子供たちのための活動以外に、日本食文化の発信も目標に掲げている。全国津々浦々、47都道府県を訪れて、地元の食材を紹介できれば、なんて思っている。地元の人が作る郷土料理を食し発信するとか。
地元の農産物を使って、僕のYouTube内の「板倉クッキング」というコーナーで紹介するとか。そっちはうまく料理ができるかどうかがちょっと......だけど(笑)。
とにかく、全国各地の魅力を伝えたい。行った先々で子供向けのサッカー教室を開くのもおもしろそうだ。
僕の日本食への関心は海外生活によって強まった。現在、ドイツに住んでいて、つくづく感じるのは和食のありがたみ。僕が住むデュッセルドルフという街は、日本人街がある分、和の食材は割と豊富なほう。
それでも、日本に帰ってきたときは、和食のクオリティの高さにいつも驚かされる。だからこそ、魅力を積極的に取り上げたい。
僕は家族、友達、チームメイトをはじめ、常に誰かに助けられてきたと思っている。その分、僕も誰かを助けたい。
W杯に出場したおかげで、知ってくれている人は増えたはず。そんな今だからこそ、かつて僕がサッカーから受け取ってきた夢と希望を、KCPを通じて、今度は誰かに伝えていきたい。
●板倉滉(Ko ITAKURA)
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、19年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスターCへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲン、ドイツ2部シャルケへと移り、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍。昨年のカタールW杯ではベスト16入りの立役者となった。
構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸
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