河井克行元法務大臣の実刑が確定した「参院選大規模買収事件」の捜査をめぐり、東京地検特捜部の検事らが供述を誘導していたという報道を受けて、日弁連(小林元治会長)は8月2日、検察を強く批判するとともに、裁判所に対しても違法な捜査による証拠を排除するなど、その役割を果たすよう求める会長声明を出した。

●裁判所にも「役割」果たすよう求める

この問題は、2019年の参院選をめぐる大規模買収事件について、東京地検特捜部の検事らが、河井元法務大臣から現金を受け取った地元議員らの取り調べや証人テスト(裁判でおこなわれる法廷証言のリハーサル)をした際、不起訴や強制捜査を示唆することにより、検察に有利な証言を誘導していたとされるもの。

報道によると、買収のための資金だという認識があったと証言すれば不起訴にすると示唆したり、否認すれば強制捜査の可能性があることを示唆していたことが、録音データからわかったという。

日弁連の会長声明は「公判や供述調書において記憶と異なる供述をさせることは、虚偽の証拠の作出にほかならない」と指摘。「一連の検察官らの行為は、検察の描いた事件の構図に沿って有罪判決を獲得するために、検察官に与えられた訴追や強制捜査の権限を濫用して虚偽の証拠を作出したものであり、不正な検察権の行使であることは明らかである」と厳しく批判した。

裁判所に対しても、「違法な捜査により収集された証拠を排除し、または訴追を無効にすることが必要」として、その役割を果たすよう求めている。

●「全事件の取り調べ可視化を」

この日、東京・霞が関で記者会見を開いた小林会長は「捜査機関による捜査が不正におこなわれれば、国民の人生を狂わせることがあり、大変重大な問題と認識しています」と述べた。

検察による証拠の改ざんや、虚偽の自白による冤罪事件が相次いだことを受けて、2016年に取り調べの可視化(全過程の録画)の制度化を含む改正刑事訴訟法が成立している(2019年全面施行)。

しかし、取り調べの可視化が義務付けられたのは、裁判員裁判の対象事件と検察官独自捜査事件で身体拘束された容疑者に対する取り調べのみで、全体の3%とされる。

現在、法務省は識者による「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」を設置し、改正刑事訴訟法が施行されてから3年後の見直しを進める中、取り調べ可視化についても議論している。

この会見に同席した中村元弥副会長は「この議論をくつがえす重大な事態だと認識している」と話した。不正捜査の再発防止のために、日弁連は改めて、すべての事件の取り調べの録音・録画の義務付けを求めていくとしている。

河井元法相の買収事件で「供述誘導」報道、日弁連が検察批判「国民の人生が狂わされる」