銀河一の落ちこぼれチームの活躍を描くシリーズ第3弾『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(23)。5月頭に劇場公開されると、ラストバトルにふさわしいエモーショナルな展開の連続に「見事なエンディングだ!」と観客を唸らせた。本日、8月2日からディズニープラスでの配信もスタートした本作のストーリーや映像と同様に、忘れてはならないのが劇中音楽のすばらしさ。監督、脚本を手掛けるジェームズ・ガンは、音楽アーティストとしても活動していたことがあるだけにこだわりがハンパなく、洋楽リスナーを中心に音楽ファンを熱狂させている。

【写真を見る】IMALU、OKAMOTO'Sのオカモトコウキ、宇野維正ら、音楽と映画愛にあふれるメンバーが集結!

前2作で重要な役目を担っていたのが、メインキャラクターのスター・ロードことピーター・クイル(クリス・プラット)が大切に聴き続ける、亡き母の形見でもあるカセットテープ。そこに収録されていたのは、おもに1970年代の欧米のヒット曲であり、ノスタルジックなサウンドが映画全編を彩っていた。当然ながらこのMIXテープを手にしたいと思ったファンは多かったに違いない。オリジナル・サウンドトラックも2作連続で大ヒットし、全米アルバムチャートで、それぞれ1位と4位を記録した。ちなみに、既存の楽曲のみで構成されたアルバムが、全米1位を獲得したのは史上初のこと。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』ももちろん、発表される以前から使用される音楽に注目が集まっていた。本作は過去2作とは異なり、カセットテープではなく、ピーターが前作終盤で手にした携帯音楽プレイヤーZuneで音楽を聴いているという設定。そのため、1970~80年代のヒット曲のみならず、19902000年代以降の楽曲も登場する。ガン監督が迷いに迷って選んだという楽曲がラインナップされているのだ。

そこでMOVIE WALKER PRESSでは、「ガーディアンズ」シリーズの大ファンであるのはもちろん、洋楽にも詳しい三者による鼎談を実施。マーベルファンを公言するタレントのIMALU、ロックバンド「OKAMOTO'S」のギタリスト、オカモトコウキ、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が膝を突き合わせ、劇中曲の魅力やガン監督の音楽センスについてそれぞれの想いを語った。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■「よほどこの曲を使いたかったんだろうなというのが伝わってきました」(コウキ)

オカモトコウキ(以下、コウキ)「いきなりRadioheadの『Creep』で始まったのには驚きました。『あれっ、なんだかいつもと違う?』という感じでしたよね」

宇野維正(以下、宇野)「ピーターは相変わらず古い音楽を聴いているけれど、ロケットZuneで新しい曲を聴いているんですよね」

コウキ「前2作は60~70年代の音楽が中心でしたが、今回はZuneでもっと最近の音楽も再生できるようになっています」

IMALU「『Creep』が発表されたのって90年代初期とか…でしたよね?」

コウキ「そうそう、たしか93年ですね。あの曲を1曲目に持ってきたことで、よほどこの曲を使いたかったんだろうなというのが伝わってきました。歌詞も直接的ですし、アコースティック・ヴァージョンだったのもよかったですね。哀愁が漂っていて、すごくシーンに合っていました」

宇野「ジェームズ・ガンの映画に登場するキャラクターって、『ガーディアンズ』シリーズも『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』にしてもいわゆる“負け犬”キャラで、それは音楽もそうなんですよ。一発屋とか、わりと忘れ去られ気味の曲を選んできて光を当てるという。今回も基本はそういう方向性なんだけど、Radioheadのこの曲は思いっきりそこから外れた感じですよね」

■「僕はThe Theの『This Is the Day』で、『監督の本音が出ちゃったな』という気がしたんですよ」(宇野)

コウキ「『ガーディアンズ』には1作目からハマったのですが、10CCの『I'm Not In Love』のすぐあとに、Raspberriesというアメリカのバンドの『Go All The Way』が流れてきたのがきっかけでもありました。Raspberriesは僕がめちゃくちゃ好きなバンドなのですが、映画のなかで曲が使われたことなんて、まずなくて。なおかつ、宇宙が舞台のSFというイメージもまったくなかったので、一番合ってなさそうな作品で使用されたことに驚きました(笑)」

宇野「1作目に続いて、本作のミッドクレジットシーンで再登場したRedboneにしても、使用された『Come and Get Your Love』以外の曲を『そもそも、みんな知っている?』って感じですよね(笑)」

コウキ「今回特に印象的だったのが、Beastie Boysの『No Sleep Till Brooklyn』でした。1作目でも“ガーディアンズ”のチームが敵組織へ戦いを挑もうとする、“さあ、ここから攻めるぞ”というシーンで、The Runawaysの『Cherry Bomb』が使われていましたが、思いっきマッチョな音楽ではなく、女性バンドを選んでいたのがおもしろいなと思って。The Runawaysを持ってきたのも、それに通じるちょっと外した選曲という感じで、監督の価値観が表れているような気がします」

宇野「『No Sleep Till Brooklyn』に関しては超有名曲だし作品とブルックリンとも関係ないしで、ジェームズ・ガンが単純に好きなんでしょうね。Beastie Boysはある時期までJ.J.エイブラムスのような交友関係のある人の映画以外には楽曲を使用させない方針だったんですけど、ここ数年、解禁されたんですよ。それですごく流行ってて、今年11月公開の『マーベルズ』の予告編でも『Intergalactic』が使用されてますね」

IMALU「そもそもラップ系って、あまりこのシリーズで使われていないですよね。なので、私も『No Sleep Till Brooklyn』は新鮮に感じました。カセットテープからZuneにアップデートされ、作品も登場人物も成長して、音楽も2000年代にきちゃっている。ラストでみんながパーティで踊っているシーンで流れるFlorence + The Machineの『Dog Days Are Over』は、特に感動的でした。しかも、フローレンス自身がそのシーンを観ながら泣いている動画がネットにアップされていて、それを観て私ももらい泣き(笑)」

宇野「それは美しい話ですね。僕はThe Theの『This Is the Day』で、『監督の本音が出ちゃったな』という気がしたんですよ。というのも、ボーカルのマット・ジョンソンの書く詞って、ちょっと日本でいうところのフォークシンガー的な感じがあって、ロックバンドをやりながらメロと歌詞がポイントみたいな、ちょっと珍しいタイプなんですよね。ジェームズ・ガンと世代が近いからわかるんですけど、高校生の時に自分で編集したカセットに入れていたんだけど、いま聴くと恥ずかしいような曲ってあるじゃないですか。あえてそれをさらけ出している感じがね。全体的にいろんなものをさらけ出しているこの作品のなかでも、特に象徴的に劇中で使われていました」

コウキ「日本人アーティスト、EHAMICの『小犬のカーニバル~小犬のワルツより~』も意外とハマっていましたよね」

宇野「ピーターたちが協力を求めて立ち寄ったカウンターアースの家族の家で、ラジオからこの曲が流れてきましたね。あれはアメリカに住んでいる日本の家族をモデルにしているみたいですから、その後の展開を思うとちょっと心がザワザワしますね」

■「私、いまでは普通のアライグマの映像を観ただけでも泣けちゃうんです(笑)」(IMALU)

IMALU「『~VOLUME 3』を観たあと、もう一度シリーズを観直したんですよ。そしたらさらにグッときて…改めていろんな発見もありました。1作目で(のちのガーディアンズの)みんなが警察に捕まるシーンで、モニターに映しだされるロケットのデータをよく見ると、“彼の仲間”というのが小さく記述されていたんです。そこにグルートに加えて、“カワウソライラ”の名前もあったんですよ。『こんなところにすでにライラの名前が!』って」

コウキ「すごい発見ですね!」

IMALU「最初から3作目までのストーリーができていたのかはわかりませんけど、ロケットがいつも『アライグマじゃねえ!』と怒っていたのも、今作を観るとさらにせつなくて…」

コウキ「僕もロケットが大好きになりました。悲しい過去があったと知るとなおさら」

宇野「『なんであんないつもイライラしているんだろう?』と思っていた人は多そうですよね」

コウキ「それはそれでコメディ的なおもしろさもあったけど、隠されたバックグラウンドを知ることで、やっとロケットというキャラクターを理解できた気がします」

IMALU「私、いまでは普通のアライグマの映像を観ただけでも泣けちゃうんです」

一同「(爆笑)」

IMALU「ロケットネビュラの関係も愛おしいですよね。ネビュラロケットが大好きなんですよ。ロケットが助かった時の彼女のリアクションがすごく心に残っています。そんなネビュラのことが、登場するたびにどんどん好きになりました。でも私はやっぱり、ドラックスが一番かな。彼が出てくると、いつも絶対笑わせてくれるので。勝手に笑いを期待しちゃっているところもありますが、私のツボなんです(笑)。それからベイビーグルートも大好き!何度観てもかわいいなって。グルートは作品ごとにビジュアルが違っているから、『今度のグルートはどうなっているんだろう?』みたいなおもしろさもあります」

■「ジェームズ・ガンは膨大な引き出しを持っていて、そこから適した楽曲を引っ張りだしてくる」(宇野)

コウキ「監督が変わらなかったのもよかったですよね。やはり選曲が絶妙です。それほど爆ヒットしたわけではないけれど、いい曲を選んでくる。特に60~70年代のパワーポップ、R&Bなど。そういう選曲がメチャクチャ好きですね」

IMALU「ジェームズ・ガン監督は、『俺ってすごく音楽を知ってるんだぜ』みたいな感じじゃないんですよね。上から目線とかじゃなくて、少年時代から好きで聴いてきた音楽をみんなに伝えたいというか。人柄を身近に感じます」

宇野「あれだけ音楽に詳しいと『ちょっと教えてやろうか』みたいになりそうだけど、そういうこともなく。本当に詳しい人って、ひけらかさないってことですよね。膨大な引き出しを持っていて、そこから適した楽曲を引っ張りだしてくる。彼は現在56歳で、今回はBeastie Boysとかも使っていますけど、北米のカルチャー状況でいうとギリギリ、ロックがユースカルチャーを代表していた世代。いわば、最後のロック世代ですね。あと付け加えると、ロック好きだと、ハードなほう、ラウドなほう、シリアスなほうに行ってしまいがちだけど、彼の場合はそうならず、テイストがバブルガム・ポップ(60年代後半から70年代初頭にかけて流行した明るいサウンド)系のロックなんですよ」

コウキ「一歩間違えれば、ダサいとされそうなところ」

宇野「だからこその懐の深さなんです」

IMALU「『ガーディアンズ』のファンには、音楽から入った人も多いですよね」

宇野「そうそう、監督のなかで先に使いたい音楽が決めてあって、そこからストーリーを作っているそうだし、今回も音楽へのこだわりを強く感じました。やはり最後というのもあって、音楽でもやりたいことをやりきった、という感じですよね。エンドロールのBruce Springsteenなんて、『とにかく『Badlands』をかけたかったんだろうな』と想像します(笑)」

コウキBruce Springsteenが流れてきて、僕もぶっ飛びました」

宇野「あの曲に歌われている“いまの世界がいかに荒涼としているか。でも、そこでなんとか生き抜かなければ”というメッセージは、完全に映画のストーリーとも重なっていますし、最後に観客に向けて“頑張っていこうぜ”とエールを送っているようでもあります。ほかの監督がポップミュージックを使うのとは全然違うレベルのことを、ジェームズ・ガンはやっているのだと思います」

IMALU「こうやって地球の音楽が広がっていくのも、いいですよね。ピーターから、だんだん宇宙へと!」

宇野「そう、地球のポップソングを宇宙が聴いている!」

取材・文/村上ひさし

洋楽にも詳しい「ガーディアンズ」シリーズの大ファン3人が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』を語り合う!/撮影/興梠真穂