名鉄7000系「パノラマカー」(画像:名古屋鉄道

新型鉄道車両にかける思いを会社の枠を超えて語り合う、ロマンスカーミュージアムの夏休み企画「車両開発トークショー」が2023年7月30日から始まりました。初回は、小田急電鉄運転車両部車両担当の鈴木剛志課長代理と、名古屋鉄道鉄道事業本部車両部の伊室英生車両課長が、小田急ロマンスカーや名鉄パノラマカーの開発秘話を明かしました。

パノラマカーとロマンスカー、共通のキーワードはもちろん「前面展望席」。「列車の先頭で前を見たい」という鉄道ファンや子どもたちの夢をかなえましたが、天井が低くなるなど2階建てならではの設計の苦労は尽きません。トークショーでは、細部にわたる車両屋のこだわりを披露。最後は、〝禁断(?)のあの話題〟も飛び出しました。

新幹線が名鉄の〝車両屋魂〟に着火?

小田急、相鉄、JR(相模線)の3線が集結する、海老名駅直結のロマンスカーミュージアム。夏の特別企画が名鉄、西武、京成の3社が週替わりで看板列車の魅力を発信する「名鉄・西武・京成Week」。

各社Weekの目玉が、車両開発トークショーです。トップバッターの名鉄は、「もっと乗りたくなる車両の魅力 ~展望席からミュージックホーンまで~」のテーマを設定。お二人が、①両社にとっての前面展望車、②設計の苦心、③車両改造、④ミュージックホーン――の4項目について語りました。

日本で初めての前面展望車は、名鉄の7000系電車「パノラマカー」です。デビューの1961年といえば、東海道新幹線開業の3年前。営業開始を目の前にした新幹線が、名鉄の〝車両屋魂〟に火を付けました。

「時速200キロ超のスピードには、どう考えてもかなわない。そこで、当社の車両陣営が考えたのが前面展望車でした。発想の原点は、イタリア鉄道の『セッテベッロ』。運転席を2階に、1階は前方を眺められる二階建ての展望席です」(伊室課長)。

名古屋を中心に、豊橋と岐阜(新岐阜)を結ぶ名鉄は都市間鉄道です。その一方で、犬山線のような観光路線もあり、パノラマカーには観光利用促進の狙いを込めました。

名鉄の前面展望車は、「パノラマカー」(7000系7500系)、「パノラマDX」(8800系)、「パノラマsuper」(1200系)の3形式(各形式には展望車のない編成もあります)。パノラマカーとパノラマDXは、既に現役を引退(保存車両を除く)。パノラマsuperが、60年以上におよぶ前面展望車の歴史を守り続けます。

前面展望車はツブしが効かない!?

歴代ロマンスカー車両が並ぶ小田急ロマンスカーミュージアム(写真:鉄道チャンネル編集部)

小田急前面展望車は、1963年登場の「NSE」(3100形)を手始めに、1980年の「LSE」(7000形)、1987年の「HiSE」(10000形)、2005年の「VSE」(50000形)、「GSE」(70000形)の5形式。VSEとGSEが現役ですが、VSEは定期運用を外れています。

名鉄と小田急に共通するのは、前面展望車の車両運用の難しさです。名鉄のパノラマsuper1988年、両端先頭車が展望車という4両編成で登場したのですが(当初の形式は1000系)、1991年には真ん中で2両ずつに分割。一般席1200系とペアを組んで6両に編成替えされました。伊室課長は、「特急政策の変更」と表現していました。

前面展望車・1200系は現在、都市間特急としての運用が中心です。今後も新しい展望車が続くかは未定ですが、名鉄の看板列車はやっぱりパノラマカー。多くのファンは、歴史の継続を望むことでしょう。

ロマンスカー、運転士の帽章を変える

小田急ロマンスカーの設計の苦心談を披露したのは鈴木課長代理。

1階の客席の上に2階の運転席が載るということは、簡単にいえば高さの取り合いです。運転席のスペース確保に苦労した小田急がひねり出したのが特急運転士の帽章の変更。帽子を浅くして、天井のスペースを生み出しました。

名鉄も、快適系向上に工夫します。1200系は前方5列に傾斜が付いて、前は低く、後は高く、階段状にシートが配置されます。後方の座席も、景色を見やすくするためです。

そういえばパノラマカーは、2階運転席への乗務方法も独特でした。車両外側のステップを上って運転席に乗り込む。ステップを上り下りする乗務員は、名鉄ファンにとって格好の被写体でした。

ミュージックホーンを鳴らしながらパノラマカーが犬山橋を渡る

続く話題はミュージックホーン。メロディーを奏でる電子音です。NSEの一代前、1957年に登場した小田急の「SE」(3000形)は、屋根前部のスピーカーから警報音を流していました。正式名称は「補助警報」でした。

小田急は線路脇で手を振る人があれば、ミュージックホーンを鳴らした時代もありましたが、騒音問題との兼ね合いで一時期は使用禁止に。現在は、運転士の判断に任されるそうです。

名鉄も、パノラマカーにミュージックホーンを採用しました。一時代前の〝ミュージックホーン名シーン〟といえば、犬山線犬山遊園―新鵜沼で木曽川を渡る犬山橋。2000年に鉄道専用橋が完成するまでの鉄道道路併用橋時代、パノラマカーはミュージックホーンを鳴らしながら橋を渡っていました。現在は小田急同様、使用は運転士に任されます。

ロマンスカーはパノラマカーのパクリ!?

トークショーのラストは相手会社への質問コーナー。伊室課長が発したのは、鉄道業界では禁断(?)とされるあの質問でした。

小田急ロマンスカーが、名鉄パノラマカーに似ているという話があることはご存じでしょうか?」

鈴木課長代理によると、会社としての正式回答はないものの、そうしたうわさがあることは多くの社員が認識するそう。もちろん偶然の一致なのですが、社内的には「そういわれれば、パノラマカーに似ているな」の〝都市伝説〟が語り継がれているそうです。

ミュージアムで涼しく過ごす

小田急×名鉄のトークショーは以上。ほかに、紹介しきれなかったパートが多くあったことをお詫びしたいと思います。

今後の予定は、小田急×西武「Laview×GSE ~最新特急車両開発秘話~」(8月5日)、小田急×京成「新しい速度領域への挑戦~AE形スカイライナー×ロマンスカー・SE(3000形)」(8月12日)で、各回11時と14時。入場チケットだけで参加できます

会場で話を聞いた親子連れは、「ここに来れば一日涼しく過ごせます」。ロマンスカーミュージアムは、ひょっとすると都会の避暑地なのかもしれませんね。

駅長の制服による子どもたちの撮影ブースやミュージックホーンの体験コーナーが用意されました
名鉄のスマートフォンアプリ「CentX」のPRコーナー。アプリをダウンロードすると記念品をプレゼントします

記事:上里夏生

※2023年8月4日10時33分……記事初出時、名鉄のご担当者様のお名前に間違いがありました。訂正してお詫びいたします(鉄道チャンネル編集部)