本記事は、マネックス証券株式会社が2023年7月28日に公開したレポートを転載したものです。

本記事のポイント

・NYダウ記録的連騰の背景

・景気後退の懸念が薄らぎ株高の流れが強まっている

・日銀のYCC柔軟化が些細な材料に思える理由

NYダウ、記録的13連騰の背景

NYダウ平均の連騰記録は13でストップした。仮に14連騰となっていたら1897年以来、126年ぶりの記録だったという。ダウの構成銘柄数が現在の30銘柄になって以降、14連騰はない。13連騰だけでも、十分にすごい。1987年以来36年ぶりの記録だ。1987年といえば、その年の秋にブラックマンデーがあった年。僕が証券界にデビューした年である。

ダウ平均がここまで強い背景には米国経済のソフトランディング期待がある。一時は米国景気のリセッション入りは不可避、との見方が大勢を占めたが、現在では景気後退懸念はかなり下火になっている。

年後半の景気後退入りはなく、来年前半にあったとしても非常に「谷」の浅いマイルドなものになるだろうとの見方がコンセンサスではないか。その理由は労働市場の堅調さとインフレの伸び鈍化によるFRBの利上げ停止観測だ。

失業率は半世紀ぶりの低さにあり、雇用者数は堅調な伸びを続けている。それでも労働参加率はコロナ禍前の水準にまで戻っておらず、構造的な人手不足の状態が続いている。したがって賃金も上昇している。充分な職と賃金上昇があれば消費が落ち込むことはない。エネルギー価格の低下も家計に恩恵をもたらしている。

こうしたことから民間調査会社コンファレンスボードが発表した7月の消費者信頼感指数は117と、前の月から6.9ポイント上昇した。市場予想を上回り、2年ぶりの高い水準となっている。現状を示す指数のほか、先行きを示す期待指数も前の月から上昇した。

一方、物価上昇率は鈍化が鮮明だ。6月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比+3.0%と5月の4.0%から低下し、2021年3月以来約2年ぶりの小幅な伸びとなった。これを受けてFRBの利上げも7月で最後になるだろうとの見方が台頭している。

今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)は2会合ぶりの利上げを決めた。FOMC後の会見で、パウエル議長は今後の利上げについて「すべてデータ次第」と述べるにとどめた。無論、「利上げ打ち止め宣言」が出るなどとは誰も期待していない。年内にあと1回利上げがあっても、それもまた誰も驚かない。上述のとおり、米国景気は強いのだから。

しかし、インフレも沈静化してきたことから、いずれにせよFRBの利上げは最終局面にあるという認識である。

景気後退の懸念が薄らぎ、株高の流れが強まる

そもそも景気後退を招くと予想された理由の最たるものがFRBのハイペースの金融引き締めだった。最大の理由がもはや無くなろうとしているのだから景気後退そのものへの懸念も薄らいで当然だろう。

ダウ平均連騰の背景について、ここまでは米国のファンダメンタルズの面からみてきた。しかし、これだけの記録的な続伸には、もっと大きな意味が示唆されているように思う。

僕たちマネックス証券が、「日経平均3万円への道」というキャンペーンを開始したのは2017年10月27日日経平均が史上最長となる16連騰を演じた3日後のことであった。「3万円への道」完結編で、僕はこう述べている。

16連騰。そこにわれわれが見たものは大きな変化の予兆であった。株価は経済の先行きを映す鏡である。止まらぬ相場上昇を目の当たりにして、われわれは日本の経済と株式市場が大きな転換点を迎えているという確信を抱いた。これまでとは違う。日本は変わってきている。そう感じる点はいくつもあった。

株価は経済の先行きを映す鏡―株式相場が記録的な上昇を演じるとき、そこには経済や社会の大きな変化が反映される。僕はそう思う。

3年前、人類は新型コロナウイルスによるパンデミックに襲われた。実際に罹患した人々の苦しみや感染を防ぐための行動制限などさまざまな厳しい体験を経て、ようやくいま、世界はコロナを克服できたとしてよいだろう。残るコロナの後始末は、パンデミックによる供給制約が招いたインフレの抑制である。

しかし、それもようやく目途が立ち始めた。その証拠が欧米の利上げが最終フェーズに入ったことである。利上げが終われば、経済はまた次の成長サイクルに移行するだろう。そのタイミングでAIを中心とした新しいテクノロジーが隆興し、世界を激変させる予兆を感じさせている。

こうした大きな転換点で起きたNYダウの13連騰だ。実は欧州でも同様だ。欧州中央銀行(ECB)の利上げに打ち止め期待が台頭している。7月27日の金融政策の発表後にユーロ安と金利低下が進み、欧州の主要600社で構成する株価指数「ストックス600」は前日比1.3%高の471.74と2022年2月以来の水準に上昇した。

世界で株高の流れが強まってきている。

日銀のYCC柔軟化が些細な材料に思える理由

そうしたなかで日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール)柔軟化を受けて、日本時間では株も為替も乱高下が起きた。経済・社会の大きな転換期を反映して世界の株式市場が上向きになっているときに、日銀のYCC柔軟化などという材料はあまりにも小さい。どうでもいい、つまらない話だが、一応、見解を述べておく。

日銀はここで一気に1%まで長期金利の上昇を許容したのだから当分、政策の変更はないだろう。日本の長期金利が1%を超えてどんどん上昇するような状況にはないからだ。本格的に政策金利を動かすのは、来春の賃金上昇を確認してからになるはずだ。

日経平均は一時800円安まで急落したが、その後、急速に下げ渋り、結局131円安で引けた。メディアでは日銀ショックなどの言葉が躍るが、ショックでもなんでもない。日銀の政策変更に絡む投機とそれが引き起こした市場の混乱も半日で終了したと思われる。

広木 隆

マネックス証券株式会社

チーフ・ストラテジスト 執行役員

(※写真はイメージです/PIXTA)