2023年2月発表の「人口動態統計速報」では、1899年の統計開始以来、初の80万人割れを記録。こうしたなか、2022年4月より不妊治療が一部保険適用されました。しかし、多くの共働き夫婦は、妊娠・出産にともなって世帯年収の減少が避けられません。『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社現代新書)の著者でジャーナリストの小林美希氏が、日本の共働き夫婦が直面する深刻な問題について、事例を交えて紹介します。

共働きで年収900万円、それでも不安は大きい

不妊治療に対する経済的不安……「リーマン氷河期世代」の憂鬱

──北陸地方・吉川耕太(33歳)・電車運転士・年収450万円(世帯年収900万円)

地元の北陸地方の平均的な収入より僕の収入は多いかもしれませんが、不安は大きいです。特に最近では不妊治療を始めることで一層、不安になっています。いったい、いくらかかるんだろうって。

何度か転職し、この1年は電車の運転士の仕事をしていて年収は450万円です。地元の相場からすれば、地方公務員と比べても、もらえているほうではないかと思います。

基本給が20万円、そこに家族手当や運転士手当、通勤手当、残業代などがついてトータルで月30万円。手取りは25万円です。

1歳年上の妻の年収は400万円から450万円くらい。二人合わせた収入は900万円ほどになります。

問題は、妻の仕事は5年を期限とした事業ごとに契約されるようなものなので、5年ごとに失職の可能性があるということです。目の前の収入はあるように見えても、いつ仕事がなくなるか分からない。だから、できるだけ節約しないと。

妻の職場は僕たちが住んでいるアパートから少し離れていて、妻の実家の近くにあります。繁忙期には妻は実家から仕事に出て、週末にこちらに戻って一緒に過ごすという生活をしています。

「子どもは欲しいです。でも…」不妊治療に対する金銭的な不安

1年前に結婚して数ヵ月経った頃、妻と「早く子どもが欲しいね」と話をしました。それから、妊娠することを意識する生活を送ったのですが、1年経っても結果が出ませんでした。

それで、妻から精液検査を受けてみてほしいと言われ、受けてきたんです。僕の結果は大丈夫だったので、今度は、妻が検査してその結果を待っているところです。もし、子どもができない体質であれば、それはそれで仕方ないです。

もし子どもを望めると分かって、不妊治療を始めたら……。不妊治療が保険適用になったからといって、本当にお金がかからないなんて思えない。いったいいくらかかるんだろう。

不妊治療にいくらかかるか分からないことが、本当に不安です。

不妊治療は2022年4月から「一部保険適用」だが…

2022年の4月から保険適用されたといっても、この先、いくらお金が出ていくのか。体外受精などの「基本治療」はすべて保険適用といっても、「先進医療」もすべてとは限らないんですよ。年齢と回数にも制限があるし。

初めての治療開始の時点で女性が40歳未満なら1子ごとに通算6回まで、40歳以上43歳未満なら通算3回まで。そう言われても、どうなるかまったく分からない。治療が高額だと自己負担額も制限がかかるといっても、それって、いくらになるのか。

職場の先輩は体外受精をしないと子どもが授からないということで、保険適用の前ですが、子どもができるまで、うん百万円とられたって言うんです。先輩もコツコツ貯金するタイプだったからなんとかなったそうですが、話を聞いていると、なんだか絶望的になって、自分の顔が真っ青になっていったのを覚えています。

先輩のお子さんは2歳くらいになって、受精卵を凍結して保存しているから2人目を望むこともできるそうですが、奥さんは働いていなくて、経済的に第2子はキツイなぁ、と言ってました。お金がないから子どもをもてないなんて。おかしくないですか? 少子化なんだから、なんとかしてよー。子どもが欲しい人がここにいるのに。そう思いません?

小林 美希

ジャーナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)