「人生100年」といわれる時代、老後の資金はできるだけ潤沢に保ちたいものです。そのためには、「退職金」の受け取り方も、税金等の負担がより少なく、有利な方法を選ぶことが大切です。では、どのような受け取り方を選べばよいのでしょうか。FPの浦上登氏による著書『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)から、3つの方法を紹介します。
退職金は年金払いより一時払いにしたほうが、手取り額が大きくなる
退職金は第二の人生を踏み出すための大事な軍資金です。それだけに、いかに節税をして、手取り額を最大にするかが大きな課題です。
退職金は一時金で受け取った方が、手取り額が大きくなります。一時金型と年金型のそれぞれの特徴とメリットを比較してみましょう。
(1)一時金には退職所得控除という非課税枠の大きい控除が適用され、勤続年数が長いほど非課税枠が大きくなります。年金型には公的年金等控除という非課税枠がありますが、退職金をもらう時期は老齢厚生年金も同時にもらうので、公的年金等控除の枠を老齢厚生年金だけで使い切ってしまう可能性があるため要注意です。
(2)一時金でもらうと所得税と住民税しか引かれませんが、年金でもらうと税金だけでなく、国民健康保険や介護保険の対象になり、それらの社会保険料も引かれてしまうので手取りが少なくなります。
次の前提で退職金にかかる税金を計算してみます。
■前提条件
退職金:2,000万円、勤続年数:35年、年齢65歳
■一時金の場合の税金
課税対象金額:
2,000万円−(40万円×20年+70万円×15年)=150万円
150万円×1/2=75万円(課税対象金額)
所得税 75万円×5%=3.75万円
住民税 75万円×10%=7.5万円
税金計 11.25万円
* 一時金で受け取る場合の退職所得控除額の計算
勤続年数20年以下:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
勤続年数20年超 :40万円×20年+70万円×(勤続年数−20年)
上記によって求められた退職所得控除額を、一時金から差し引いた額の2分の1が課税対象
課税対象金額が75万円のときの所得税率は5%、住民税は一律10%にて計算
■年金払いの場合の税金
退職金の年金払いは10年均等払い
厚生年金給付額: 年200万円
課税対象額:
退職金年金払い 200万円
老齢厚生年金給付額 200万円
計 400万円
400万円×0.75−27.5万円=272.5万円(課税対象金額)⇒税額11.25万円
* 計算式は国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係―公的年金等の係る雑所得以外の所得金額が1,000万円以下、65歳以上」による
* 課税対象金額が272.5万円のときの所得税率は10%、所得控除額は9.75万円、住民税は一律10%として計算する
所得税:272.5万円×10%−9.75万円=17.5万円
住民税:272.5万円×10%=27.25万円
税金計44.75万円×10年間=447.5万円
年金型の場合は、老齢厚生年金と一緒になっているので単純には比べられませんが、一時金の場合の税額:11.25万円、年金型の場合の税額:447.5万円(退職金と公的年金を対象とした場合の税額)を比べると、社会保険料を考慮にいれなくとも、一時金が有利なのは一目瞭然です。
「企業型DC」あるいは「iDeCo」と退職金の節税効果を最大限発揮する方法
会社の企業年金制度に確定拠出年金がある場合、または、それと同じ仕組のiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している場合、企業型確定拠出年金またはiDeCoを一時金で受け取った後、4年超あけて退職一時金をもらうと、退職所得控除が2回使えて、節税効果がさらに高まります。
年金には確定給付型年金と確定拠出型年金があります。
確定給付型年金は、会社側が資金を運用して退職金を準備する制度です。
これに対し、確定拠出型年金は会社側が掛金は出しますが、運用は従業員自身が行う制度です。
iDeCoも個人型確定拠出年金という通り、個人が掛金を出し、運用も個人のリスクで行います。確定拠出型年金の一時金は60歳から75歳のまでの間に受け取ることができます。
受取時期を選べるので、企業の退職一時金を65歳でもらうとしたら、企業型確定拠出年金またはiDeCoを60歳でもらえば、両者の間に4年超の期間があくので、退職所得控除が2回使えることになるのです。
次の前提でどのくらいメリットがあるか試算をしてみましょう。
■前提条件
退職一時金:2,000万円
企業型確定拠出年金またはiDeCo:500万円
勤続年数:60歳時点で勤続30年、65歳時点で勤続35年
1. 65歳で一緒にもらう
課税対象金額:
(2,000万円+500万円)−(40万円×20年+70万円×15年)=650万円
650万円×1/2*=325万円(課税対象金額)
所得税 325万円×10%−9.75万円=22.75万円
住民税 325万円×10%=32.5万円
税金計 55.25万円
課税対象金額が325万円のときの所得税率は10%、所得控除額は9.75万円、住民税は一律10%にて計算
2. 60歳と65歳の2回に分けてもらう
2-1 60歳で企業型確定拠出年金またはiDeCoをもらう
課税対象金額:
500万円−(40万円×20年+70万円×10年)=0万円
0万円×1/2*=0万円(課税対象金額)
税金計 0万円
控除額が受取額を超えているので、税金はゼロ
2-2 65歳で退職一時金をもらう
課税対象金額:
2,000万円−(40万円×20年+70万円×15年)=150万円
150万円×1/2=75万円(課税対象金額)
所得税 75万円×5%=3.75万円
住民税 75万円×10%=7.5万円
税金計 11.25万円
課税対象金額が75万円のときの所得税率は5%、住民税は一律10%にて計算
65歳でまとめてもらうと、税金は55.25万円、60歳と65歳で分けてもらうと11.25万円となり、44万円の節税となります。
* 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)―計算方法・計算式」による
65歳になる前に定年退職すると、失業手当が基本手当日額最大の150日分もらえる
雇用保険では、雇用保険の被保険者が失業・離職した場合に給付金が支給されます。
定年退職の場合も給付金は支給されますが、64歳までにもらう場合と65歳になってからもらう場合では手当の種類と金額が違ってきます。
65歳未満で退職した場合は基本手当(失業手当)となりますが、65歳で退職した場合は高年齢求職者給付金となり、所定給付日数が異なるのです。
したがって、65歳退職の場合は、会社に退職日を65歳になる直前に設定してもらえば、給付金もかなり多くなります。
これは、退職に当たってのテクニックとしてご紹介したいと思います。
65歳未満で退職した場合、「基本手当(失業手当)」が支給される
基本手当=基本手当日額×所定給付日数
基本手当日額:離職した日の直前の6か月分の給与の合計(賞与は除く)を180で割った金額(賃金日額)のおよそ45%から80%
所定給付日数:65歳未満定年退職者は一般離職者扱い、被保険者期間20年以上とし、給付日数は150日
年収500万円(賞与除く)として賃金日額は13,888円、基本手当日額を6,249円とすると、
基本手当=6,249円×150日=937,350円
となります。
65歳以上で退職した場合、「高年齢求職者給付金」が支給される
高年齢求職者給付金=基本手当日額に相当する額×所定給付日数
基本手当日額:離職時年齢が29歳以下のものによって求められる
所定給付日数:被保険者期間が1年以上の場合は50日
年収500万円(賞与除く)として賃金日額は13,888円、基本手当日額を6,835円とすると、
となります。
つまり、64歳で退職した場合と65歳で退職した場合とでは、約60万円も雇用保険からの給付金が異なるのです。
では、どうしたら64歳で退職できるのでしょうか?
会社によって退職日が誕生日をベースにしているところと、3月31日などの期末にしているところがあります。
前者の場合は、65歳の誕生日の前々日を退職日にすればよいのです。ここで気を付けなくてはいけないことは、「法律上は誕生日の前日に1つ年を取る」ということです。
そのため、退職日は誕生日の前々日より以前にしないと64歳で退職することができません。
また、もうおわかりかと思いますが、退職日をずらしてもらうことによって、自己都合退職扱いにされて、退職金が下がったりするようなことがあると本末転倒なので、会社との調整はしっかり行ってください。
浦上 登
代表・CFP認定者(日本FP協会)・証券外務員第1種(日本証券業協会)
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